第2話
散々悩んだ末に私は、自分では弱すぎて無理だ、と断ることにした。この言い方なら角は立たないし、問題ないだろう。
「その誘いは嬉しいけれど、私じゃマリナさんの足を引っ張るだけさ。辞退するよ」
「Bランクさんだって若くしてBランクとなった実力者なのですから、問題無いでしょう。過ぎた謙遜は嫌味になり得ますよ?」
「いや、本当に実力者だと思ってるのなら、Bランク呼ばわりはやめてくれない?」
「おや、何か問題でも?」
こ、こいつ……。駄目だ、堪えろ私。ここで私がキレたところで、マリナに返り討ちにされるだけだ。冷静に、冷静に……
「と、ともかく、私は本当に実力不足なのさ。何せ私は、元相方の活躍にただ乗りしただけのハリボテBランクだからね」
とりあえず、出来る限り角の立たない言い方をして断ろう。そんな安易な考えで放った言葉は、マリナの怒りを買ってしまったらしく。
「……私だって、誰彼構わず声を掛けている訳では有りません。実力、実績、評判。それらを考慮した上で私のパーティメンバーに相応しい人物を選定しているのです」
「まあ、そうだろうね」
というか、組む相手をいい加減に選ぶAランク冒険者が居てたまるか。何を当たり前のことを、と思いつつも話を聞いていると、想定外の方向に話が進む。
「私が相応しいと判断したにも関わらず、Bランクさんは自身を実力不足だと言った……つまり私の目は節穴だと言いたいのですか?」
「いやいや、君の観察眼は決して節穴ではないと思うよ。ただね、私としては……」
「では、断る理由は無いですよね。Bランクさんは私の目を疑っているわけではない。ならば、私の組んでも問題ないという判断を信用できるはずです」
お前に問題無くてもこっちにはあるんじゃい。そんな文句が喉から出掛かるもぐっと堪える。
考えろ私、ここから相手を怒らせずにパーティを組むのを回避する方法を……!
「やけに消極的ですね。ひょっとして、私と組みたくないのですか?」
「そ、そんな訳ないだろう。あのマリナさんと組めるなんて、私にとってメリットしかない魅力的な話だよ」
「なら、私と組むべきですよね? だって、Bランクさんには断る理由は無いはずですから」
そう語りかけるマリナの顔を見る。顔は笑顔なのに目が全く笑っていなくて、怖い。
というか確実に、これ以上粘ったらキレられる。……仕方ない。少しの辛抱だ。私が弱いのは事実なのだし、すぐにあちらから見限るだろう。
「……分かったよ。これからよろしく」
「ええ。宜しくお願いしますね、Bランクさん」
そういうことで、私とマリナはパーティを組むことになってしまった。
「では早速、依頼を受けに行きましょう。良い依頼があると良いですね」
「うん、そうだね……」
受ける依頼、簡単でありますように。そう祈りながら、私はマリナに連れられていった。
遂にギルドの受付に着いた。というか着いてしまった。
冒険者ギルドの受付には、様々な役割がある。冒険者としての登録手続きをする場所なのはそうだが、それ以外にも依頼の張り出しや受注など事務全般を行っているのだ。つまり、私とマリナのパーティ結成の手続きもする訳だ。
ああ、なんかの間違いでパーティ結成が出来なくならないかなあ……そんな私の願いも虚しく、手続きは順調に進んでいく。
「すいません、パーティ結成の手続きをお願いします」
「パーティ結成ですか? 分かりました。この用紙にメンバーとパーティ名の記入をして下さい」
「ふむ、パーティ名ですか。Bランクさん、どうします?」
パーティ名?なんでもいいよ、もう。
「なんでもいいよ」
「じゃあ、パーティ名は『なんでもいいよ』にしますね。……うん、これで大丈夫ですか?」
マリナは用紙に記入すると、それを受付さんに渡す。
「確かに大丈夫です。記入漏れもないですね。ただ、パーティ名はこれで良いんですか?」
「私はパーティ名はなんでも良いので。Bランクさんも自分で決めたのだから文句は無いでしょう」
「わ、分かりました。では最後に確認させて下さい」
受付さんはそう言うと、胡乱げな目付きで確認をし始めた。
「パーティ名は『なんでもいいよ』で、メンバーはマリナさん、シエラさんのお二人。……本当にこれで良いんですね?」
受付さんは言い終わると、じっと私を見つめる。いや、そこまで念を押さなくても良いだろう。どうせすぐに解散するのだから、何にしようと変わらないし。
「うん、良いよ」
「私も問題ないです」
「……これで、パーティ『なんでもいいよ』が結成されました。お二人ともおめでとうございます」
受付さんは何だか投げやりな感じでそう言うと、続けて。
「それでは、何か依頼は受けますか?」
「では、この『ゴブリンの巣を掃討』でお願いします」
なるほど、初任務はゴブリンの巣を掃討かー。まあ、どうせすぐに解散するし―――
「……え?」
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