第9話 木一さんとデート

久し振りに木一さんが会社から早く戻ってくるという事で今日は二人だけのデートに誘われました。

私もパートで働いているパン屋さんの仕事が終わり、今日はルンルンで帰ってきたのである。パン屋さんから貰った残りのパンを木之助さんと木治郎さんに食べてもらおうと、机の上にメモと一緒に並べておく。


_______


         木之助さん、木治郎さんへ(おっと!田中さんも)


お帰りなさい。今日は木一さんに誘われてデートをしてきます。ご飯の時間までには戻りますのでこのパンを二人で食べてください。

お留守番をお願いしますね!田中さんと遊んであげてください!


            トモ子より

_______


これで良し。あとは木一さん待ちである。

何処に行くのかな?と考えていても出会った時の事ばかりが思い浮かぶ。

木一さんは大のサプライズ好き。

きっと、今日もサプライズで私を驚かせてくれるはずです。

あまりのワクワクに田中さんに絡んでしまう私。


「田中さん!今日はデートなんですよ!木一さんとデー・ト!!ですよ!」


「・・・。」


最近では眠っている田中さんに話しかける事で満足しつつある私。

田中さんのツンデレにも慣れてきたので相手をしてくれない事も気にならなくなってきたのである。

ただ、毎回田中さんの横腹に”つんつん”はお約束になってしまった。ぷにょぷにょしている田中さんの横腹は本当に気持ちが良いのである。


「・・・・。」


安定の無視・・・大丈夫ですよ!きっと私のぷにょぷにょ攻撃が気持ち良いんですよね?田中さん・・・と、かなりポジティブな私。

そんな事をしていたら木一さんが家に戻ってきたようだ。


「ただいま!お待たせしまた!愛しのトモ子さん!」


「お帰りなさいませ!木一さん!」


常に元気で裏表がない木一さんは本当にステキです。


「それでは行きますか!デートに!」


「はい、ご一緒させて頂きます!!」


ルンルンの気分でスキップをしたくなります。


「とりあえず車に乗ってください!トモ子さん!」


「はい!飛び乗ります!」

(ちょっとだけ坂上二郎の飛びます飛びます!みたいな感じで言っている私。)


二人を乗せた車が走り出す。

まるでこの世界には二人しかいないかのような素敵な時間。

勿論、車でのミュージックはムードが弾けるくらいのJAZZ!と言いたいところですが・・・。

木一さんが大好きな音楽はユーロビート♪

ノリノリなダンスミュージックで昔の時代を思い出させるような動きをする。

運転中は危ないのでやめてくださいとお伝えしていますが、たまに”パラパラ”みたいな動きをするのである。

木一さんは昔はディスコキングなのか?と思う時もあるが、少しだけ音に乗れていない所を見ると多分”キング”ではない気がするのである。


「トモ子さん、たまには洋服でもプレゼントしようと思うんです。なのでファッションと言えば・・・!」


二人で同時に叫ぶ!


「まるいーーーー!」


「そうです!丸井に連れて行こうと思いますよ!」


昔から木一さんは洋服と言えば”丸井”だと思っている所が本当に可愛いです。

そしていまだに丸井と言えば”赤いカード”だと思っているからそこがたまりません!

いつも現金で買うので木一さんは知らないと思うのですが、私も知らないふりして一緒に”赤いカード”と木一さんに合わせて会話をする事にしています。


「嬉しいです!!でも木一さん、何で急に洋服なんて買ってくださるんですか?」


「そう言うと思いました。実はですね、昨日見ていたテレビでこう言っていたんですよ!」


_____


(奥様のお悩み拝借!えー、今日のお手紙はですね、ご主人への奥様の悩み!を読んでみたいと思います!品川区の”夢見る夢子さん”からのお手紙です。えー、うちの主人と結婚して10年になりますが、最初は沢山プレゼントをしてくれたのに今ではまるっきり私に興味がないようで何も買ってくれません!きちんと興味を持ってもらうにはどうしたらよいでしょうか?また、出会った時のように仲良くするにはどうしたら良いでしょうか?というお葉書が来ております。〇〇さん、どうでしょう?いいアイデアありますか?)


(まあ10年も経ってればそんなものだと思いますよ!でも、今でもご主人にそんな思いを抱いているなんてラブラブですねー!まあたまには一緒に洋服でも買いに行こうよ!とか自分から話し掛けてみるのも良いかもしれませんね!)


「っていう感じで、司会の方とゲストの人がやり取りしていたわけですが、そう言えば、うちも最近は一緒に二人で洋服なんて見ていなかったな!と思ったので、私はトモ子さんに興味がありますよ!というのを示すためにお誘いしたわけです!もしかしたらトモ子さんがそんな悩みを持っているかもしれませんからね!」


木一さんはすぐにテレビとかにも感化されて本当にカワユイデス。発想も子供のようです。でも、そのお気持ちしっかりと受け止めますよ!


「木一さん、凄く嬉しいです!そんな風に思ってくださるなんて。実は私も洋服を最近買っていないな・・・と思っていましたので丁度良かったです!木一さん好みにしてもらいましょうかね?」


トモ子さんも私好みにとか言って昔から変わりませんね。いつも”UP TO YOU!”と言いますよね!


まるでカップルのような会話と二人だけの時間に酔いしれる二人の車は大通りを抜けて丸井に到着。

____


「トモ子さんは何処の服が良いとかありますか?セイラーズとかパーソンズとか?」


「木一さんたら、やですよ!それでは”夕焼け○○”の時代からなにも進歩していませんよ!」


「え?そうなんですか?あの時代に見ていた番組のまま頭の中がフリーズしていました!」


ちょいちょい英語を入れてくる感じが何だか昭和な感じで素敵です!


「では、三階のカジュアルフロアーに行きましょうか?そこで木一さんも一緒に私に似合うものを選んでください!」


「がってん承知の助!」


本当に面白い事を言う木一さん!その時代遅れのフレーズも木一さんが言うと時代にマッチしているのである。


二人は久し振りに手を繋ぎ三階へと上がる。久し振りに手を繋いだせいか、木一さんの手が汗ばんでいるのを感じるトモ子・・・。


「あれ?木一さん暑いですか?手に汗が・・・。」


「いやはや!昔から手を繋ぐと緊張して手から汗が出るんですが相変わらず緊張してしまい・・・。」


あら!!!やだ!こんなに年月を重ねてもまだ緊張して下さるなんて。本当に木一さんたら!!!おくゆかしい!!

手に汗を感じながらも絶対に手を離さないトモ子さんである。


「あ!トモ子さん!この”つなぎ”なんか良いと思いますよ!絶対にお似合いですよ!」


”つなぎ”なんて、今は言わないですよ!木一さんたら!


「木一さん、これは今はサロペットと言います!”つなぎ”という言葉は言わないわけではありませんが、あまり使わなくなりましたよ!」


「いやー、これは参った!トモ子さんに一本取られましたね!サロペットですか!!覚えられるかなー?次も”つなぎ”と言ってしまいそうです!はははは!」


何回でも間違えてください!すべて私がキャッチアンドリリース!しますから!


「では木一さんのおすすめのこの”つなぎ”試着しても良いですか?お待ち頂きますけど。」


「もちのロン太郎!ですよ!待ちますし見たいですし、ぞっこんラブ貴女に夢中でございます!」


この言葉選びのセンスは世界で一番の木一さん。ではお待ち頂く事にしましょう。


____


試着室で着替えが終わるとカーテンを開けて私が登場する。目の前には田中さん以上におやつを待っているような姿の木一さんがこちらをジーっと見ている。


「素敵ですよ!トモ子さん!やっぱり何でもお似合いですね!ワンダフルー!座布団一枚やっちゃえ!」


「木一さん、座布団まで行くと、面白いという事になるのでそれはいらないかもしれませんね!」


本当にダジャレの連打で素晴らしいです。いつでも手を抜かず全力で畳みかけるように言ってくるダジャレが本当にいとあわれなり・・・。


「お!そうでした!でもそれ位お似合いです!!」


という事で、私はこの”つなぎ”を買ってもらう事に。


「木一さん有難うございます!大切にしますね!」


その後、木一さんは洋服には興味がないようで、”お茶でも”という事になりカフェに入る二人。


「二人だけのカフェなんて久し振りで・・・、恋をしていた時以来ですかね?」


という、木一さん。近所のマックはカフェから除外なんですね・・・。


「はい、でも私は何を頼もうかなー・・・。」


「僕はウィンナーコーヒーで!」


「あ!懐かしい!では、あたしもウインナーコーヒーにします!」


二人でよく飲んだ想い出のウインナーコーヒー。

木一さんはホイップクリーム好きでいつも最初に食べるか最後まで取っておくか悩んでいましたね。でも最後まで取っておくと結局少し溶けるという事で最初にスプーンですくっちゃう事になりましたね。本当にあの時の事は今でも忘れられない想い出である。


・・・?木一さんどうしましたか?と思っていると、


「生クリームを先に食べるか後にするか迷っちゃうんですよね・・・。」


タイムトリーップ!!!同じ事を言っている木一さんかわいいーーーー!


「木一さん、あの、以前にもそれで悩んで、その結果、最初に食べた方が美味しかったという事でスプーンですくって食べていましたよ。」


「あ!そうでした!忘れてました!了解了解!今からあなたをすくって食べちゃいますね!」


と言って、スプーンで形が崩れない様にすくい上げる木一さん。そしてそのクリームをゆっくりと口に運ぶと一口で・・・ぱくっと!いきました。

その後ゆっくりと口の中で溶かしている顔が・・・たまりません。そして木一さんの一言。


「まいうーーーー!」


木一さんたら!お願いします!声だけもう少し控えめに!と、心の中で呟く私。


「美味しいですか?では私のクリームも食べますか?」


と、差し出すと、紳士である木一さんはそれを無言で断り私の方へ戻す。


「トモ子さん、もし、私がクリームを食べてしまったらトモ子さんの注文したものはウインナーコーヒーではなくただのコーヒーに格下げされてしまいます。だからお気持ちだけ受けとっておきます。」


そのシンプルな回答が心に響き、改めて木一さんの優しさを感じたのである。

そして私も最初にスプーンですくってクリームからのコーヒーにという流れになったのである。


____


そんな楽しい時間も終わり家に帰る事に。

家にはお腹を空かした三人が待っている。

_____


「ただいま!皆さん!」


私と木一さんで家に入ると三人が迎えてくれる。


「何買ったんですか!トモ子さん?」


と聞いてくる木之助さん。


「見たいですー!」


と袋を覗こうとする木治郎さん。


「ワンワン!」


と言って私達の匂いを嗅ぎまわる田中さん。


「ちょっと待っていてください!着てくるのでそれまでお待ちを!」


ついつい私も嬉しくなり着替えてから登場したのである。


「これです!じゃーん!」


「おーーーー!」


と、皆から歓声が上がり続いて三人から出た言葉が・・・。


「つなぎだー!」


木一さんはすっかりとサロペットの事は忘れて子供達と一緒に”つなぎ”と呼んでいたのである。本当に可愛い・・・。


「そうです!”つなぎ”を買いましたーーー!」


と私も叫ぶ。


何とも楽しい家族である。





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