第12話

「スライム退治は楽で良いですね。またいつかやりたいです」

「私としては2度とやって欲しくないんだけど……」


 依頼を済ませた私たちは、ギルドに併設された酒場で駄弁っていた。


「シエラさんもやってみませんか? 意外と楽しいですよ、スライムをつぶすの」

「スライムのが飛び散るのがね……ほぼ水なのは頭では分かってるんだけど、なんとなく気持ち悪いよ」


 潔癖なんですねえ、と何でもなさそうに言うマリナ。どうやら私たちは、この話題では分かり合えないらしい。


「ともかく、次からスライム退治をするときは、私が魔法で倒すから。良いね?」

「分かりましたよ。次からはあなたに任せます」


 口ではそう言いながらも、マリナの表情は不満げなものだった。わからない……一体、スライムつぶしの何がここまでマリナを引き付けるというんだ?

 そんなことを考えていると、なんだか周囲が少し騒がしくなってきた。何かあったのだろうか。そう思った私は、周囲の話し声に聞き耳を立ててみることにした。うーん、隣のテーブルを囲む三人組なんか、近くて聞きやすそうだな。


「おい、あの話は本当なのかよ」

「ああ、どうやら本当らしい。これで今月十人目だぞ」

「こいつは無事だと良いんだが」


 無事だと良いんだが、だって? 物騒な話をしているように聞こえるな。


「し、シエラさん? 何やってるんですか、チラチラと隣のテーブルを見てますけども」

「静かにして、今あっちの話を聞いてるんだから」

「は、はあ……そうですか。でも、別に皆知ってる話だと……」

「静かにしてってば、もう」


 呆れ顔のマリナをスルーして、私は話を聞き続ける。今はマリナに構ってる暇はないのだ。それより、


「ほら、この新聞にも書いてあるだろ。どうやら間違い無いみたいだぜ」

「マジか……あ、あのグレン・スロトもかよ!」

「まだ行方不明なだけだ、死んだとは限らんぞ」


 行方不明か。それはまた、物騒な……


「行方不明だって!?」


 衝撃のあまり、我を忘れて椅子から立ち上がり、男に問い掛ける。


「……お、おう。そうだよ」

「あっ」


 我に帰り、周囲を見る。すると、周りの冒険者たちは皆、何だこいつと言いたげな目で私を見ていた。


「本当に、何やってるんですか。シエラさん……」

「あ、あはは……」




 あの後、落ち着いた私は、話をしていた三人組に詳しく聞くことにした。


「それで、グレンが行方不明になった件が気になるのか?」

「うん。というか、今月十人目って言ってたけど、それも本当なの?」

「まあ、気になるんならこの新聞を読んでみれば良いさ。俺たちはもう読んだし、こいつはお前にやるよ」

「本当!? ありがとう、助かるよ」


 これはすごく嬉しい。生きていくのに必要ない嗜好品な為か、新聞は結構値段が高いのだ。自分で買うとなると一日の稼ぎが吹っ飛ぶくらいには、である。まあ、何故かAランクになってしまった今なら問題ないけれど。


「ふむふむ……え、新しいスイーツ専門店が出店!? 場所は、えーと……」

「どれ見てんだお前は! それ端っこに小さく載ってた記事じゃねえか!」

「ご、ごめん。中々珍しいなと思ってさ」


 この店、家から結構近いなぁ。機会があったら行ってみよう。そんなことを考えていると、男性は件の記事を教えてくれた。


「第一面にどでかく書かれてる記事だよ。ったく……あっちでゆっくり読みな」

「ありがとう、そうさせてもらうよ」


 ということで。


「新聞貰ったし、読んでみるかあ」

「結構有名な話ですけどね。冒険者が連続して行方不明になってる件」

「そうなの? どれどれ……」


『また行方不明!? 今度は実力派のCランクまで』


 随分不穏な見出しだな。中身はどうなんだろう。


『昨日、Cランク冒険者のグレン・スロト氏が音信不通になってから一週間が経過した。これを受けて冒険者ギルドは、同氏を行方不明者として扱うことを決定したという。これで今年に入ってからの行方不明者は二十人となった。これは、八年前以来の記録的ペースであり……』


「なるほど。冒険者の行方不明者が凄く多いんだ」

「そうなんです。まだ春だっていうのに、既に去年の行方不明者の総数を超えたそうです。死者じゃなくて、行方不明者っていうのが不気味ですよね」


 確かに行方不明者が多い、というのは怖い話だ。

 冒険者は危険な職業だからこそ、死者は多い。だが、行方不明者は案外多くない。それもそのはず、誰かが音信不通となれば、冒険者ギルドが他の冒険者に確認させるシステムがあるからだ。だから、大抵の音信不通となった冒険者はすぐに発見される。……遺体として、という枕詞がつくが。


「それでも行方不明者になるってことは、やられた痕跡すら残ってないんだよね」

「ええ。それに、行方不明者の中にはCランクの四人パーティも居たそうです」


 誰一人として逃げることが出来なかった、ということだろう。それだけあっという間にやられたと考えるのが自然だ。


「原因は?」

「それが、全く分からないそうです。何でも、行方不明者が受けた依頼は何の共通点も無く、実力もバラバラ、範囲も広すぎて、推測すらままならないとか」


 原因も不明か……ひょっとしてあの魔物の仕業とか?


「ひょっとして、私たちが戦ったあの魔物がやったんじゃない?」

「それは無いと思います。あの魔物の居たゴブリンの巣とは反対方向でも、行方不明者が多発していますから」


 思いつきで言った言葉は、即座に否定された。そうすると、一体何の仕業なのだろうか。私がそれを悩んでいると、マリナが意外な提案をしてきた。


「そんなに気になるなら、直接聞いてみます?」


 え?

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