第11話 能天気な田中さんとシュールなウーワンさん。

我が家にウーワンさんが来てからは家族みんなが田中さんとウーワンさんを中心として動くようになってきたのである。元気で明るい吉成家は更に楽しい憩いの場と化したのだ。ただこのお二人、驚くほどに性格が真逆なのである。

例えるならば真面目な大学教授とコメディアン・・・。


ある日のパートの帰り、私は近くのペットショップに寄って、お二人におもちゃを買ってきてあげる事にしました。

二人が喧嘩をしない様に同じものをそれぞれに。

早速家に帰り、二人の前にそのおもちゃを置く。

するとどうでしょう。田中さんはそのおもちゃを直ぐに咥えてぶんぶんと振り回す振り回す、さらに振り回す。喜んでいるのか恐怖映画のワンシーンなのか分からない程の激しい動きが目の前で繰り広げられている。

それを見ていた私達は、高速で動く田中さんの首の動きに少しだけ酔ってしまう。

(可愛い可愛い可愛い怖いい怖いい怖いいこわいいーーーー!)

そして、その咥えていたおもちゃが田中さんの口から外れ遠くへと飛んでいく。


「フガッ!!フガ!!」


田中さんの変な声と共にそのおもちゃは台所の方へと姿を消したのだ。

そして田中さんは無くなったおもちゃの事は忘れて「シー!」とか言いながら歩き始めた。その「シー!」が爪楊枝で取れない食べかすを必死に取ろうとしている時の木一さんの声にそっくりだったので瞬間的に嬉しくなる。


その横でそんな様子を見ていても微動だにしないウーワンさんが変な動きの田中さんをジーっと眺めている・・・。


(ゲラゲラゲラ・・・)


そのシュールな二人を見て吉成家は皆で笑い転げる・・・。


田中さんとは違い、自分のおもちゃには触れずにじっとしているウーワンさん。

それもそのはず、あまりにも激しい動きをする田中さんに呆気にとられている様子・・・。

すると、自分のおもちゃを吹き飛ばした田中さんはウーワンさんのおもちゃを「ちらっ」と見る・・・。その田中さんの「ちらっ」が家政婦風で嫌な予感しかしない。

テケテケと歩く田中さん・・・。想像通りにウーワンさんのおもちゃを奪い、そして咥えると同じように首をぶんぶんと振り回す。振り回す。

よーく見るとアイドルのファンがペンライトを持って踊る姿にも見えなくもない。

ウーワンというアイドルを応援しているウーワン推しの田中さん・・・。みたいな図と言えば良いお話になるが、単純に人様の物を奪っている悪い人の話でしかないのである。


「ダメだよ!田中さん!それはウーワンさんのですーーーー!」


と、木治郎さんが田中さんを注意するが完全に無視してぶんぶん振り回す。


・・・、いや待てよ・・・。ユーロビートに合わせて踊る木一さんにも似ているかも、とか思いながら私はその様子を見続ける・・・。


しばらく田中さんはその激しい動きを繰り返していたが、どうやら疲れてきたようだ。床にべたっと寝そべりぐったりとする。かなり能天気で自由だ。田中さんには新しい称号「破天荒」を与える事にしよう。

それはそうだ・・・。あれだけ動けば疲れるだろうと、家族全員が呆れ顔になる。

すると横でじっとしていたウーワンさんが”てくてく”とおもちゃの方へと近寄っていく。勿論それはウーワンさんに与えたおもちゃだから権利もウーワンさんだ。所有権は間違いなくウーワンさんである。

そしてウーワンさんはそのおもちゃに顔を近付けると、くんくんして臭いを嗅いでいる・・・。可愛いお姿である。「ウーワンくんくん」・・・ウーワンさんにも新しい称号を与えてみた。


するとなんて事でしょう!!横から田中さんが飛び起きるとすかさず走っていき、そのウーワンさんの目の前にあるおもちゃをまたしても奪う。


OH MY GO-----D!!なんて事でしょう!!


「ダメだよー!田中さん!それはウーワンさんの!田中さんのは自分であっちに投げたでしょ!あれを取ってきて!」


と木之助さんが田中さんに教えてあげるが完全に無視。

それを見た木之助さんは諦めて田中さんのおもちゃを拾ってウーワンさんの前に置く。すると田中さんが走ってきてまたしてもそのおもちゃを奪う。


結局床の上には二つのおもちゃと戯れる田中さんと、その姿をじっと見つめるウーワンさんがいたのである。


でもよく考えると、犬だからおもちゃで遊ぶのは普通なのかもしれない。

寧ろ、遊ばないウーワンさんが不思議なのかもしれない。


そして二人のお待ちかねのご飯の時間になったのだ。

今ではウーワンさんもご飯を食べてくれるようになって一安心。とても穏やかに食べるその姿はまるで貴族出身のような上品さ。

その反対に田中さんと言ったら、誰も取らないのに誰かに取られるんじゃないかと思うくらいにガツガツと食べている。


__それはまるで音速の貴婦人__


あっという間に自分のご飯を平らげると、ウーワンさんの事をちらっと見ている。いやらしい目つきでウーワンさんのご飯までも射程に入れている。

すると、優しいウーワンさんはご飯から一歩下がって口の周りをぺろりとする。


ペロリが、かわゆすぎるじゃありませんか!


この後は想像通りの展開です。田中さんがウーワンさんの残りのご飯を猛獣のごとく荒々しく食い散らかす。


なんて事でしょう。

本当に二人ともレディーなんですよね?

田中さんは・・・性別は無いの?

と思うくらいの動きで吉成家を笑わせてくれました。

それにしてもあまりにも違う性格で、その歪な凸凹コンビさがたまらないのである。







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