第三章 世界を裏切ってでも護りたいモノ

第4話 光

第三章 世界を裏切ってでも護りたいモノ


一、 パトリックの決断


 それは突如訪れた変化だった。魔法使いと精霊の契約が一方的に断たれ、分断された。精霊界が、滅ぼされたらしい、という噂が流れた。

 厳密にいうと、精霊界は滅ぼされたというよりかは、封印されたらしいぞ、という声も聞かれた。いくつかの情報が飛び交った。どれがデマで、どれが本当かはわからない。だが、確かなのは、今まで使えていた精霊魔法が、一切使えなくなり、シャイン・ソードでしか戦えなくなった、ということであった。

「冥王ハデスって、あの神話みたいな存在の、死霊の国をすべる伝説の王か!?」

「本当にいるのか、そんな人?」

「なんで今更、世界アラシュアが滅ぼされるんだ?」

「俺らって、死んだら死霊の国に行くわけ?天国じゃなくて?」

「その死霊の国が攻めてくるって、死者が敵になるってワケ??」

「俺らの世界、滅びるの?」

 誰もが精霊魔法を使えなくなったことにおびえ、冥王からの宣戦布告におびえた。

 それにいち早く声をあげ、対策を練ったのは、人間とは基本交流しないという、イブハールの住人、エルフたちだった。

「精霊界との絆を分断し、精霊界を封印し、魔法使いの戦力を大きくそぎ、世界をわがものにせんとするやからが現れました。以前から言われていたことで、我々エルフの一族も見張っていました。3年前に亡くなった、偉大なる賢者・クロード・グラニエ大魔法使いから、忠告を受けていたからです。彼は、冥王の動きに気づき、自身の後継者を探しておられました。我々エルフの、星々の神々から加護を受けし魔法は、冥王ハデスにも邪魔できなかったらしく、加護は続いているままです。つまり、我々エルフは戦えますし、我々から、世界のために戦う意志のある人間には、特別に星々の神々の加護を授けようと思っています。今まで、イブハールの我々エルフは、世界のバランスを守るため、人間には基本関わらない姿勢をとってきましたが、冥王が本気でこの世界を滅ぼそうとしている今、立ち上がります。世界を守る意志のある、戦う意志のある者は、以下の方法で我々とコンタクトをとってください。世界の各地で、我々が加護を授けに分散します。我々イブハールのエルフの軍勢だけで戦っても、勝てないと悟ったからです」

 というような投書が、役人から発表され、おふれとして出された。新聞にも大きく取り上げられた。

「エルフはこの件に関して、深く知っているらしい。大魔法使い・クロード・グラニエっていえば、俺も風のうわさに聞いたことあるが、その人が関わっているんだろうか」

「調査でもしてたんじゃないのか」

「とにかく、魔法が使えず、戦えない非戦闘員、一般市民は、敵のこないところへ、避難しないと!!だが、いったいどこが安全で、どこが安全じゃないんだ?」

 皆が、口々に疎開の準備を始め、戦えない者は、自然と町を離れ、山奥へと逃げたりした。

 エルフにも、冥王が仕掛けてこない限り、詳細は分からない、とのことだった。

「パトリック・・・・」と、スノーホワイトがパトリックに寄り添い、不安げな表情を浮かべる。

「安心して、スノーホワイト、俺にも考えが一つある」と、、パトリック。

 それを横目で見守るローレライ。

「僕たちはギルドを抜けることにしたよ、スノーホワイト、」と、ローレライがテレージアにそっと言った。

「えっ!?こんな大事な時に!?」

 驚くスノーホワイトをよそに、パトリックとローレライが顔を見合わせる。

「ギルドに入ったままだと、世界のために、一般市民のために僕らは戦うことになる。それもいい。だが、僕らは、そうである前に、二人とも、君の夫だ!そう決めたのでね!一般市民のために駆り出され戦うと、君をおそらく、守れない。確実に君を守りたい。あの時、あの事故の任務の時、君を守れなかったから。だから、僕らはギルドを抜ける」と、ローレライが言ってのけた。

「うむ、二人で昨晩決めたことだ。俺たちは、世界を裏切ってでも、君を守ると決めた」

 そう言って、パトリックが、ふっと悲しそうに微笑み、スノーホワイトを抱きしめた。

 ローレライも、うしろからスノーホワイトを抱きしめる。

「世界を裏切ってでも、な。俺らは、君の夫だ」

 パトリックが涙を浮かべる。

「君を一度失いかけた。それでも、ローレライのおかげで、君はこうして俺らのもとに戻ってきてくれた。だから、もう失わない。俺には、君を置いて、一般市民を守る任務に就く気はない。ギルドのNO.1エースのやるべき考え方ではないのは分かっている。だが、それでも、俺は君の夫だ」

「パトリック・・・・ローレライ……」

 スノーホワイトも泣いている。過去を思い出しているのであろうか。

「安心して、プラチナホワイト、僕らは君の夫、騎士(ナイト)だから」

 ギルドを抜ける日、ローレライとパトリックは当然みんなの非難をあびるところであろう。だが、わけを聞いた団員は、みんな押し黙り、

「俺らは、一度、仲間だったスノーホワイトを見捨てたレベルだ。うん、エース、ここはスノーホワイトを、守ってやってくれ。俺らの、プラチナホワイトを。頼む」

 と、団員の一人が言った。

「一般市民のことは俺等に任せてください、エース!その代わり、世界決戦が片付いて、また世の中が落ち着いて元通りになったら、いつでも聖フェーメ団に戻ってきてくださいよ!!」という者も。

 パトリックやローレライに限らず、家族を守りたい、という理由でギルドを抜ける団員もわりといた。だからか、ローレライとパトリックも、すんなりと受け入れてもらえた。

 世界は二つに割れていた。自分の家族を優先し、疎開し逃げる者と、自身の家族は他の人達と一緒にかくまってもらい、世界のために戦う者とに。

 メルバーンの首都・ファレルナの町近辺で、エルフからの星の加護を与える集会所のようなものができた。まずは優先して、戦えない一般市民を守る者への加護を与える期間が、5日間もうけられた。なるべく、たくさんの人に加護を与えるのが目的だ。

 その後、自分の家族を守る者への加護を与える期間が、14日間、2週間もうけられる予定だった。

 メルバーンにも比較的魔法使いはいるので、国内に数か所、集会所がエルフによって開かれることは、パトリックたちも知っていた。

 その日程に合わせ、パトリックたちも加護を受けたのち、疎開する段取りでいたのだが……

 エルフのその不穏な動きを察知した冥王ハデスは、すぐさま行動を開始した。

 戦えない一般市民への加護の授けを開始した二日目、世界に異変が訪れた。

 太陽は薄暗い雲で覆われ、雨の日が多くなった。さらに、地下から武装したアンデッドが湧きだし、人々を襲いだした、という報告例がエルフや元魔法使いの元に寄せられた。

「急がなければならない」、とエルフの王が言った。

「このままでは、世界はハデスのもと、冥王のもとに闇に包まれ、生と死の逆転が起き、生きる者すべてが死の世界にいくだろう」と言われていた。

 一日目に加護を受けた者たち数百人のうちの一部が、集会所を取り囲み、一部は人の多い市街地に行き、アンデッドから人々を守った。ハデスは、配下に72人の悪魔を持ち、それぞれが1000体以上のアンデッドを従えているという。

 メルバーンの市街地も、ひとけがさっぱりなくなった。大勢の者が、町中に出没するアンデッドを恐れ、町の外へ逃げ出した。

 魔法がもともと使えない非戦闘市民が、武器をもつアンデッドや、それを束ねる悪魔に、かなうはずがないのである。

 エルフの人口は1万人もいない、と言われていた。うちの半分は女性であるし、子供だっている。全員が戦うという種族でもない。ただし、エルフの戦わない人であっても、エルフであるならば星々の加護を人々に授けることはできるらしい。

 エルフの軍隊も出動していたが、アンデッドの被害は世界中におよび、72体の悪魔も分散していた。これでは、エルフにはどうしようもない。ハデスのいる死霊の国への道も、今は閉ざされていた。

「どうする、パトリック?」と、市街地の外へとりあえず逃げ出した3人で、ローレライが言った。市街地は、人々をとってその生命エネルギーをとってくらうアンデッドであふれかえり、とてもじゃないが、いられる場所ではなかった。

 ローレライもパトリックも、まだ星々の加護を受けておらず、シャイン・ソードでしか戦えない状態だ。

 それはスノーホワイトも同じで、ただ、智(ケル)天使(ビム)はハデスから邪魔されていなかったので、医療魔術は使えた。

 3人は、アンデッドを斬り倒して進みながら、市街地を出て、帝国側へと逃げた。帝国になら、加護を授けるエルフがたくさんいる(メルバーンより)と聞いたからである。帝国には、魔法使いの人員が多く、自然とエルフたちも、世界のために戦う同士を求め、帝国に人員をわりと割いているらしい。

「安心しなさい、」とエルフの誰かが新聞にメッセージを載せ続けた。

「今、賢者クロード・グラニエに選ばれし跡継ぎ・後継者であるランスロットという者、そしてガーレフ皇国出身のアッシュ・ディ・ルーナという二人を中心に、おおもとである冥王をたたきに行っている者たちがいる。その者たちを信じ、その者たちの持つ二つの伝説の剣・攻守の二つの剣を信じ、我々は耐え忍ぶのだ。なるべく、一般市民を守るのだ」と、メッセージを送り続けた。

 スノーホワイトは、魔法学院出身なので、普通の女性よりは移動などには慣れていた。ただ、それは精霊魔法が使えて、その術を他の魔法使いにかけてもらっていた時だ。今はそんなに普通の女性と変わらない。3人の歩くペースは、自然と鈍っていた。

 店も宿屋も閉まっていた。世界は暗黒に包まれつつあった。

「シャイン・ソードじゃあ、思うように戦いがいかないな」と、ローレライは市街地での戦いを思い出して、苦笑していった。

「一気にあんなザコ、叩き潰して薙ぎ払いたいのだが、1対1を続けるのも、疲れるね」

「まったくだ」と、パトリック。

 帝国に向かう道中、3人はメルバーンの中であったのだが、ある町で、スノーホワイトが、もう歩けない、と言い出したので、(馬車は予約でいっぱいで、予約をとることができなかった)、少し休憩することにした。

「大丈夫、スノーホワイト?」と、ローレライが彼女をおぶり、近くの木陰に寄せる。

「ここで隠れていよう。君の足の捻挫がなおるまで」

「俺がおぶっていってもいいが・・・・」と、パトリック。

「だめだ、万が一アンデッドや悪魔に接触した場合、危険すぎる。僕らの最終目標は、やつらのねっこをたたくことじゃない。それは、ランスロットとかいう、どこかの魔法使いに任せるとして、この世界決戦中、死なないことだ。ちょっと休もう」と、ローレライ。

 その夜、見張りにたっていたパトリックの耳に、ギシギシ、カコカコ……という耳障りな音が聞こえた。

「おい、起きろ、ローレライ!」と、気配を察したパトリックが言う。

「においがする……強い魔力を持った、人間の、うまそうな匂い」と言って、アンデッドの兵士が、5~6体現れた。

 骸骨の首を変な方向にかくっと曲がらせて、ニタニタと笑い、

「うまそう。食ってやろう」と言い出す。

「今夜はむこうで二人の魔法使いを食ったからな。まだ食い足りない」

 情報では、アンデッドは食べた人間の生命エネルギー(当然、魔力も含まれる)を取り込むという。

 パトリックとローレライは、スノーホワイトを起こし、シャイン・ソードを出して臨戦態勢をとった。

「彼女には指一本触れさせないよ!」と、ローレライがスノーホワイトの前に立ちはだかって言う。 

 恐怖におびえたスノーホワイトも、一応シャイン・ソードを座ったまま繰り出すが・・・・・

「スノーホワイト、君は万が一僕らのうち片方が傷を負ったら、その治療を頼む!基本、自衛以外では戦っちゃだめだ!足のことがある」と、ローレライ。

 アンデッドたちが一斉にケタケタ笑いながら襲い掛かってきたので、背中合わせに、パトリックとローレライが斬りかかる。

 見事な斬り筋で、二人がアンデッドの剣に応戦する。

 しかし、急所をなんど斬っても、パワーアップしているアンデッドには致命傷には至らないらしい。

 ある程度、変な角度でカクカク言いながら、痛みを感じないアンデッドたちが襲い掛かってくる。

 10分ほどで、二人はようやく5~6体のアンデッドを倒しきった。彼らの魔力が多く、シャイン・ソードの切れ味が通常の魔法使いより強いからだ。

 パトリックは片腕に少し傷を負っていた。

 ぐさっとシャイン・ソードを地にさし、パトリックがそれにもたれかかり、、傷をかばう。

 敵はもういない。

 スノーホワイトが、痛む足をひきずって近寄り、急いで彼の傷を治す。

 その時、倒したと思われたアンデッドの一体が、最後のあがきで、ピューーっと甲高い、耳をつんざくような口笛を吹いた。 

 気づいたローレライが、ちっと言って、、シャイン・ソードでとどめを刺す。

「まだ生きてやがったか・・・・!!」と、ローレライ。

「増援が来るぞ!」と、ローレライが剣を構え、四方を見渡し、臨戦態勢をとる。

 闇の中から、不気味な足音が響き渡り、30体ほどのアンデッドの集団がぼこぼこと地面からわきおこり、ぞろぞろとやってくる。

(――っ!!ここまでか・・・・!?)と、一瞬心の中で弱音を吐いたローレライだったが、突如、銀青色の光線が闇を貫き、アンデッドの数体を切り裂いた。

「?誰だ?」と、ローレライ。

「先輩っ!!」と、剣を持ったロキ・オードランが躍り出た。

「ロキ君!!なぜ君が?」と、治療を受けていたパトリックが振り返って真っ青になる。

「安心してください、先輩!!」と言って、ロキ・オードランが、剣を再び振りかざし、「ミトラ・ミトラス・グレイン・・・・・」と叫びながら、技を次々と繰り出す。

 ローレライは、加勢しようかと思い悩んだが、逆に狙いを定める邪魔になると判断し、パトリックとスノーホワイトのもとに駆け寄り、二人を守ることにした。

 エルフから授かった、星々の神からの加護を受けた攻撃は、邪悪なるアンデッドにはてきめんらしい。次々と、焼き払われていく。そして、アンデッドは、一瞬でせん滅され、シュッとその光に消えていく。

「30体ほどでしたし、これでいいでしょう」と、ロキが剣を振り直し、シュッと消す。

「加護を受ければ、この後の最終奥義まで使いこなせるそうです。それより、ローレライ先輩、パトリック先輩、ご無事で何よりです!!」

「うむ、ロキ君、助かった!だが、この力は一体・・・・・?エルフの加護のおかげとはいえ、すごいな・・・・」

「アンデッドに対しては効果というか、相性はいいそうです。ところで、先輩方が気になり、心配だったので、追ってきましたが、このエルフを連れてきました!」

 と言って、後ろから現れたのは、2頭の馬と、そのうち1頭に乗ったエルフらしき長耳の青年だった。

「ったく、なんなんだ、いったい!」と言って、不満そうな、いらだったエルフが現れた。

「ロキ君、君は加護を受けていたのだな!ということは、君は世界を守るために志願したのだな」

「はい、先輩!幸いにも、申し込むのが早くて、加護を受けるのがギリギリ間に合いました。帆座(ベラともいう)の加護を受けています。先輩、俺は、世界のために戦うと決めたので、そろそろここを去らねばなりませんが、その前に、この連れてきたエルフから、加護を受けてください!!危険です!」

「うむ、ありがとう、ロキ君!恩に着る!」と、パトリック。傷は、すっかり癒えている。

「おい、てめぇ」と、そのエルフが言った。

「お前はどうやら身内を守る方を選んだ方らしいが、とっとと特別に加護を授けてやるから・・・・」 

 と言って、そのエルフが馬からおり、すたすたとパトリックとローレライに近づく。その最中に、アンデッドにおびえていたスノーホワイトの姿が目に入り、ぴたりと動きを止めた。足をねんざしていて、ひざまずいている姿だったが、その金髪に、彼は一瞬躊躇した。

「なるほどな、女か」と、そのエルフが吐き捨てるように言う。

「お前らの彼女か?」と、エルフ。

「かつてはそうだった。今は、俺たち二人の、妻だ」と、ローレライがスノーホワイトをかばうようにして立って言う。

「君の名前は、イブハールのエルフさん?」

「俺の名前はシュラ。それより、さっさと加護を授けるぞ。俺たちも、馬で他の奴らに加護を与えに行く途中だから。この同伴している人間・ロキ君に強く言われて、まずお前らを追ってきたところだ」

「うん、わかった、ありがとう。素直に礼を言う。では、頼む」と、ローレライ。

「なら、始めるぞ」と言って、シュラが、「まずお前からだ、」とローレライを見やる。

「お前、元ギルドの人間だと、ロキ君から聞いている。相違ないな?」

「ああ、そうだよ」

「分かった」と言って、シュラが儀式を始める。

「ミトラ、ミトラス、グレイン……アール・ヘル・ペト(天の高みへと)セブ・ナー・ウル・クアーフ(我は偉大なる者たちの傍らを歩きたり)アム・クアーフ・マー・セブ・セン(げに彼等が近づいていくときに)ネチェル・プイ・アー・ア・フ(神のみもとへと。力あり、燦々として、) アペル・ネブ(あらゆるものの総和なる)」

 シュラが古代文字を呟くにつれ、周りの空気がだんだんと光を帯び、青い炎に包まれていくのが、全員に分かった。

 その後、シュラが、小瓶に入った聖水をローレライの額にかけた。

 ローレライの意識が一瞬薄れ、気が付いた時には……

 ローレライは、鷲座の神と対峙していた。

 会話を終え、ローレライの意識が戻ったときには、傍らに心配そなスノーホワイトと、シュラから加護を受けているパトリックの姿がぼんやりと見えた。

「パトリック……」と、ローレライが、儀式を終えたパトリックに話しかける。

「ローレライ……」

「君は、何座の加護だった?僕は、鷲座の加護を受けた」

「俺は・・・・俺は、海蛇座だ」

「どちらも強力な神々の加護だ、感謝しな、」とシュラが言った。

「おい、ロキ君、あの話しなくていいのか」と、シュラ。

「そ、そうでした!」と、ロキ・オードランが慌てて言う。

「あの、皆さん!というか、先輩方!よければ、僕と一緒に、近くにある住民の避難シェルターになっている村に行きませんか?自分は、そこを単身で守る任務を負っています」


二、 避難シェルターの村


「ロキ君が一人で!?」と、パトリックが立ち上がって言う。

「そんな、無茶な!村を一人で守るのか!?君がか!?失礼だが・・…!!」

「ええ、先輩、それが俺に課せられた任務です。小規模な村ですが、そこにスノーホワイト先輩をかくまい、できれば、ローレライ先輩と、パトリック先輩にも、一緒に守っていただけると、心強いのですが」

「……うむ、分かった、ロキ君、ちょっと待ってくれるか」 

 そう言って、ローレライとパトリックが少し話しあう。

「当初の予定とは違うが、いいよな、ローレライ?」

(正直、食べ物もいつまでもつかわからないし……)と、ローレライは思った。

「うん、それで行こう、パトリック」

 二人が振り返り、ロキ・オードランに返事をしようとした時には、すでにシュラの姿はなかった。次の別の者へ、馬を駆り、加護を授けに行ったのだろう。

「ロキ君、その任務、我々にも手伝わせてほしい」

「ありがとうございます、先輩!!」と、ロキが笑顔を見せる。

「僕は馬でここまで来ました。馬は1頭しかありませんが、この馬には、スノーホワイト先輩が足をくじいているようですし、彼女を乗せましょう。僕らは、徒歩で!」

「うん、わかった、ロキ君!恩に着る」と、ローレライ。

 というわけで、ロキ・オードランを加えた一行4人は、徒歩と馬の旅で、近くの村へと向かった。

 その村には100名ほどの住民が集まっていた。元から住んでいた住民40名に加え、外から避難場所を求めてやってきた住民60名が集まってできた小集落だ。

「スノーホワイト、君はここに」と、パトリックが言った。

「見張りの配置だが」と、パトリックが言った。

「ローレライ、お前はロキ君と一緒に前線で戦ってもらう。お前は一度、そばにいながらスノーホワイトを守れなかった。俺はスノーホワイトのそばを離れるつもりはない」と、パトリックが瞳に炎を宿らして言う。

「……分かった、パトリック。スノーホワイトと、住民の皆さんを、頼む」と、ローレライ。

「スノーホワイト、」とパトリックが彼女の手を取る。

「俺は君のそばを離れない。ずっとそばにいる。安心してほしい」

「――ありがとう、パトリック」

「やれやれ、二人の世界だね」と、ローレライ。

「ロキ君、君はローレライと、二人でアンデッドに戦えそうか。無理を言ってすまない。先輩として情けないが・・・・・」

「安心してください、先輩、俺も、俺等で戦っているとき、住民たちの手薄な警備に困っていたところです。一人で戦う予定でしたし、これで結構です。これでも、パトリック先輩の後輩です。ちょっとやそっとのことじゃあ、やられません。やらせません!!」

「うむ、ありがとう、ロキ君、立派に頼もしく成長したな!いざとなったら、ローレライ、俺を呼べ」

「分かってるよ、パトリック」と、ローレライがふっと笑いながら言う。

「エルフの加護さえあれば、僕だって、アンデッドごとき、一匹たりとも、そっちのパトリックの領域には、行かせないよ!」

「うむ……」

 そういうことで、住民から大歓迎を受けた一行は、それぞれが警備体制にはいることになった。

 スノーホワイトは、パトリックから説得を受け、「シャイン・ソードじゃあ戦えないだろうし、君には戦ってほしくない。もう、ギルドは退職されたのだから」ということで、一般人とともに、シェルターとなる広い小屋のような家の中で、待機することになった。主に、他の女性たちと一緒になり、みんなに食料を配る係になった。

 それから3か月ほど、何の音沙汰もなかったが、のちに、アンデッドにかぎつけられ、200体ほどのアンデッドの集団が、シェルターを襲う事態があった。

 それは、ロキ・オードランとローレライが軽く撃退してみせた。

 二人とも、傷一つ負わないレベルだった。

「甘いよ」と、ローレライが冷たい瞳で、刀を肩にかつぎ、アンデッドの死骸の上に足を置いて呟いた。

「僕らだって、ただ加護を受けているだけじゃない。剣術の基本から応用まで、学校で習っているからね」


三、 天使よ、お前のいる所にこそ愛と情けはあるものを。お前のいるところにこそ自然もあるものを。


「外はどうなっているんでしょうか・・・・今の近況が気になりますね、」と、ロキ・オードランが、シェルターにやってきて半年後、パトリックと話していた。ローレライは、外の見張りに出ている。

「うむ、ロキ君の元に届く、鳥を使った報告書だけでは、いまいち戦況が分からんな」と、パトリック。

 一応、ギルドの所属し、世界のためにたたかっていたロキのもとには、ギルドやエルフからの報告書が、毎月不定期に届けられていた。中には、悪魔に襲われ、全員死亡した避難シェルター(村)も数か所あるらしく、厳しい状況である、と書かれていた。

 悪魔の対処には、ずいじ加護を授け終わったエルフが向かっている、とも書かれていた。

「この村にも、いつ悪魔が来るとも限らんな」と、パトリックが考え込んで言う。

「ロキ君、基本、戦闘は君とローレライに任せているが、アンデッドだけでなく、悪魔が来た場合は、私にも知らせてほしい。最悪、私も戦いに加わる。全員犬死よりはましだ」

「分かりました、先輩。でも、できるだけ、スノーホワイト先輩や、住民たちのそばにいてあげてください。悪魔と戦っている隙に、アンデッドたちに襲われたら、元も子もありませんから」

「うむ、わかっている、ロキ君」

「はい、先輩」

「ん?この音色は・・・・・」と、パトリック。

 スノーホワイトが、いつものように、小型ハープで音楽を奏でているのだ。住人の数人も、それを見学している。

「スノーホワイト、これは・・・・・」

「リラの民族音楽よ、パトリック。50曲ぐらいあるの」と、スノーホワイトが、譜面台と楽譜を見ながら、演奏しながら言う。

「君のハープは癒されるよ、スノーホワイト」

「ありがとう、パトリック」

 そんな静かな時間もあったりした。

 時は来た。シェルターに来てから8か月後、途中で3回ほどアンデッドの大群が来ていたのだが、ついに、悪魔が降臨したのだ。

「先輩!」と、見張りに当たっていたロキ・オードランが、真夜中、パトリックに、空間魔法で、耳元を抑えながら告げる。

「悪魔です!!アンデッドではありません、悪魔が2体来てます!」

「パトリック!」と、ローレライも空間魔法でパトリックに合図を送る。

「悪いが、ロキ君ではだめだろう。ロキ君をそっちに送るから、パトリック、君は代わりに僕と一緒に悪魔と戦ってくれ!おそらく、やつらの使う死生術の妖術というか、妖気というか、相当の奴らが来るはずだ!頼む」

「ウム、分かった!」と、パトリック。

「ロキ君、いそいでこちらへ!」とパトリック。

「スノーホワイト、」と、パトリックが彼女を起こす。

 事の次第を説明したうえで、

「住民たちをみんな起こして、説明を頼む、スノーホワイト。俺は、今からローレライと、悪魔2体と戦ってくる。必ず、死んでも君を守る。二度と会えないかもしれないが、」と言って、パトリックはスノーホワイトに深いキスをした。

「愛している、スノーホワイト」と言って、パトリックは立ち上がり、小屋の外へ駆けて行った。

「パトリック!!」と、スノーホワイトが金切声をあげる。思わず彼に向かって手を伸ばすが、届かない。

 入れ替わるように、血を滴らせたロキ・オードランが小屋に入ってきた。

「ここにアンデッドが来ても、自分が守ります!安心して下さい、皆さん、それから、スノーホワイト先輩!!」と、片手を負傷したロキが微笑んで言う。

「ロキ君!」と言って、スノーホワイトがすぐにかけより、医療魔術を使う。

「ありがとうございます、先輩。でも、じきにアンデッドがここにも来ます。治療している暇はありません。俺が戦うんで、先輩は他の住民の皆さんに、ここから出ないように、言って下さい」

「分かった、ロキ君・・・・・!!」

 そう言って、スノーホワイトは、小屋から出ていくロキ・オードランの姿を眺めるしかできなかった。

 そのころ、村の入り口の手前、前線では、ローレライとパトリックが、2体の悪魔と対峙していた。

「よう、二人の魔法使い。俺はお前らを食いに来た悪魔だ」

「なに!?」と、パトリック。悪魔は、雄牛と人間を合体させたような姿をしている。

「正確に言えば、俺がお前らを倒し、お前らをアンデッドに食わせ、アンデッドを強化するために来た。この村に、強力な魔力を持つ魔法使いが2、3匹いると、報告を受けたのでな!我が名はグイソンという」

「私はシトリー」と、美しい男性姿の悪魔が言った。

「私も悪魔の一人です。グイソン様の補佐をいたします」

「ふーん、君らが悪魔ってワケ?僕はローレライ、言っとくけど、簡単にやられる気はないよ?」と言いつつ、ローレライは、相手から放たれる妖力の強さに、少し冷や汗をかいていた。

「住民の方には、アンデッドの大群を送り込んでいる」と、グイソンがにやりと微笑んで言った。

「若造一人で守り切れるかな?お前ら二人が倒れるのが早いか、若造が守り切れなくて体力の限界が来るのが早いか、どっちかな?いずれにせよ、お前ら、全員アンデッドに食わせてやる」

「……パトリック、話をしていても無駄だ、行くよ!」と、ローレライが目で合図する。

「ウム!」

 ローレライが、冷たい瞳で敵を見据え、一気に、星々の加護を受けたシャイン・ソードで斬りかかる。

(鷲座の加護には特殊能力もある。)と、シュラが説明していた時の記憶が、ローレライの脳裏によみがえる。

(呪文をこう唱えれば、空中ジャンプして空をとび、技を出せる。人間の魔法使いが風の精霊でよくやる、俊足ってやつと似ている)と、シュラは言っていた。

(ちょうどいい、)と、ローレライは勝手に名付けた「鷲の俊足!」と言って、空中に足場を剣で一振りして作り、その足場をジャンプしてグイソンの頭上をとび、背後を取る。

「悪いけど、そういうやつって、スピードは鈍いよね?」と、ローレライが言って、笑わないまま、「ミトラ・ミトラス・グレイン・鷲座(アクイラ)!」と言って、群青色の光線で斬りかかる。狙うはグイソンの首あたりだ。

 グイソンは、右手に持っていた大きなナイフより大きな刀で、ローレライの素早い動きに反応し、キィンと、音をならし、ローレライの刀を受け止めた。

「悪いがな、小僧」と、グイソン。

「エルフでもない、たかが星の神々の加護を受けた人間の魔法使いごときに、私が負けるとでも?」

 そう言って、二人の戦いは続いた。グイソンは、刀と、かぎづめのような鋭い爪で、ローレライに襲い掛かる。

 猛獣の唸り声をあげながら。

 一方のパトリックは、シトリーが繰り出す光の虎や光のグリフォンに手間取っていた。

 シトリーは、どうやら猛獣使い、と言ったところか。

 パトリックも、海蛇座の加護を受け、応戦するが、敵の出す幻獣を防ぐので手一杯だ。シトリーはニコニコ笑っている。

(このままだと、ロキ君が持つかどうか、)と、パトリックがちらりと後ろを振り返り、アンデッドの大群と対峙しているロキ・オードランの姿を見ながら思った。

(さっさと片付けねば……!!)パトリックの瞳の炎が燃える。

 一方のロキ・オードランは、グイソンからの傷を負った左手をかばいながら、利き腕の右手一本で戦い続けていた。

「おりゃあっ・・・・・!」と言って、薙ぎ払うように、アンデッドの集団を銀青色の炎で焼き尽くしていく。

(まだまだ余裕だが、)と、ロキは思った。

(このままだと、腕が上がらなくなるな。アンデッドの奴ら、薙ぎ払っても薙ぎ払っても、湧いてきやがる・・・・!!どうする、どうすればいい!?!)

 小屋の中で待機していたスノーホワイトは、そっと扉を開け、外の様子を見ようとしていた。と、そこに、蹄の音と、馬のいななきが聞こえてきた。

 スノーホワイトが、(もしかして、援軍かしら?)と思い、思わず、住民には「絶対に外にはでないで!」と言い残し、扉を開ける。

「先輩!?」と、ロキ・オードランが血を流しながら、びっくりした顔で言う。

 スノーホワイトがそれを無視し、右をみやると、村の出口から、一頭の馬が駆けてきた。人が乗っている。あれは・・・・・シュラだ、間違いない、シュラの姿だった!

「おい、ロキ君!」と、馬から降りて、シュラが「ミトラ・ミトラス・グレイン……ペガスス座!!」と叫び、緑色の激流波を静かに出す。

 アンデッドがせん滅されていく。

「ロキ君、もう少しこの場を頼めるか。俺は、あの悪魔二体を倒しに行く」

「はい、シュラさん!!俺なら、あと2時間は持ちます!」

「うん、ありがとう!」

「待って!!」と、スノーホワイトが叫ぶ。

「あ?」と言って、シュラが駆けだそうとして、動きを止める。

「私、元ギルド所属、リラ一番の魔法学院、テンプル聖騎士魔法学院・リラ分校首席卒業の、テレージア・アルシェと言います!私も戦えます、私にも加護をかけて!!」

「何?女のお前がか?」

「はい、お願いします、シュラさん、私にも加護を!私は医療術士ですが、剣術も学校で習っております」

「医療術士か。分かった、ロキ君だけでも不安だし、君に加護をかける」

 そう言って、シュラが手早く、スノーホワイトに加護をかける。

「羅針盤座の加護を授けた、ちょっと特殊だが、星々の神々が、お前を選んだ。この力を使え」

 そう言い残し、シュラがパトリックとローレライのもとへ急ぐ。

「私がしばらく戦うわ、ロキ君、休んでて!」と、スノーホワイトが剣をふるう。

「ありがとうございます、先輩!でも、俺も補佐します!」と、ロキ。

 そのころ、かぎづめの4本は切り落としたものの、負傷しながら戦っていたローレライ、そして幻獣からダメージを受けつつ、シトリーに一発だけ剣技を食らわせたパトリックは、苦戦していた。

「くっそ・・・・・」と、ローレライ。

(精霊魔法さえつかえれば、こんな奴ら・・・・!!いくら加護を受けたからって、油断していたか……!悪魔の力は、アンデッドとは天と地の差、油断していたか!!)

「おい、てめーら!」と、パトリックとローレライの脳裏に声がした。空間魔法だ。

 とっさに、二人が後ろを振り返る。そこには、剣を構えたシュラの姿があった。

「あとは俺に任せろ」と、シュラが口で言う。

「お前……何者っ・・・・・」と、グイソン。

(俺がエルフだってことは、明かすな、二人とも。悪魔は、エルフだと知ると逃げるから)と、空間魔法でシュラが二人に告げる。二人がゆっくりと頷く。

 シュラは、長い耳を、どうやら魔法で隠しているらしかった。この前会ったときは、隠していなかったので、耳は長かったが。

「ふっ、貴様も元・魔法使いといった風情か?まあいい、こいつらの前に、俺が片付けてやる!」

 パトリックも、ローレライも、お互い傷を負い、血を流しながら戦っていた。

(二人のうちどちらか、二体の悪魔の動きを止められるとありがたいが、ひきつけるぐらいは、できるか)と、シュラが空間魔法で言う。

(一発で片づけたい)

(分かった、だが、体がもう動かない・・・・・)と、パトリック。

(パトリック、君は休んでていい、俺がやる)と、ローレライが、右肩と頭から血を流しながらゆっくりと剣を構える。

「チッ」と、シュラ。(まいったな、戦力がちょっと足りねぇ・・・・・)と、一人思う。

(通信に割り込んで悪いけど、私が悪魔二体を引き付けるわ!私にやらせて!)と、女性の声がパトリック・ローレライ・シュラのもとに聞こえた。スノーホワイトの声だ。

「頼めるか」と、シュラが、ロキに任せて前線にでてきているスノーホワイトに尋ねる。

 スノーホワイトがゆっくりと頷く。

(私は無傷よ、やらせてちょうだい)

(やめろ!!)と言って、パトリックが剣を地にさし、立ち上がろうとするが、傷がもとで、ぐらっとなり、地面に倒れる。

 ローレライは、戦況を見て、悔しそうに頭を振り、何も言わない。わかっているのだ。このままでは、全員いずれ死ぬだろう。

「あなたたちの相手はこの私よ、この薄汚い悪魔ども!!」と、スノーホワイトが叫び、剣を構える。

「なんだと、女ぁ?」と、グイソンがスノーホワイトを一瞥する。

「その前に、このパトリックとかいう男を殺しましょうよ、グイソン様」と、シトリーが笑いながら、パトリックを空中から指さす。

「そんなことは、させない!!」と、スノーホワイトが叫ぶ。

「ミトラ・ミトラス・グレイン、羅針盤座!1等星カノープスの守護により、・・・・・」と言って、シトリーがパトリックに繰り出した光の幻獣が、なぜか方向を変え、スノーホワイトの方へ向かう。

「羅針盤座とは、すなわち神話のアルゴ号の船の羅針盤!敵の攻撃の方向を決められる!!」

「やめろぉーーー!!」と、パトリックが叫ぶ。

 とっさに、ローレライが、剣撃を繰り出し、幻獣を消す。

 スノーホワイトも、剣撃を繰り出し、金色の光で、波状攻撃を繰り出す。

 そうこうしているうちに、長い呪文を唱えていたシュラが、目を開け、剣で斬りかかる。

(全員、いったん下がれ!)と、空間魔法で指示を出す。

 スノーホワイトがパトリックをローレライと一緒にかついで、逃げる。そのすきに、シュラが一人、2体の悪魔の前に立ち、

「これで終わりだ、」と言い、

「南十字座の加護、最終奥義、南天のクルックス、南天彗星!!」と言って、剣を頭上に掲げる。

 頭上から、まさに”彗星“のごとく、恐ろしいエネルギーの塊が落ちてきて、2体の悪魔を包んだ。というより、吹き飛ばした。

 パトリック、ローレライ、スノーホワイトが、あまりの光の強さに目を閉じ、再び目を開けると、そこにはもう2体の悪魔の姿はなかった。

「奴らはチリとなって消えた」と、シュラ。

「アンデッドは、やつらの手下だ、じきに地面の下に潜んで、逃げ出すだろう」

「ロキ君!」と、スノーホワイトが駆けだす。

 見ると、ロキ・オードランを取り囲んでいたアンデッドたちの姿はすでになかった。

 剣を地面につきさし、息を切らしながら、肩を上下させ、ひざまずいているロキの姿があった。

 こうして、避難シェルター・通称サレプタの町(住民がそう名付けていた)での戦いは、終わったのであった。

「俺は、悪魔2体が近くの村に向かっているという報告を受けて、ここに来た。ここに似たような村は他にもある。俺はこの近くをしばらく見張る。また悪魔がきたら、俺もこちらに向かうから、安心しろ」と、シュラがパトリックに言う。

 パトリック、ローレライ、ロキの3人は、今は小屋の中で、スノーホワイトから、医療魔術で治療を受けているところだった。

「分かった、恩に着るよ、シュラさん」と、ローレライが、包帯をまいてもらいながら言う。

「ありがとう、スノーホワイト、もう大丈夫、」と、ローレライ。

「ウム、俺ももう大丈夫だ」と、パトリックが微笑む。

「今の世界状況はどうなっているか、教えてほしい、シュラさん」と、パトリックがシュラに言う。

「正直、まずまずってところだ。あとは、親玉であるハデスをぶっつぶしに行ってる、ランスロット組を待つしかねぇ……それまでは、俺らエルフは、一般市民を守る、というスタンスは変わらない」

「……そうか、分かった」と、パトリック。

 その2か月後、特に悪魔の来訪も、アンデッドの来訪もないまま、世界決戦は終わりを告げた。シュラは二度とこなかった。

 世界を覆っていたどす黒い雲が消え、空には太陽の陽光がさし、明るい世界アラシュアが戻ってきたのだ。


四、 終わり


「結局、俺はスノーホワイト、君を守れたことになるのかな」と、パトリックが、平和になった世界アラシュアで、メルバーンの都市部に戻り、ギルド再入団書にサインをして、同行していたスノーホワイトに言った。

「君を危険な目に合わせたな、」と、パトリック。

「でも、夫婦だもの、危ない時は助け合うのが、普通じゃない?パトリック」と、プラチナホワイトがけろっとした顔で言う。

「そうだな、プラチナホワイト」と言って、パトリックがほっとしたように微笑む。

「プラチナホワイト、」と、ローレライがそっとスノーホワイトの手を握る。そして、結婚指輪にふれる。

「もうギルドには復帰せず、専業主婦として、家でゆっくりしてくれる約束、覚えてるよね?君、羅針盤座の加護うけて、強くなったけど、まさかギルドでまた戦いたい、なんて言い出さないよね?」

「そんなこと言わないって、ローレライ。マイダーリン。安心して」

 そう言って、スノーホワイトが、背伸びして、ローレライの頬にキスをする。

 不意打ちをくらい、ローレライが頬を赤く染める。

 ギルドの再入団申込書に、ローレライもサインをし、3人はいったん、同居している市内の広いアパートに戻ることにした。

 そこには、スノーホワイトがリラから持ってきた、リラの民族楽器、ハープがある。

「天使よ、お前のいる所にこそ愛と情けはあるものを。お前のいるところにこそ自然もあるものを。」と、スノーホワイトが口ずさむ。

「ん?ああ、ハープの曲の一説ね!スノーホワイト、今日もハープ弾いてよ。君の歌声を、聞かせて」

 ローレライはそういうと、スノーホワイトの手を握り、にっこりと微笑み、笑顔で言った。

「君がいるからこそ、この世界は、光のように輝くのだから」


                                                   《完》





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雪白のプラチナホワイト ~テレージア~ 榊原 梦子 @fdsjka687

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