第10話 新たなる刺客
今日、我が吉成家に新たなる仲間が加わる事になりました。
___またもや保護犬を預かる事にしたのである。
薄茶色の小型犬・・・チワワの女の子だ。
___数週間前の事___
家族が誰もいない留守の時間は、田中さんが一人だけでは寂しいのではないか?
そして、他にも助けられる命があるならば・・・という話からも、もう一匹保護犬から引き取るのはどうか?
___そんな思いから家族会議が始まったのである。
勿論、田中さんの意志も聞いてみた。
「田中さんはどう思いますか?率直なご意見を!」
と木一さんが聞くと、
「ワンワン!」
田中さんは二つ返事だった。
これで意見は揃った。家族全員がこの提案に賛成でニューフェイスを迎え入れる体制が整ったのである。
そして保護犬達を見に行った日の事、ほとんどの犬がゲージ越しに私達に気付いて扉に飛びついてくるのに対し、片隅でじっとして見向きもしてくれない犬が一匹だけちょこんと・・・。その犬はあまりにもこちらを見てくれない為に、逆に気になって仕方がないのが吉成家。
(なんでこっち見てくれないのですかー??)
と、木治郎さんが悲しそうに声を掛ける。
(おーい!おーい!木之助です!!)
と、木之助さんが自己紹介。
(元気ですかー!1.2.3ワーン!)
木一さんだけ可笑しな事言ってますが、全て無視される結果に。
微動だにしないその犬の事を知りたいと思い、施設の人に聞いてみる事に。
”何故あのワンちゃんは片隅で動く事も無くじっとしているのでしょうか?”と。
どうやら飼っていた人に捨てられて人間不信になり他の犬とも戯れず、いつも壁際にじっとしているそうだ。このままだとずっと引き取り手がいないかもしれないというではないか。
それは大変です!ほっとけない・・・という事で全員一致でこの犬を我が家で育てる事にしました・・・というのがこのワンちゃんとの出会いなのである。
____
新しく家に来たチワワちゃん。
家に入った途端に隅の方へと行くと、こちらには見向きもせず、寄ってきてもくれない。やはり隅っこが定位置なのかもしれない。
家族で集まり色んな名前で呼んで田中さん同様、自分で名前を選んでもらおうと思ってみるが、ワンちゃんは全く吠えてもくれない。
とにかく家の中にいる気配すら無い程静かに息をひそめているのである。
我が家に来たばかりで不安なのも分かる。
とりあえずそのワンちゃんの横にお水とご飯を置いてみる事に。
(・・・・・。)
水は少しだけ飲んだがご飯はまるっきり食べない。
放っておけば食べるかと思い、次の日の朝見てもご飯はそのまま残っている。
不安になり施設に電話してみる事に。
「あのすいません、吉成ですがワンちゃんが何にも食べてくれないのと、こちらにも全然寄ってきてくれないんです。どうしたらいいのか分からず、何か対策はありますでしょうか?」
心配そうにしている私の言葉を聞き、施設の人が私の疑問にアドバイスを下さった。
「あの子は本当に人見知りなんです。とにかく自分達から近寄ったりしないであの子から近寄って来てくれるのを待ってみてください。無理やり食べさせようとしたり、強引に近付くと逆効果になる事があります。犬は数日ご飯を食べなくても大丈夫な生き物ですが、3日くらい食べなければ病院で相談すると良いかもしれません。とりあえず暫くは我慢して様子を見てあげてください。」
なるほど、とりあえず相手が来るまで待てば良いのですね・・・。
(私達まーつーわ!いつまでもまーつーわ!)
しかし、一日でもご飯を食べないと不安で仕方ないのである。
そんな事は気にせず田中さんは横でガツガツ食べている・・・。
そうだ、仕方が無いからこの間に私達で名前を考えてあげよう!それでこれからはその名前で呼んであげよう。選べないなら選んであげようホトトギス。そうだ、そうしよう!
(この子が欲しい!あの子が欲しい!♪)
____
「皆さん、それでは新しく我が家に来てくれたチワワちゃんがなついてくれないので、今のうちに名前を考えて上げてこれからはその名前で呼んであげようという事になりました。田中さんのように”ワン”とも言ってくれないし、近寄ってもくれません。という事で”名前を付けて片隅から救出しよう大作戦!”を決行したいと思います!」
木一さん主導でこの作戦名も決まった。
「良いですね!決めてあげましょう!名前何が良いでしょうかね?」
「僕も考えますー!何が良いですかねー???」
「本当に皆さんが出掛けている時も一度も近寄ってくれませんし、ご飯もまだ・・・。もう二日になります。とりあえず、名前だけでも付けて上げないと家族になった気分がしませんからね。今回は仕方がありませんね。」
家族一同で名前を考えている最中、何も気にしていない田中さんがワンちゃんに近寄っていく・・・。そして急にそのワンちゃんの顔をペロペロし始めた!
(な、なんと大胆かつ無神経な!)
すると!!!静かだったそのワンちゃんが田中さんに唸りだし、さらには吠えたのだ!
「うーーーーうーーー!ワン!」
怒っている!!咄嗟に危険な空気が流れたので木之助さんが田中さんを抱っこしてこっちに連れてくる。
「田中さん!ダメだよ!まだ慣れていないのにちょっかい出したら!」
と木之助さんが腕の中の田中さんにダメ出しをする。
田中さんは何も無かったように木之助さんの腕をペロペロとしている。
「くすぐったいよーー!!」
流石はクイーンオブ能天気!田中さん!そんなやり取りがまたあわれなり・・・。
そして、木之助さんが田中さんを床において話し合いを始めようとすると田中さんは懲りずにワンちゃんの方へと近寄りまたも顔をペロペロとしたのである。
「うーーーーー!ワン!!!」
ほら言わんこっちゃない。また、田中さん怒られているよ、みたいな顔を皆がする。
「あ!良い名前思いつきましたー!」
突然、木治郎さんに名前のアイデアが舞い降りたらしい。
「どんな名前なんだい?」
木一さんが笑顔で木治郎さんさんに聞く。
「ウーワンさん!」
「・・・??」
「だって、自分で名前を言ったでしょ?ウーワン!って」
私は瞬間驚きました。あまりにもセンセーショナルな発想。
名前を言った?・・・のではなく吠えたのですよ!木治郎さん。
そんな所からその名前を??木治郎さんの中に芸術的センスの塊を見付けた気にさえなったのである。
「良いかもー!ウーワンさん!ウーワンさん!」
木之助さんもその名前に盛り上がる。
「良いですねー!なんか、異国の人みたいな名前ですね!外国人が我が家にやって来たみたいで!」
木一さんも喜ぶ。
まさかの、今回もワンちゃんが自分で選んだというよりも、自分でこのように呼ぶのだよ!と教えてくれたような気がしたのである。
という事でワンちゃんの名前は「吉成ウーワンさん」に決まったのである。
すると椅子から木一さんが離れてウーワンさんの近くに行く。
木一さんはいきなり四つん這いになり田中さんと共にウーワンさんを取り囲む。
「ウーワンさん!ウーワンさん!」
そう言いながら犬の真似をして戯れようとしているが肝心のウーワンさんは、
「うーーーワン!」と吠え続ける。
喜んでいるのですね。そのお名前に。
続いて木之助さんも木治郎さんさんも四つん這いになり犬になってぴょんぴょん走り回る。という事で私も真似したくなり結局は私も四つん這いに・・・。
吉成家は今、全員が四つ足歩行になりました。
吉成家は本当に面白いです。
皆が四つん這いで「ウーワン」言ってるのである。
その夜、ウーワンさんが・・・ご飯を食べたのです!
奇跡です!私達はその様子に安堵し、ウーワンさんは吉成家の一員として仲間に加わるのでした。
これを機に、家の中で四つん這いで歩くのが少しだけ吉成家ではブームになりましたとさ!めでたしめでたし・・・。
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