第13話 夫婦喧嘩

世の中にはいろんな坂がある。


「桜坂」「大阪」「下り坂」「わんさか」「ガンバ大阪」

そして・・・、「まさか」!!!である。


今日吉成家ではその「まさか」!が起こったのである。

なんと、あのいつも笑顔の木一さんと、木一さんの事が大好きなトモ子さんが喧嘩したのである!


「母さん、大事件です!」


と、誰に対して言っているか分からないが、木治郎さんが呟く。

今日はその喧嘩を木治郎さん目線で見てもらおうと思う。


「木一さん、私は今日だけは言わせて頂きます!長い間我慢してきましたが・・・、目玉焼きは半生が良いんです!そのプルンプルンとした表面の薄ーい膜の真ん中に箸をチョンと刺して中から黄身がトローンと出てくるあの様はなんと芸術的なんでしょうか!そしてそのトロンと出てきた黄身に唇を近付けて口先が触れた瞬間に一気にすする!!!そしてそのとろとろの黄身が喉をするっと通るあの感触がたまらないんです!!もう悶絶ものなんです!!」


トモ子さんが目玉焼きの半生の良さを木一さんに伝えているのですねー。

木治郎さんは柱の後ろから家政婦さながらの体制で観察を試みている。

勿論、木治郎さんの後ろには田中さん、ウーワンさんも続く。


「トモ子さん、言わせてもらいますが、以前から半生半生と言ってましたが目玉焼きと言ったら間違いなくちょうど良い固さで仕上げるのが最大のポイントなんです。そこの黄身の部分に箸をすっと入れて穴を開け、その中に一滴醤油を垂らします。その中に段々と染み渡る醤油。まるで大海原を泳ぐイルカのように優雅に広がるんです。そして10秒後にそこに箸をガバッと入れて醤油味がほんのりと付いた黄身をすくい上げて食べるのです。そのほくほく感と何となく口の中で広がる黄身と醤油のハーモニーが最高なんです!」


木一さんが黄身の固さと醤油のハーモニーについて語っているのですね。

まるで「黄身の終わりのハーモニー♪(夏の終わりのハーモニー)」みたいですね。


「じゃあ、納豆はどうでしょうか?木一さんは混ぜないでご飯に乗せますがどうしてもそれが気になります!納豆の事をきちんと理解していないからそのような食べ方をするんです!!納豆は納豆菌が大豆の成分を分解してねばねばする成分のフルクタンとポリグルタミン酸という2つの成分を作って、納豆の粘りを出すんです。

フルクタンにはあまり味は無いですが、私達の体の中で腸内細菌の餌になるのと同時に、このフルクタンは納豆のネバネバを安定させる役割があるのでかなり重要なんです!そしてポリグルタミン酸は、私達が食べる時にしっかり納豆をかき混ぜると、ポリグルタミン酸から旨味成分で有名な「グルタミン酸」が作られてそれはそれは美味しい味がうまれるのでありまーす!」


トモ子さんの解説は難しすぎて木一さんがダメージを受けていますー!!


「トモ子さん、よろしいですか?確かに仰る通り、旨味成分が生まれて美味しくなるのかとは思いますが、それも人それぞれの好みによるものかと思います!

それを押し付けてはなりませぬ!「It depends on the person!!」なのです!

何故なら旨味成分が出たとしても良くかき混ぜる事での栄養成分に変わりは無いのでありまーす!なので私は断固として、納豆は混ぜない”ノーネバネバ”を推進したいと思っております!!しかもご存じでしょうか??納豆のパックを開けて上に乗っているフィルムを上に剥がすとネバーっとしますよね?あれも実はネバーっとさせないコツがあるのでーす!どうやるかというと、フィルムを納豆に対して上に持ち上げるのではなく、横にスライドさせれば”ノーネバネバ”なのでーす!」


へー、木一さんもなかなかやりますねー!納豆は混ぜても混ぜなくても栄養は変わらないんですねー!しかもフィルムの剥がし方は嬉しい情報でーす!僕も今すぐにでも納豆のパックで試したいでーす!のーねばねばのーねばねばー!


「むむむむ・・・。その納豆のフィルム剥がしは、是非私もやってみたいですね。じゃあ、今夜にでも納豆を混ぜないで食べるというのはどうでしょうかね?私も木一さんのそのやり方を一度・・・。」


あれれ?トモ子さんが木一さんの食べ方に賛同したぞー!


「まあ、分かってくださればいいのですが、私も今日はその旨味成分とやらを久し振りに堪能してみようかな?と思っています。”イエス!ネバネバ”で。」


へー、木一さんも混ぜる気満々だー。


「それと、トモ子さん、明日からは目玉焼きは”半生”と”固め”を交互に日替わりで、というのはどうでしょうか?」


「はい、私もそのやり方を提案しようかと思っていました。」


結局ラブラブなんだー!

と、嬉しそうにしている木治郎さんの後ろで田中さんとウーワンさんも尻尾をフリフリしている。


雨降って地固まるーーー。


「結局木一さんたら優しいんだから・・・。ポッ」


「トモ子さんこそいつも素敵ですよ・・・ポッ」


最終的には顔を赤らめるお二人であったのである。


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