第10話
ギルドに入った私たちを出迎えたのは、周囲からの注目だった。
「あれが、今回大物を倒した二人か。流石に風格があるな」
「マリナだけで倒せたわけじゃないだろうし、シエラの実力は意外と高いのか?」
「あれが噂の二人ですか、これは絶好の取材対象になるかも!?」
「ガーネットちゃん、あんまりやりすぎるとまたギルドを出禁になるぞ……」
どうやら、私たちが謎の魔物を倒したことは、既に他の冒険者たちに広まっているようだ。だからといってこうも注目されると、なんだか落ち着かないなあ。
私が周囲からの注目におどおどしていると、私たち二人に受付さんが話しかけてきた。
「お二人とも、おはようございます。ギルマスが先日の魔物の件でお話したいことがあるそうです」
「ギルマスがですか?」
「はい。ですので、奥の部屋へ来ていただけますか?」
「……ふーん。シエラさん、どうします?」
先日の魔物……間違いなく、私たちが倒したあの謎の魔物のことだろう。それについてとなると、もう一度聞き取り調査でもするのか、あるいは報酬が出るのだろうか。まあ、行って損は無いだろう。
というか、まさか断るわけにもいかないし。断ったら面倒なことになる気がする。
「悪い話ではないと思うし、行ってみようか」
そういうことで、ギルドに来て早々にギルドマスターと対面することになったのであった。……あの人怖くて苦手だし、早く終わんないかなあ。
私たちが案内されたのは、応接間のような部屋だった。二つのソファが向き合う形で置かれていて、その間には大きい机があった。机の上には謎の袋が二つあるが、あれは何だろうか。
「マリナと嬢ちゃん、よく来てくれたな。とりあえず、そこに座ってくれ」
ギルマスの勧めに従ってソファに腰かけると、何の抵抗もなく体が沈んでいく。家にある固いソファとは全く違う。このソファ、絶対に高いやつだ。
「お偉いさんの対応に使えそうな部屋だね。マリナはともかく、私相手にここを使うの?」
「使えそうも何も、そういう相手に使うための部屋だからな。それに嬢ちゃんだって高ランク冒険者だし、これから更に高ランクになるんだからこの部屋で良いのさ」
これから更に高ランクに?
「わざわざこんな部屋に呼んだのは、その為でしたか」
「ああ。ということで、おめでとう嬢ちゃん。ランク昇格さ。今日からAランクだ」
「……私が、Aランク?」
予想外の出来事に、言葉が詰まる。Aランク。この街の冒険者ギルドに三人しか居ない、最上位の実力者。そんなAランクに、Bランクにすら不相応だった私がなってしまった。
どうしてそんなことになったんだ。あの魔物を倒せたのはほぼマリナのお陰だぞ。
「ああ、嬢ちゃんたち二人が倒した魔物を調査した結果、そいつにAランク相当の実力があると判明してな。内部で審議した結果、嬢ちゃんの実力はAランク昇格に相応しいと判断したのさ」
「まあ当然でしょうね。シエラさんは私が組むに相応しいただ一人の冒険者です。このくらいは当然ですよ」
「はは、随分と言うじゃねえか。ああ、それと報酬として一人当たり大金貨5枚が出てるから受け取るといいぜ」
謎の袋は、魔物討伐の報酬が入っているものだったらしい。大金貨五枚が入っているであろうその袋が、マリナに渡された。大金貨。この国の貨幣において、最も高価値であり、一枚だけでも一般の冒険者が一生かかっても稼げないであろう大金だ。その大金貨が、五枚。……本来なら、私だって稼ぐことは出来ないはずだったのに。
「一応袋に入れておいたぞ。かなりの大金だ、扱いには気をつけろよ」
「ええ、分かってますよ。にしても、Aランクの魔物の討伐報酬としては高すぎませんか?」
「……色々と事情があるんだ、気にしないでくれ。さ、嬢ちゃんも受け取りな」
そう言ってギルマスは、私にも袋を手渡した。ずっしりとした袋の中には、大量の金貨が入っている。
「こ、これが大金貨五枚の重みかぁ。凄い重さを感じるなぁ……」
「そうですか? 純金で出来ているとはいえ枚数が少ないですし、比較的軽いと思いますけど」
「いやいや、そういう重さじゃないよっ!」
「え?」
私たちが持っているこの袋の中には、一生遊んで暮らせるほどの大金が入っている。その事実のせいで私は胃が痛くなってきたのだが、マリナは何ともないらしい。
「ま、マリナはどうも思わないの? 私はこんな大金を得れたことにびっくりだよ……」
「一回の依頼での報酬としては高いですけど、言うほどですか? Aランク冒険者ならこれくらい、二三回依頼をこなせば手に入るでしょうに」
「二三回でこれだけの大金を……?」
駄目だ、スケールが違いすぎる。つい最近まで低ランクの依頼で日銭稼ぎをしていた私には、ちょっとついていけそうにない。やっぱり私、場違いなのでは?
「私、Aランク冒険者としてやっていけるのかなあ……」
「シエラさんなら大丈夫ですよ。いざとなったら私も助けますから、ね?」
私を安心させるように、笑顔で話しかけてくるマリナ。だが、私の心の中は不安でいっぱいなままだった。
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