私に囁く誘惑のなのちゃん

なのなの

プロローグ

第1話 入学式

 暖かい風が靡き満開の桜から花びらが舞い落ちっている。そんな人生の節目となる日の中、私は鏡の前で立っていた。


 「大丈夫かな…?似合ってるよね」


 鏡の中に映し出されている少女の姿は少しばかしダボダボのセーラー服を身にまとっている。その姿はどこか幼く初々しく見える。


 私は今日新たな環境に一歩踏み入れる。そう今日は長いようで短い高校生活の始まりの日、入学式だ。


 「うん!誰がどう見ても女子高生…友達できるかな」


 私はこの日のために血が滲むほどの努力を重ねてきた。中学生時代の同級生に会わないようにわざわざ電車で一時間ぐらいかかる学校にしたし、この中学卒業してから入学式までの間色々と自分磨きだってしてきた。


 私は今日高校生デビューを果たし、華やかな高校生活を過ごすんだ。



 そう思っていた時期もありました。私は早々にクラスで一人になってしまいました。


 結局のところどんなに容姿をどうにかしたって根っこの部分は全くもって変わっているわけではない。根っこは思いっきり暗くて陰キャ、そんな私に話しかけることができるわけもなく。


 周りは意気揚々と会話を繰り広げているのに対し私は一人座って固まっていた。楽しそうに会話している声が私の耳に入ってくる。その声が頭に纏わりついているかのように頭の中で響き渡る。


 「どうして私だけ・・・私だけ・・・?」


 私はふと疑問を感じゆっくりと隣の方に視線を向ける。そこには私の顔をまじまじと見ながら小悪魔的な笑みを浮かべている子がいた。髪の長さが肩ぐらいで揃えられていて手入れがちゃんとされている。


 「か、かわいい・・・」


 「へぇ、私のこと可愛いって思うんだ〜?」


 「・・・!?」


 先程の小悪魔的な表情に変わりはないが頬が熱を帯びているかのように赤く染まっている。


 「私は篠崎なのっていうの〜」


 「千歳ましろです・・・?」


 何故か語尾にハテナをつけてしまった。普段から人と会話をしてこなかったから喋り方とか忘れてしまったのかもしれない。


 「よろしくね?ましろちゃん」


 「う、うん…よろしく篠崎さん」


 私は内心戸惑いの感情が渦巻いているが何より今家族以外の人とこうして話せているこの状況に楽しさを感じている。


 「ましろちゃんこの後予定とかあったりする?」


 「特になかったはずです…このまま帰ろうと思っていたので」


 「ふーん…そうなんだ?じゃあさ、私と一緒に帰らない?」


 私の心臓が今までに感じたことのないほどドクンドクンと音律を刻んでいる。初めて帰りのお誘いをされておかしくなっているのかもしれない。しかし、こんな可愛い子の隣を歩いてもいいのだろうか。


 「……」


 「無言ってことは肯定だよね!ほら行くよ」


 「…ぇえっ!?あっ、ちょっ!」


 私は強引に篠崎さんに連れて行かれ教室をあとにする。初めてがこんな強引でいいのかなと思いながらも身体を委ねる。


 「ましろちゃんは一体何を考えてるのかな〜?私別にやましいことしようとしてるわけじゃないけど」


 「えっ…?私そんなこと考えたことなんてありません…!」


 「ましろちゃん顔近いよ?」


 否定するのに必死でいつの間にか顔が近づいてしまった。私は慌てて篠崎さんから距離をとる。しかし、篠崎さんは距離を詰めてくる。


 「…ドキドキしちゃうな〜?」


 「ひゃっ…!」


 あっという間に先程と同じくらいの距離まで詰められ耳元でそう囁かれる。甘く誘惑しているかのようなその言葉に蕩けそうになる。そんな私を見ながら小悪魔的な表情を浮かべている彼女は何か思いついたかのような仕草をしている。


 「それよりましろちゃん帰ろっか」


 「ひゃ、ひゃいっ!」


 私は急いで靴に履き替え先に歩く篠崎さんの後を追った。








 ただただ家に帰るっていう行為なのになぜだか楽しさを感じる。それに視界がきらびやかに見える。中学生時代のあのどんよりとしていて暗かったあの帰宅路ではない。

 

 でも、一つ言いたいことがあります。


 「篠崎さん…距離近くないですか?」


 「これくらい普通だよ…?」


 肩と肩がぶつかり合いそうになるくらい距離が近い。これぐらいのことは普通のことなのかもしれないが私にとっては普通のことではない。何せ対人戦には全然慣れていないのだから。


 「慣れてないんだぁ〜?」


 篠崎さんは小悪魔的な表情を浮かべながらからかってくる。会話と言うものに全くもって慣れていないため返す言葉が思いつかない。


 こういう時のために会話の練習とかしとけばよかったのかな。でも、会話の練習をするための相手なんていないし。どちにしろこうなる運命は目に見えてたかも。


 「そうだ…!連絡先交換しよ?」


 「…!い、いいんですか……?う、うれしいです!」


 今の今まで一度も連絡先を聞かれたことも交換したこともなかったため嬉しさのあまり笑顔が溢れ出てしまう。


 「私の初めて貰ってください…!」


 私はそう言いながらスマホを篠崎さんに差し出す。しかし、篠崎さんは毛深しめな表情でこちらを見てくる。


 「……ましろちゃん、意味わかって言ってる?」


 「……?どういう意味ですか…」


 篠崎さんにそう言われ考えてみるもよくわからない。篠崎さんは私の様子を見て察したのかため息をついているが次の瞬間不敵な笑みを浮かべている。その笑みはどこかゾッとするようなそんな感じを味あわせてくる。


 「…明日が楽しみだね?」


 「……んっ!」


 篠崎さんは私の耳にそう囁くと私をおいて先に帰ってしまった。



 


 


 


 


 

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