第7話 学校内パンデミック!

昔とは違い、今の時代は子供同士でも相手をあだ名で呼ぶ事も大問題となってきている。

子供同士ではそれが良い事か悪い事か、あるいはそれにより相手が傷付いているなんて事も考えていないからだ・・・。

そして、木之助さん、木治郎さんの学校でもこの問題が起こっていたのである。


___


「おはよう木之助!」


「おはよう高橋さん!」


木之助さん家族は、家庭内だけではなく、どこに行っても相手に”さん”を付けるのが基本中の基本である。だから勿論学校でも友達を”さん”付けである。


「でもさ、木之助の家って皆が”さん”付けで呼ぶんでしょ?それって怖くない?」


「なんで、これが普通だけど。弟の木治郎さんもいつもそうだよ。」


小さい時から当たり前だからその”怖くない?”と言われる事の方が怖かった木之助さん。


「木之りーん!とか、きーくん!とかの方が良いよー!」


と、横にいた真中さんが会話の中に混ざって来る。


「いや、うちの場合は”さん”一択なんだよね。でも、大人になったら結局他の人には”さん”を付けるんだから、それを今からやるか、大人になってからやるかのどっちかだから早い方が良いよ!本当にやるなら今でしょ!」


木之助さんは決してぶれない考えの持ち主。


___”さん”推進派だ___


「あ、山田先生が来た!」


山田先生は38歳独身の男性の先生だ。真っ直ぐな心の持ち主である事から木之助さんのお気に入りの先生である。


「はいー、みんな席に着いてー!今日は先生から話があるので朝礼するからねー。」


皆がそれぞれの席に急いで座ると朝礼係の木下さんが号令をかける。


「起立!気をつけー!礼!」


「おはようございます!」


皆が大きな声で朝の挨拶をする。


「着席!」


「えー、それでは今日はですね、学校内でも問題になっている”あだ名”についてお話がありますよ!きちんと聞いて皆で実行していきましょう!」


教室から(はい!)の言葉がちらほらと上がる。

その時、生徒の一人、石田さんの手が上がる。


「どうした?石田君。」


「はい、自分的にはあだ名が嫌ではないんです。なんかあだ名で呼ばれている方が仲良くなっている気がするし団結力が出てくるというか・・・。ちなみに僕は”いっしー”と呼ばれていて嬉しいんです。それが変わるとなると寂しさもあります。」


クラス内から(あるある・・・あるよねー)みたいな声がちらほらと聞こえる。


「そういう意見も大切だよね。分かるよ。先生が小学生の頃はほとんどがあだ名だったから・・・。でもね、時代は動いているんだよ。色んなものが世の中にあふれて、インターネットという物が出来てから匿名で人の悪口を書いたりする人も増えてきたんだよね・・・。だから色々と早めに変えていかないといけない時代になってきているんだよ!」


クラス内から(あるある・・・あるよねー。なんかネットの掲示板怖いよねー)という声がちらほら上がる。

すると、女子の吉村さんからも意見が出る。


「メッセージアプリでも悪口言う人がいるのも知っています!」


クラス内から(あるある・・・あるよねー。なんだかメッセージアプリ怖いよねー)という声がちらほら上がる。


「そうだね、先生の時にはそんなの無かったし、携帯なんかも持っていなかったからね。今はそれ位凄く怖い時代なんだよ。」


クラス内から(ないない・・・ないよねー。なんだか携帯無いとか怖いよねー)という声がちらほら上がる。

すると、女子の横山さんからも声が上がる。


「男子は女子に対して変なあだ名付ける人がいます!そういうの嫌です!そういう事する男子とか、本当にやめてもらいたいです!」


クラス内から(あるある・・・あるよねー。なんだかそういう男子嫌だよねー)という声がかなり上がりクラス内がざわつく。


「おいおいおいおい、ちょっと静まれーーーー!」

山田先生は実はロン毛なのだが、口癖で(おいおいおいおい)をよく言うのである。

その時は決まって髪の毛を後ろに(ふさっと)する。その様子はまるで”〇八先生”のようだった。


___そしてクラス内が静まる___


「そこでだーーー。先生達で話し合ったんだが、あだ名は人によっては良いかもしれないが嫌だという人も今の横山さんからも出たように少なからずいますよね。そこでだ、何か良い案を皆で考えないか?皆が平等に嫌でない呼び方をするっていうのはどうかな?というのが今回先生達の間でも出た意見なんだよ。まとまらなければ先生達で考える予定だけど、自主性を考えると皆が決めた方が良いかな・・・。」


クラス内から(たしかにたしかに・・・。たしかにそうだよねー。なんだかそういう意見怖くないよねー。)という声がちらほら上がる。


そこで木之助さんが直ぐに天高く手を上げる。


(シュパッ!)


「はいー、木之助君何か意見あるかな?」


「はい!僕は皆が名前の下に”さん”を付けるべきだと思います!」


(やっぱりやっぱり…そう言うよねー。木之助君なら言うよねー。)と、クラスから声が上がる。


「確かに、”さん”を付けるのは良い事ですよね。相手を敬っている感じで。他に意見ある人いるかなー。」


先生が後ろ髪を触りながら全体を見渡す。

さらには時々毛先を指先でくるくるとする。(ロン毛女子あるあるである)


(でも、面白いかもね?”さん”付けて呼ぶの。木之助ごっこみたいで)


と、男子から意見が出始める。


(あるある・・・あるよねー。なんだかそういう呼び方面白いよねー。)とクラスの女子からも声が上がる。


「はい!先生、僕も賛成です!」


と、箕輪君が賛成する。これを機に手を上げる人が増えて結局クラスの全員が木之助さんのアイデアを支持したのである。


そしてこの事により、学校内の”さん”付けが隣のクラスへと飛び火する。更にその横へと・・・。最終的には他の学年まで・・・。


_____



「皆さん聞いてますか?今話題となっている”あだ名”についてですがご意見は?」


木治郎さんのクラスの村西先生が皆に向かって話す。やはり他の学年でも話題は”あだ名”についてだ。


「はい!先生ー!」


「はい、木治郎君!どうそ!」


「僕は皆が”さん”を付けて呼ぶべきだと思ってますー!」


木治郎さんは、体をもじもじさせながらも”さん”を推進しようとしていた。


(でも、”さん”を付けて呼ぶのって、木治郎ごっこみたいで良いよね!)

とクラスからちらほらと意見が出てくる。


「木治郎君の他に意見ありますかー?」


と、村西先生がズレる眼鏡を指で上げながら皆を見渡す。


ざわつくクラスの色んな所から声が上がる。


「”さん”付けて呼ぶの良いと思います!誰でも嫌な思いしないもんねー。」


と、クラスの峰村さんが言う。


クラス内から(あるある・・・あるよねー。その呼び方良いよねー)という声がかなり上がってくる。


そしてこの”さん”付けが良いのではないか?という話し合いは高学年から低学年まで全ての人間が大声で叫び出す。


___廊下中に響き渡る”さーん、さーん、さーん”という声。


木之助さん!は!木治郎さん!は!木之助さん!は!木治郎さん!よいしょ!木之助さん!よー!木治郎さん!いえーい!木之助さん!ほい!木治郎さん!どっこいしょ!木之助さん!は!木治郎さん!よ!木之助さん!しゃー!木治郎さん!へーい!


____学校中に二人の名前が木霊する。


皆がこの”さん”付けに賛同したのだ。


これがこの学校で後にこう呼ばれる事になる・・・。


「木之助・木治郎パンデミック!木之助・木治郎パンデミック!」


「パンデミーーーーック!」


吉成家から始まった”さん”付けはとうとう学校内にも広がったのだ・・・。

それもたった一日で・・・。


そして小学校には二人の銅像が建つ事になったのだ・・・。


____


「おはよう!木治郎さん!起きてくださーい!」


(むにゃむにゃ・・・・???ん?)


「あれ????夢だー!なんかトモ子さん!僕は凄い夢見てましたー!」


と言いながら木治郎さんはすくっと立ち上がり仁王立ちする。


「あらやだ、木治郎さんたらどんな夢を見ていたんですか?」

クスっとしながら木治郎さんに話しかけるトモ子さん。


トモ子さんが木治郎さんを見ると・・・今日も日本地図を下半身と敷布団にペイントしていた木治郎さんでした・・・。

















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る