25話

 後ろをポニーテールにしてまとめた、燃えるような赤い髪。透き通るような紫色の瞳に、マリナとは違う鋭さを持った目つき。それらの特徴を持ち合わせたこの少女こそ、この街最強の冒険者であり、私のかつての相棒、ルヴィア・フレイヤだった。

 そんなルヴィアと私は、ギルド内の会議室で話していた。


「ここで会うとは思わなかったわ。まさか、こんなに早くAランクになるとはね」

「う、うん。強力な魔物を倒した功績でなったんだ。まあ、そうはいっても殆どマリナの手柄みたいなものだけどね……」


 そう話すと、ルヴィアは私の横に目を向ける。その視線の先には、マリナが居た。


「……なるほどね。こいつと組んだのなら、昇格も楽でしょうね」

「ひょっとして、ルヴィアはマリナと知り合いなの?」


 なんだか、既にマリナのことをある程度知っているかのような言い方だな。お互いに数少ないAランク冒険者だし、その接点から交流してたりするのだろうか。


「知り合い、ね。まあ、ある意味それも合ってると思うわ」

「……ふん」


 意味深な言葉を残してマリナを見つめるルヴィアと、そっぽを向くマリナ。二人の関係はお世辞にも良いとは言えなそうだ。というかルヴィアに目を向けられた途端、マリナの態度がめちゃくちゃ悪くなったような気が……


「あ、あんまり話したことは無い感じなんだね」

「そうね、あたしには全く話す気が無かったから」

「私としてもあなたと交流する気はない、というのだけは同意できますね。それ以外はあなたと会う気はしませんが」


 仲が良くない、とかじゃないわこれ。犬猿の仲だよ完全に。

 バッチバチに睨み合う二人。さらに悪化する雰囲気と、それに比例して痛みが強まる私の胃。完全に地獄と化した状況に、救世主が現れた。


「まあまあ二人とも。シエラさんが困ってるし、ここはお互いに矛を収めたらどうかな?」


 そう、THE・好青年のイケメン冒険者、シトリスさんである。イケメンなのは顔だけでなく中身もだったか……

 そんな救世主シトリスさんの仲裁のお陰で、二人は嫌々といった様子ながらも黙りこくって言い争うのを止めた。


「……まあ良いわ。話をするのは今回の事件を解決してからにしましょう」

「悪いのはこいつなのに、どうして私まで……」


 ……争うのを、表向きは止めたからセーフ。事件が解決した後はなるようになるだろ、うん。


「とりあえず、今回の作戦について説明するぞ!」


 二人が言い争うのを止めたのを見て、再びギルマスが話し出した。


「まずは、ギルドは今回の行方不明事件の元凶をスライムだと結論づけた」

「スライム、だと? ストロングス殿、流石にこんな場で冗談は……」


 オネストさんが、少し怒ったような表情でそう言葉にする。他の面子を見ても、私とギルマス以外は皆訝しげだったり驚いたりと、信じられなそうな表情だった。


「……いや、マリナはこの話聞いてたでしょ。というかスライムを全部倒すって辺りから話に参加してたじゃないか」

「あれ、そうですっけ。スライムつぶし以外は難しそうな話ばかりだったので聞いてなかったかも」


 私とマリナが小声でそんなことを言い合っていると、ルヴィアがギルマスに胡乱げな目で。


「……そんなことを言うからには、根拠があるんでしょうね」

「ああ、それについてなんだが……」


 待ってましたと言わんばかりに、ギルマスが説明を始めた。説明内容は私と話したことや、調査の結果を簡潔にまとめたものだった。

 説明が終わると、シトリスさんが。


「それじゃあ、近隣のスライムを早く退治しないと不味いじゃないか。放っておいたら変異するかもしれないんだろう?」

「ああ、そうなんだ。だが、下手に弱いやつを派遣しても、既に居るであろう変異種にやられてしまうかもしれん。だから、今回は戦力を一気に動かす必要がある。だが、街の守りも重要だし、変異種が何体居るかも分からん……動きたいが、状況的に動きにくいんだよ」


 ギルマスの返しに、うーんと悩み始めるシトリスさん。他の人たちも、一気に考え込んでしまう。そんな中、ルヴィアが。


「簡単な話でしょ。既に変異種を倒してるシエラたちをここに残して、大半を持っていけば良いのよ。まあ、スライムの数や被害から言って、変異種は銀狼の平原と金熊の森にしかいないと思うけどね」


 ルヴィアのその言葉に、周囲も賛同する。


「確かにそれなら、街の防衛も安心だな。我々騎士団からも念のため、部隊の一部を残しておこう」

「話から言って、その変異種はAランク相当の強さだよね。それなら二人がいなくても倒せそうだ」


 それを聞いたギルマスは、少し考え込むと。


「ふむ……二人とも、頼まれてくれるか? 当然報酬は出すし、戦いになる可能性もかなり低い。悪い話ではないと思うんだが……」


 それに対して、私たちはと言うと。


「戦わない可能性が高いんなら、そっちにしようかな」

「どうせスライムつぶし出来ないんなら、どっちでも良いですよ」


 ということで、私とマリナが居残り組になった。戦った経験がない面子であの魔物に挑むのは少し心配だけど、騎士団の精鋭と有力な冒険者が居るし大丈夫だろう。

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