第7話【最終話】

 それから数日後。稲葉さんの遺体が発見された。

 稲葉さんは、いなくなった日に殺害され、山の中に埋められていた。僕が見つけた防犯カメラの映像は、店の外で稲葉さんを殺した犯人がひとまず死体を隠した時のものだろう。

 その後、犯人は死体を取りに戻ったことになるが、その際の映像は見つかっていない。おそらく、予めカメラの向きを変えておくなどの工作がされたのだろう。

 僕もすべてを説明されたわけじゃないので、それほど詳しくはないが、どうやらそんなところらしい。当然ながら、警察は寺崎の犯行を疑ったが、奴は捕まる前にどこかに姿を晦ましてしまった。自分のしたことがバレるのを恐れて、逃亡したのだろう、と周囲は囁き合っている。

 事件から数か月後、僕は安国と久し振りに会って、祝杯を上げた。ようやく、僕の再就職が決まったので、そのお祝いだった。祝杯といっても、酒の飲めない僕らのこと、掲げるのはジュースのグラスだ。

「これでお前も、サラリーマンか」ニヤニヤしながら、安国が言う。

「ああ。俺もとうとう、ね」

 なぜ、そうしようと思ったかはわからないが、突然吹っ切れた気がして、再び就職活動を始めたのだ。今の会社が性に合うかどうかはまだわからないが、とにかくもう一度頑張ってみようと思う。

「でも、正直、コンビニ店員も悪くなかったんだよな」石窯ピザに手を伸ばしながら、僕は言った。

「学生気分の延長、って感じだろ」

「そうかもな。でも、なかなか面白かったよ。店長もいい人だったし」

 店を辞める際、町田さんがにやにやしながらやって来て、今度は長続きするといいですね、と生意気なことを言った。僕はその時、町田さんをデートに誘おうか悩んでいて、今も悩んでいる。

 向かいでは安国が、社会人の大変さをつらつらと述べていた。それに、ぼんやりと相槌を打ちながら、僕はこう考えていた。あんなことがあったのに、安国の奴、いやに明るいな、と。

 神社で姿を見かけたことを、僕はまだ本人に話していない。話しても、きっと奴はそこにいたことを認めないだろう、という気がした。あいつは、あそこで、大型犬の札のそばで何をしていたのか。

 それも気になるけど、あの日、安国が本当に寺崎と会ったのかどうかも気になった。それについて尋ねたところ、安国はあっさり、会ってないと答えた。会えなかったんだ。店まで行ったがあいつはいなかった、と。

 直後に、寺崎は行方を晦ましたことになるのだが、それは偶然だろうか。

 安国が寺崎に会いに行くと言っていたことを、僕は誰にも話していない。もちろん、警察にもだ。聞かれていないから、というのがその理由だが、もし聞かれても同じだろう。

 気取られないよう、僕はため息をつく。

 メルのお葬式を行ったあの日、安国もまた、何かを弔いに来ていたのかもしれない、などとは、あまり考えないようにしている。大型犬を入れる炉に、何か別のものを入れ、焼き尽くしたのかもしれない、などとは。

 そんな考えはお笑い草だ。ファンタジーだ。いや、ホラーか。とにかく、ありえない。

 そうだろう、メル。

 とにかく、おめでとう、と言い、安国がグラスを掲げた。僕らはジュースで二度目の乾杯をし、笑いあった。

 その時、安国の傍らの鞄が、僕の目を引いた。金具にストラップのようなものがついていて、それが気になったのだ。よく見ると、それはストラップではなく、お守りだった。

 モノトーンの、ストライプ柄のお守り。紐や形状は僕の持っているのとよく似ている。違うのは、素材が布だということだ。

 それがどういうことかがわかってしまう前に、僕は静かに目を閉じ、グラスを呷った。

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みくり坂下のコンビニ 戸成よう子 @tonari0303

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