第19話

 ……何にも見つからない。片っ端から草をかき分けては何か落ちていないか探しているのだが、本当に何も見つからない。


「マリナ、そっちは何か見つかった?」

「いえ、特に何も……」


 参ったな。

 行方不明者の装備の一部だとか、血痕だとか、隈なく探せば何かしらは見つかると思っていたのだが。どうやら私のそんな認識は甘かったらしい。

 段々暑くなってきたし、気分的にはもう切り上げたい。


「探し始めてから、どのくらい時間が経ったっけ」

「朝から探してますからね。太陽の位置からして、六時間くらい探してるかもしれません」


 マリナにそう言われて、空を見上げる。太陽の位置は、真上。真昼である。太陽の光が、ぎらぎらと私たちを照りつけている。なるほど、道理で暑いわけだ。


「一旦切り上げて、休憩にしようか。午後は涼しいところを調査したいな」

「そうですね。時間もちょうどいいですし、休憩がてらお昼ご飯にしません?」


 ふむ。


「美味しいスイーツのお店ってある?」

「ギルド近くのクレープ屋さんがお勧めですね。中でもいちごクレープは、ふんわりとした生クリームと苺の甘酸っぱさが絶妙に絡み合った絶品です」


 心は決まった。


「いちごクレープ食べに行くぞー!」

「行きましょー!」


 そういうことで、私たちはいちごクレープを心ゆくまで堪能したのであった。

 昼休憩でいちごクレープを楽しんだ私たちは、午後の現地取材として森に来ていた。なるほど、ここなら木々が日光を遮っているし涼しそうだ。


「ここが、二つ目の場所?」

「はい、この森は金熊の森と呼ばれていて、オークと魔物以外の多数の獣が生息しています。ここ付近でも行方不明者が多発してますね」

「オークか。あんまり戦いたくないなぁ」


 正直言って、オークが好きな冒険者は誰一人として居ないだろう。というか、絶対に皆嫌いだ。

 別に強くはない。Eランク相当と低ランクの魔物にしては力が強いが、動きはとろいし知能も低い。長所である力だって多少強いというだけで一撃食らえば命の危機、となるわけではない。では、なぜ嫌われているのか。

 答えは単純、見た目である。


「なんかあの見た目、気持ち悪いんだよね」

「分かります。なんだか脂ぎってて嫌ですよね、あの魔物」


 そう。オークが嫌われる理由はただ一つ、見た目である。まず、豚が二足歩行しているという基本的な部分自体が不気味だ。しかも、その体は脂でてかっているし、顔も醜悪で見るに堪えない。

 実は肉が美味しいらしいが、あんなの食べる気になれないな。


「出来る限り戦闘は避けようか。見つからないように慎重にいこう」

「そうですね。オークと戦うのはちょっと……あれですし」


 その後はオークに見つからないよう気を付けつつ、私たちは調査を続けた。続けたのだが……


「そろそろ日が暮れるな……」

「もうそんな時間なんですか? なんだかまだ二、三時間しか経っていない気がします」


 気づけば夕方。結局、今日の調査では何の手掛かりも得られなかった。見つかったのはオークとスライム、あとはイノシシやらシカやらである。要するに、成果ゼロ。

 正直、舐めていた。なんだかんだ言って、ちゃんと探せば手掛かりの一つや二つは見つかるだろうと思っていた。だが、結果はどうだ。一日中探したにも関わらず、何の成果もない。

 昼の時点で思ったより大変になりそうだとは薄々感じていたが、まさかここまでとは。


「仕方ない。ガーネットに報告しに行こう」

「……そうですね。もうすぐ夜ですし、ここらで切り上げましょう」


 疲労のせいか、帰りの足取りは重かった。




「なんの成果も!! 得られませんでした!!」

「し、シエラさん……? 急にどうしたんですか?」


 なんかこう言わなきゃいけない気がして。

 閑話休題。文字通り、何の成果も得られなかったことをガーネットに報告すると、彼女は――


「そんなに気にしないでくださいよ。何の成果も無かったとは言っても、手掛かりの一つや二つあれば充分ですから……」


 しょうがないですよ、と言わんばかりに優しく微笑んでいた。そんなガーネットに対して、私は……


「手掛かりすら見付からなかったんだよね」

「……マジですか?」


 そう伝えた瞬間、ガーネットは唖然とした表情を浮かべる。彼女にとっても、文字通り何も得られなかったのは想定外だったらしい。


「ま、まあ仕方ないですよ。簡単に解決できるような事件であれば、ここまで長引いていないですし」

「それはそうなんだけど、ああも偉そうに提案しておいてこのザマだからね」


 正直、穴があったら入りたい気分だ。いくらなんでも恥ずかしすぎる。

 だが、そんな私を慰めるようにガーネットは――


「大丈夫ですって。いざとなればあることないこと書き立てて、購買意欲を煽れば……」

「それはやめろぅ!」


 一つ確信したことはある。一刻も早く何かネタになるものを見つけなければ、ガーネットは絶対にやらかす。


「早く見つけなきゃ駄目なやつじゃん」


 事件を解決出来なければこの街が危ないかもしれないが、それ以上にガーネットの方が危なくなる。確実にフェイクニュースを書き立てて、ギルドにシメられること間違いなしだ。そうなる前に、どんなに小さなものでも良いから手掛かりを見つけなければ。




「てめえ、なんだこの記事は!? 『スライムが事件の犯人、ギルドの調査は杜撰』だと!? 随分威勢のいいやつだな、おい!」

「すすすすすすすいませんっ! つい出来心でやっちゃったんです、二度とやらないのでお許しを……ひぃん!」


 ――見つけられなかったよ、うん。

 目の前には、ギルマスにガーネットが激詰めされる予想通りの光景が広がっていた。

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