第16話 木一さんの幼少期

今日は木一さんの幼少期のお話。

小さい時から好奇心旺盛。

「なんでだろう?」と思った事は自分でなんでも調べないと納得のいかない性格なのである。当時の木一少年の関心事と言えば、専ら「蟻地獄」についてだったそうな。

乾いた砂にある凹んだくぼみを見てから虜になったらしいのである。

そして木一少年は蟻地獄の生態を調べる為に色んな書物を読み漁る事に。

蟻地獄とは何か?実はウスバカゲロウの幼虫なのである。 ウスバカゲロウの幼虫は餌を自分で動いて捕まえる事をせずに、すり鉢状の罠を作り、そこに獲物が落ち込んでくるのをただただ待つのである。そしてそのくぼみに蟻が入り込むと周りの砂が崩れていき蟻はそこから這い上がれなくなり、下まで落ちた時にウスバカゲロウの幼虫にパクっと掴まれて食べられてしまうのである。そんな不思議な生態を知ってからは、木一少年の気持ちは”リアル蟻地獄”へとのめり込んでいったのである。

その蟻地獄は拡大すると気持ち悪い姿をしているのだが、どうしても本物を見てみたいと思った木一少年。(※ダニのような姿らしいですが)

ならば行動しかない!そして色んな家の縁の下にあると言われている”蟻地獄の巣”を探す事にしたそうな。

※昔も当然ながら他人の家の縁の下に潜り込むなんて当たり前にダメな事であるし、今はもっとダメなので真似はしないでくださいと木一さんは言っておりますが、当時の木一少年は他人の家の縁の下に入ってはいけないとは知らなかった、と言っておりますのでお許しください。あくまでも本人談です。ただ、私からすると、”侵入者”でしかありませんが・・。


そしてその日もこっそりと、とある家の縁の下に侵入成功。

乾いた土にあるいくつかのくぼみを探し当てると、そこら辺に歩いている蟻を一匹捕まえて蟻地獄へと投入。※人として最悪な事をしているとは当時の木一少年は感じていなかったそうです。蟻の事よりも蟻地獄に興味が湧いて仕方なかった故の行動との事である。蟻には本当に申し訳ない事をしましたと言っておりますので。

そして蟻地獄のくぼみから這い上がれないでもがく蟻を真上から見物する木一少年。

このもがいている蟻の動きを察知し、蟻地獄は蟻を捕らえに来るはずだとニタニタする木一少年。

そして暫くすると、その蟻地獄のくぼみの下の方から突き上げるように砂が舞い上がる。「ぴゅっぴゅっぴゅ!」

うむむ・・・。その状況をじーっと眺める木一少年。

もがいていた蟻がくぼみ下の方へと落ち、もがけばもがくほど這い上がれなくなる。

その時だった!

「バッ!!!」と、大きくくぼみの真ん中で砂が舞い上がる。その瞬間、蟻がくぼみに引きずり込まれて消えてしまった。あっという間の出来事に木一少年は呼吸をするのも忘れたそうな。


「OH!!!!ファンタスティックー!」


「す、すごいぞ!蟻地獄!砂に蟻が落ちると、そのもがいている時に動く砂の動きに反応して蟻が捕まった事を確認するのか。そして蟻にゆっくりと近付いてパクっと引きずり込むんだ!!」


この時の木一少年は、この蟻地獄の生態にとにかく感動したそうだ。そして何を思ったのかその後、木一少年はどうしても蟻地獄を捕まえたくなったそうである。

またまた可哀そうな事に、歩いている蟻は木一少年によって捕獲される事になる。

まるで進撃の巨人に捕らえられた人間のように一匹の蟻をつまみ上げるとニターッと笑う木一少年。あまりにも残酷な光景しか頭には思い浮かばないが、蟻に対しては心より許してほしいとあの時の事を回顧しながら謝る木一さん。


そしてつまみ上げた一匹の蟻をまたも蟻地獄のくぼみへと落とし込む木一少年。そのくぼみで這い上がろうとする蟻がもがき苦しむ姿を見ては更にニターッとしたそうな。すると、くぼみの一番奥から乾いた砂がピュッピュッと舞い上がり始める。

この時だと思い、木一少年はその蟻地獄のくぼみ一帯を手でがばっとすくい上げるとゆっくりと掌を広げ中を確認する・・・。

乾いた砂の中に先ほど落とした蟻がわちゃわちゃと動いて木一少年の手から逃げ出す。残った砂の中には何も見当たらないが軽く息を吹きかけて砂を払っていく。

ゆっくりとゆっくりと蟻地獄を見つけるために慎重に砂を払い落とすが最終的に掌には何も残らなかったそうな。

そこで木一少年は色々と考えた。もしかしたら最初に蟻地獄がぴゅっぴゅっと砂を噴き上げるのはフェイクではないのか?

万が一そうであれば魚と同じで獲物を引き付けて引き付けてがばっといくのではないか?そう考えた木一少年はもう一度歩いている蟻を捕まえては蟻地獄のくぼみへとニターッとしながら投入する。(本当に悪い人間の見本のような少年だったのは言い訳も出来ません、と本人はニターっとしながら言っております。)

逃げようともがく蟻の落とす砂により蟻地獄が近付いてくる。そしてぴゅっぴゅっと砂を噴き上げる。

(その時木一少年は、まだだまだだ・・・とニタニターッとしながら心の中で呟く)

そしてその瞬間が訪れたのだ。先ほどよりも大きな砂埃が舞い上がる!

木一少年は迷わず蟻地獄のくぼみ事、鷲掴みをする。


「ガバッツ!」


そしてゆっくりと掌を広げて先ほどと同じように息を軽く吹きかけて白い砂を払いのける。同じように蟻がもごもごと動きながら木一少年の手から脱出する。やはりまだ何も動くモノはいない。慎重に慎重に砂に息を吹きかけて細部にまで目をやる。


「・・・・!」


いた!蟻地獄が身動きもせずに死んだふりをしているではないか!!

ついに見つけた、木一少年憧れの蟻地獄との対面。(間違いなくニターっである。)

砂と同化した色で見付けにくい事100%。木一少年は持ってきた小瓶に砂を入れるとそこに蟻地獄を入れる。被せた蓋には穴を開け呼吸が出来るようにしておく。

そして、本当に蟻には申し訳ないが何匹か捕獲させてもらいその中にニターッとしながら投下する。(この時の木一少年の口は、口裂け女くらいの裂け具合で笑っていたそうな。)


家に小瓶を持って帰り蟻地獄の入った小瓶を玄関に置く。

そして次の日も何事も無かったかのように学校に行く木一少年。

(超凶悪犯の日常みたいな感じで普通の顔して学校で過ごしていたそうな・・・。)

帰ってくると予想通り蟻地獄は小瓶の中でくぼみを作り終え、中にいた蟻も姿を消していた。・・・残酷な蟻の結末。

昆虫観察と言えばとても素敵な話だが、あまりにも非情極まりない今世紀最大の残虐な犯罪となったのである。

しかし木一少年はその後、小瓶に蟻を投下するのを忘れた為に、蟻地獄も息を引き取る事になる。当時の木一少年は何も考えずに恐ろしい事をする存在だったそうな。

(本当に魔が差しただけなんです・・・と木一さんも深く反省しておりますので許してあげてください。)


ただ、この木一少年の話には世にも恐ろしい続きがあったのだ。

その昔、「蟻地獄(ウスバカゲロウの幼虫)」に触ると神隠しにあうという伝説があったのだ。蟻地獄について色々と調べていた木一少年も勿論この謎については知っていたが気にもしていなかったのである。

ただ、この事が木一少年が後に蟻地獄を捕まえなくなった最大の要因であると本人は語っております。


ある日の事、木一少年の母親が保険屋さんへの毎月の預け金3000円をテーブルに置いていた日の事である。

※当時は毎月の保険代は保険外交員が家まで預かりに来ていたのだ。

そのお金を見た木一少年がそのお金を隠して母親を驚かそうとしたのだという。

3000円を自分の座っていた座布団の下に隠し、保険屋さんが来るまで座布団の上にじっと待つ木一少年。可愛らしく書いてあるが多分、憎たらしい顔をしていたと思うとの事。(ニターではなくニヤリらしいとの事。)


「ピンポーン、ごめん下さい。〇〇保険屋です!」


「あ、集金ですね!お待ちくださーい!」


慌ててテーブルの上からお金を持っていこうとする母が、お金がない事に気付き、ニヤリニヤリしていた木一少年に、


「木一さん、お金隠したんでしょ?早く出してちょうだい!保険屋さんが待っているから!」


ニヤニヤしながら木一少年が答える。


「ないよー、しらないよー!」


(正直、早く出しなさいよ!という顔を母はしていたそうです。)


「嘘つかないの!早くしなさい!」


「はーい」


と言って木一少年が座布団の下に手を入れると、そこにあるはずのお金が無かったのである。びっくりした木一少年は座布団から飛び降りて座布団をひっくり返す。

・・・。え!!お金が無い!!そこには何も無かったのである。

あまりにも慌てた木一少年はさっきまでのニヤリニヤリとは違い、アワアワした顔になり、とにかく3000円を探しまくったのである。


「本当にここに置いたんです!信じてください!母上!」


と、焦って言う木一少年に母親が・・・。


「もういいわ」と言いながら財布からお金を出し保険屋さんに手渡す。


その後もありとあらゆる所を探した木一少年だったが、結局その3000円は40年経った今も見つからないままなのである。


その時、木一少年は思ったそうだ・・・。


___ウスバカゲロウの神隠し___


(ざわざわ・・・)


それ以来、木一少年は二度と他人様の家の縁の下にも潜入する事も無く、蟻地獄を捕まえる事も無くなったそうな。

その話を友達にすると、皆から嘘つき呼ばわりされたのは言うまでもない・・・というホラーな少年時代を送った木一さんなのである。

誠にくわばらくわばら・・・・な話なのである。


でも、私にその話をしている時の木一さんの「トモ子さん!信じてください!本当の話なんです!ウスバカゲロウの神隠しは本当にあるんです!!お金が消えたんです!!」と必死に言う顔は、本当に可愛くてぎゅっとしたくなったのである。


(でもそんな事あるのかなー?という顔をしたのは言うまでもないですが・・・。ふふふ・・・。)






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