答え合わせはできない



三日後に紫紺は警察署を訪れていた。

受付で松崎に連絡を取ってもらって、その前で待っている。

暫くして松崎が笑いながら、近寄って来た。声を殺しながら笑っている松崎に紫紺は変な顔をする。


「人に会う時に何で笑っているんだ?」

怒ってはいない紫紺に、まだ笑いながら松崎が答える。

「何度言っても、お前が弟だと言われるんだよなあ」

紫紺は松崎を見上げる。

「俺を不機嫌にしようとしているか?」

「ぜんぜん?取り敢えず応接室に行こうか?」

「…ああ」

確かに女性警官の視線が生ぬるい事を体感しながら、紫紺は松崎について行く。


小さな部屋に入り、松崎の相向かいに座った紫紺は資料を手渡される。


「やっぱり、あったのか」

「ああ、お前の指摘通り、あの家の基礎部分に一体の死体があった。男性で年齢は20から50の間、腐敗が進んでいるから身元はまだ分からない」

紫紺は添えられている写真を、眉を顰めて見ている。


「それが、今回の事件の元だっていう事でいいか?」

「…多分」

歯切れの悪い紫紺の言葉に、松崎が眉を上げる。

「確信はないのか」

「今回はね、ちょっと誰の力なのかもわからないんだ」

「ふうん?」

水滴が滴るペットボトルに口を付けながら、松崎は紫紺の言葉を待つ。


「謎が多い。地震の事は有記が言っていたから、その埋まっていた人の領域なんだろうけれど、そんな力を顕現出来る実力者が埋まってるのが、訳分からない」

紫紺も濡れたペットボトルを開ける。


「家に入って話が出来た依頼主の奥さんのことも、今一つ。これを見ると死んだ後に土を掘っていた事になっているんだよな?」

資料を捲ってから紫紺が言うのを眺めた後に、松崎は頷いた。

「だとすると、家に着いた死霊なのだとして。あまりに力が弱すぎる」

「弱いか」

「うん。話しか出来ないものが、存在し続けていたのが」

アイスコーヒーを口に含んでから紫紺は松崎を見る。


「解決には程遠い」

「…依頼主が死んじまったしなあ?」

「本当に。ボランティアとか俺には向いてないのに」

確かにと思いながら、松崎が頷く。


「それでも、これ以上は手が打てないから。俺の方はこれで終わりだよ」

「ああ、そうだろうな」

松崎が軽く笑うと、紫紺が小さく息を吐いた。


「それで?」

「ん?」

緩い返事に、紫紺が睨む。

「お前の話って言うのは?」

「ああ、覚えていたのか」

松崎がまだ笑っている事に、紫紺がちっと舌打ちをした。


「そんなに面倒な事なのかよ」


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