エリート剣士と平凡魔術師が組むだけのおはなし。
スライム小説家
第1話
冒険者ギルドに併設された酒場。依頼を済ませた冒険者たちが酒盛りをしている隅で、私は静かに杖をいじっていた。普通の魔法使いなら誰もが欲しがるこの逸品も、私にとっては役立たずだ。豚に真珠だよなあ。
「やっぱり私、冒険者に向いてないのかな……」
ソロで活動するBランクの魔法使い。それが私、シエラ・シェリーナの肩書である。
何も知らない人は私の肩書だけを見て、優秀だ、天才だと持て囃す。まあ、そりゃそうだ。GからSまである冒険者のランク制度において、Bランクは一流の証。殆どの冒険者はなることすら出来ないそのランクに、若い少女がなっている。傍から見れば、きっと私は才能のある若者なのだろう。
「本当にそうだったら良かったのになぁ」
だが、実際は違う。端的に言えば、私は組んでいたパーティメンバーに寄生していたのだ。彼女は、私とは違って本物の天才だった。剣、魔法、学問……何をやっても周囲の誰よりも出来るのだから、天才としか言いようがない。若干15歳にしてドラゴンを倒したと言えば、彼女の凄さが伝わるだろうか。
――二人組の少女がドラゴンを倒した。実際のところは彼女一人で立てた手柄だったが、ギルドはそう認識した。そして、私と彼女はDランクから飛び級でBランクになり……彼女は有名なパーティに引き抜かれた。
その結果、肩書はBランク、実力は精々Dランクのはりぼて魔法使いが生まれてしまったというわけだ。
「これからどうしよう、組んでくれる人も居ないし……」
わざわざ張りぼての魔法使いと組む物好きなんて、当然居ない。かといって実力相応のDランクやEランクの冒険者たちには、Bランクという肩書に遠慮してか、私なんてとんでもない、という態度で組むことを拒否される。
要するに私は、ほぼ詰みだった。
当然、私一人で難しい依頼を受けれる訳がない。だから今は、Eランク程度の依頼を受けて日銭を稼いでいるのだが、この生活もいつまで続けれることやら。
「せめて、パーティさえ組めれば良いんだけど」
「Bランクさん、あなたもパーティを組む相手を探しているんですか?」
唐突に声をかけられて、ぎょっとする。声のした方を向くと、そこに居たのは、長髪の少女だった。
艶やかな青髪に空色の瞳、そして雪のように真っ白な肌。特徴的な美貌を一目見て、すぐにこの少女が誰なのかが分かった。
「マリナ・ウォード……」
「へえ、私のこと知っているんですね。なら話が早い」
この街で彼女を知らない人間など、居ないだろう。史上最年少の14歳にして、Aランクになった剣士。目にも止まらぬ速さの剣さばきから、ついた二つ名は『千剣』。彼女の噂は、単騎で百の魔物を屠ったとか、一振りで山を斬れるだとか、人間とは思えないものばかりだ。しかし、Aランクという肩書と彼女の実績は、それが嘘ではないことを如実に示している。
要するに、この少女も私がかつての組んでいた彼女と同じような天才であり。
「単刀直入に言います。私とパーティを組みましょう」
「わ、私が?」
「ええ、所詮BランクであるBランクさんにとって、Aランクの私と組んで損はないはずですよ」
そして、それ以上に人格に難があるというわけだ。
「まあ待ってくれ。少し考える時間をくれないか?」
「どうかしました? 迷うことなど何もないと思うのですが」
さて、どうしたものか。これなら、さっきまでの組む相手が居ないとぼやいている方がよっぽどマシだったかもしれない。
「おい、マリナのやつ、今度はシエラをターゲットにしたぞ」
「どうせすぐに解散するさ。マリナが誰かと組むなんて無理な話だ」
「シエラのやつも可哀想に……」
ひそひそと、周囲の冒険者が話している内容が聞こえてくる。案の定、内容はマリナについてのマイナスな話ばかりである。
そう、マリナが有名なのは、優れた剣士としての面だけではない。彼女の人格に難がある、というのはそれ以上に有名な話なのだ。過去にマリナとパーティを組んだ冒険者たちは皆、マリナは人格に難があると評する。以下は冒険者たちの話だ。
自分以外の全てをゴミ同然と見下している、口を開けば罵詈雑言、自分勝手な突撃をして周囲を危険にさらした……そんな話を私は、あまりにぶっ飛んだ内容が故に誇張だと思っていた。
「……ああ、分け前を心配しているんですね。それなら問題ありませんよ。仮にBランクさんが使えなかったとしても、半分はあげます」
だが、恐らくそれらは真実だったのだろう。彼女に口調こそ丁寧だが、内容はこちらを見下したものばかり。呼び方だって名前でなくBランク呼ばわりである。まさに慇懃無礼だ。
もし、マリナと話した上で組みたいと思う冒険者が居たのなら、そいつは考え直すべきだろう。
冒険者は、時に命の危機に陥る職業だ。1人だとどうしようもない危険に遭遇することもある。そしてそういった場合、大抵は生き延びることは出来ない。だが、複数人で居ればどうだろうか。1人が危機に陥ったとしても、他が助けれる。逆もまたしかりで、互いに助け合うことが出来る。だからこそ一般的な冒険者はパーティを組むのだ。
だが、彼女と組んだらどうか。もし私たちが危険な状況になったとして、間違いなく私を見下しているであろうマリナが、私を助けてくれるだろうか。……いや、もしそうなれば彼女は私を見捨てて自分一人で生き延びようとするだろう。私の見立てでは間違いなく、マリナは自身を危険にさらしてまで足手まといを守るような性格ではない。
そもそも、私の実力は精々Dランクだ。マリナが受けようとしている依頼は、恐らくC~Aランクのもの。それらを私が受けるなんて、自殺行為も同然だ。
返事は決まっている。断固拒否である。
「で、速く了承の返事をしてくれませんか? 分かりきった結論を出すためにここまで時間をかけられると、少し苛立ちを感じるのですが」
少しどころでないくらい苛ついた様子で、マリナはそう述べる。勿論、答えは断固拒否だ。
「えっと、その、何て言うか……あはは……」
……いや、気持ちは断固拒否なのだ。問題は、断ったらマリナに何をされるのか分からないことだ。もし彼女の反感を買えば、不味いことになる。それこそキレて実力行使にでも出られたら、Dランク程度の実力の私は……やめよう、考えたくもない。
そういうことで、私は返事をしかねていた。本当に、どうしたものか。
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