29話
「撃てえええええっ!」
俺の号令に合わせて、ギルドの職員や冒険者たちが次々と魔法を放っていく。数え切れないほど撃ち出される魔法は、その全てが洗練されたものだ。普通の魔物がこれを受ければひとたまりもないだろう。
それもそのはず、今魔法を撃っているのは、全員Cランク以上で中にはBランクもいる精鋭部隊なのだ。金熊の森に向かわせた冒険者たちは、数重視で質が高くない。騎士団の応援に回したのだって、補助役としてでDランクが大半だ。だが、
こういう風に本陣が急襲される事態に備えて、優秀な冒険者や戦闘のできる職員を集めていたからな。だから、スライムの変異種にだって多少なりとも対抗できるはず……
「『ファイアアロー』!」
「これでどうだ、『ウィンドカッター』!」
「『アイスバレット』……くぅ、全然効いてないわ」
そんな幻想は、目の前で起きている現実に叩き潰された。
大波はこちら側から繰り出される大量の魔法をものともせず、こちらに向かって突き進んでいる。あまり効果があるようには……いや、はっきり言って全く効果がない。
「も、もう駄目だぁ、おしまいだよこんなの!」
「やっぱり無理だ! あんな化け物を倒せる訳がない!」
やはりと言うべきか、余りにも強力すぎる敵に戦意を喪失する者も出始めている。気持ちは分かる。俺だって、こいつを倒せるとは全く思えない。
だが。
「だからって、諦めて死を受け入れられはしねえだろうが!『ファイア』!」
ほぼゼロに等しい魔力を振り絞って、必死で魔法を撃つ。勿論効果はほぼ無いだろうが、それでも何もしないよりかは遥かにマシだろ!
「あれを見てください、ギルドマスター! 騎士団からどんどん光魔法が撃たれてます!」
「き、金熊の森の方からも何発か魔法が撃たれてます。戦況はこっちに傾きつつあります!」
どうやら騎士団のやつらも、事態に気づいたらしい。お得意の光魔法で変異種に攻撃し始めた。何発も魔法が撃たれる中で、一際光り輝く光の衝撃波が変異種に命中する。
「ぴぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーっ!?」
途端に、それまでは無かった苦しそうな鳴き声が響き渡る。明らかに、今の一撃は効いていた。
「今のはオネスト騎士団長の魔法じゃないか!?」
「騎士団の応援があるなら、いけるかも!」
「勝てる! 勝てるんだ!」
今の一撃は、こちらにとっても大きかった。それまでほぼ諦めていたやつまで、目の色を変えて必死に魔法を撃っている。
騎士団の加勢のおかげか、それとも全員がやる気を出したからかは分からないが、先ほどよりも明らかに変異種も弱ってきた。あと一つだ。あと一つ何かあれば、変異種を倒すことができるはず!
「燃え尽きなさい、『ファイアランス』!」
そのときだった。聞き覚えのある声と共に、いきなり変異種の体に炎の槍が突き刺さった。
「ル、ルヴィア!? 来てくれたのか!」
「気絶したコレを本陣に送り届けようと思ってね。男のくせに意外と軽かったから、すぐ来れたってわけよ」
声のした方向を向くと、そこにはシトリスを背負ったルヴィアを始めとして、多くの冒険者が居た。
「シトリスは大丈夫なのか!?」
「ちょっとショックを受けてるみたいだけど、怪我とかはないわ。それよりも、今はコイツを倒すわよ!」
「へへ、こっちにはルヴィアが居るんだ、やるぞてめえら!」
「ん、私たちが来たからには、もう安心。あれを倒そう」
な、何でシトリスが気絶してるのかは分からねえが、戦力の揃った今こそ好機だ!
「お前ら、死ぬ気で魔法を撃て! このバケモンをやって、ケリをつけてやろうぜ!」
うおおおおお、という掛け声が各々から上がる。戦力、士気、どちらも十分。後はやるだけだ!
―――――
「お二人とも、オレンジジュース飲みます?」
「お、良いですね。飲みますよ」
「私も飲もうかな。受付さん、ありがとねー」
大半の冒険者やギルド職員が、今回の作戦に駆り出された中。ギルドに残されたのは私とマリナ、あと受付さんだけである。
「本当に暇だね……あ、このオレンジジュース美味しい」
「暇ですねえ」
「別にお二人は良いじゃないですか。私なんて戦闘で役立たずだからって理由で残されたんですよ? 酷くないですかー?」
そんな風に私たち三人が駄弁っていると。
ガチャ、とギルド正面のドアが開いた。
「すいません、冒険者登録しに来たんですけどー」
マジか。このタイミングで来るの?
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