第14話 自動給餌器
明後日は、朝から知人の家に皆で遊びに行く事になったのだが、あいにく田中さんとウーワンさんは連れていけないのでお留守番をしてもらう事に。
帰る時間が少し遅くなりそうなので木一さんと何か良い物は無いか?と犬の本からおすすめアイテムを探した結果、素晴らしいアイテムを見つけたのである。その名も、
「自動給餌器ー!」ジャジャジャジャーン!
※〇〇えもんみたいに読んでくれると尚更凄いアイテムっぽくなる。
なんと、この機械、決まった時間に自動でご飯を出してくれるらしい。これは凄い機械だ。我が家の田中さんと言えば、目につくご飯は一気に全部を平らげてしまう。
その為、朝のうちに夜の分まで出しておくなんて事は出来ないのである。
だからこそ今回のような状況には間違いなく必要なアイテムだったのだ。
その犬の本に載っている商品紹介ページには、犬達が可愛くお留守番していて、夜のご飯の時間になるとこの自動給餌器から出てきたご飯をお行儀よく食べる・・・みたいな写真が出ていたので私と木一さんは目を合わせ、(間違いない!)と頷く。
その時間までご飯が出ないのであれば田中さんも食べれないから我慢出来ると思ったからだ。
そしてカタログからその商品を購入する事に決定したのである。
商品が到着して直ぐに箱から出し、田中さんとウーワンさんの前に置いてみる。
すると田中さんは届いた自動給餌器を見た途端、不思議そうにその自動給餌器の周りをぐるぐると歩き、臭いを嗅ぎ始める。
そして足の爪でカリカリといじくり始めたのだ。
(くんくんカリカリくんくんカリカリ)の連続である。
「ちょいちょーい!待ってください!田中さん!それは大切な機械なのですよ!壊したらダメなんですよ!だからカリカリは止めてください!”ノーカリカリ・イエスくんくん”でお願いします!」
と、教えるとカリカリはやめてくれた田中さんだが、言う事を聞いているのか分からないがくんくんと匂いを嗅ぎ続ける。
「田中さん、まだ何も入ってませんよ!それは今度私達が返ってくるのが遅い時にご飯を中に入れて自動でお二人にご飯を出してくれる機械なんですよ!凄くないですかー!!オートマティックですよー!」
トモ子さんが田中さんとウーワンさんにその新しい機械の事を説明する。
ウーワンさんはぐるぐる回る田中さんをただじーっと見ているだけ。特にその機械に興味はなさそうだが田中さんの動きが気になって仕方ないのだろう。
「トモ子さん、でもこれで安心ですね!なんでもっと早く買わなかったのでしょうかね。最高な便利グッズを見つける事が出来たので早く使ってみたくなりますよね。留守番タイムの安心アイテム!」
「本当に、こういうのあったらいいな!というのが犬の雑誌の世界には山盛りですね!全部試してみたくなりますわ!」
あまりのウキウキ具合に喜びのダンスを踊っている私を見て、田中さんとウーワンさんが同時にこちらを見て首を傾げる。
(かわゆいわー!その姿。まるっきり同じ動きしてるー!)
_____
そして出かける当日になりました。トモ子さんは二人分のご飯を自動給餌器に仕込む。
「これで良し!」
「田中さん、ウーワンさん良かったねー!楽しみでしょ!」
木之助さんが二人に話し掛ける。
「食べ残しちゃダメですよー!」
と、木治郎さんも二匹をわしゃわしゃやりながら伝える。
「では行ってきますよ!良い子にお留守番頼みますよ!」
木一さんと皆が二人に手を振る。
_______
さて、ここからは田中さんとウーワンさんからの会話でお送りします。
「ガシガシガシガシ」
「田中さん、そんなにその機械かじっちゃ駄目ですよ!」
ウーワンさんが優しく注意する。
「ウーワンさん、ここからご飯の香りがするんですよ。でもご飯がどこにもないんですよ。お宝はすぐそこにあるはずです!」
田中さんはその自動給餌器の中からの香りが気になるらしい。
「田中さんは、さっきガシガシやってトモ子さんに怒られましたよね?」
ウーワンさんが(まあまあ落ち着いて下さい!)みたいな感じで田中さんを注意する。
「でも、この香り絶対にいつものご飯ですよ!なんで隠したのか分かりません!ウーワンさんも手伝ってください!絶対にどこかにご飯があるんです!」
とにかく前足でカリカリを止めない田中さん。
するとその勢いで自動給餌器が突然倒れたのである!!
「ガチャン!!!」
「あ!倒しちゃったじゃないですか!怒られますよ!知ーらないよー知らないよーセンセイに言ってやるー♪」
と、ウーワンさんが驚いて叫ぶ。
「ひゃー!どうしましょう!!でも、香りがより強くなって鼻の中に入ってきますよ!もうご飯は目の前です!」
「ダメですよー!怒られますよー!田中さんそのままにしておきましょうよー!」
田中さんはそんな簡単に犬の言う事を聞くような犬ではない。
目標を見つけるとひたすらそこに向かって前進するのである。
犬なのに「猪突邁進」。
そう、ゴルゴ13のように狙った獲物はしとめるのが掟のような田中さん。
すると今度は自動給餌器の繋ぎ目みたいな所をかじり始める。
「ガリガリガリ・・・!」
「田中さん!ダメですよー!壊れちゃいますよー!」
「でも、中からご飯の香りがするんです!」
田中さんには自動給餌器の役割なんて分かる訳がないのだ。
ひたすら隠された秘宝を探し出すかのように自動給餌器をこじ開けようとしているのである。まるでインディ・田中さーんなのだ。
見かねたウーワンさんが田中さんに近付いてつんつんする。
「止めましょ。本当に止めましょ!怒られますよ!田中さん・・・。」
その時だった!
「ガチャン!!」
まさかの自動給餌器をこじ開けてしまったのである。
そして中から出てきたご飯に食らいつく田中さん。その姿はまるで獲物を仕留めた後に獲物に群がるハイエナのような姿だったのである。
ところが、中から出てきたご飯の香りに吸い寄せられてウーワンさんも近付く。
猛犬のように食い散らかす田中さんを横目に、ちょんちょんとご飯を突き始めるウーワンさん。
田中さんの心の中ではウーワンさんも共犯者になった気分になったのである。
見事お昼前には自動給餌器からご飯を取り出す事に成功した田中さんであった。
そして無理やり共犯者に仕立てられたウーワンさんがぽつんとしている。
(・・・やってしまった・・・。)
____
「ただいまー!」
吉成家が家に戻って来た。
そしてリビングに入って二人がご飯をきちんと食べたか確認しようとした時、目の前にはガラクタと化した自動給餌器がバラバラになり散乱しているではないですか!中身もすっかりと無くなり、その横で地べたにペタッと寝ている田中さんとウーワンさんがいたのである。
「・・・・」
「えーーーーーー!!」
「自動給餌器が壊されてますよ!木一さん!」
トモ子さんの叫び声を聞いて木一さんが玄関から走ってくる。
そしてリビングに広がる光景を見て一言。
「まさしくイリュージョーン。」
それを聞いていたトモ子さん、木之助さん、木治郎さんも皆で、
「イリュージョーーン!」
田中さんもウーワンさんも結局はイリュージョニストであったのである。
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