第十六幕:陰謀の影、黄巾の炎

夜の静寂が草原に広がる中、烏雅は密かに集めた者たちとともに、暗いテントの中で会合を開いていた。久しく表立って姿を見せていなかったが、彼は影で暗躍し続けていた。檀石槐と和連が率いる鮮卑の統一は進み、外部との戦いも有利に進んでいたが、烏雅はその繁栄が気に入らなかった。


「檀石槐様と和連…。彼らは鮮卑を一つにし、力を増そうとしている。だが、強力になりすぎた力は、やがて我々を支配し、押しつぶすだろう。」


烏雅の声には、聞く者の心に毒をまくような冷ややかさがあった。彼の前には、不満を抱く者や、現状に疑問を持つ者たちが集まっていた。


「我々には自由があるべきだ。しかし、今の鮮卑は檀石槐様と和連に支配され、自由は失われつつある。このままでは、鮮卑の未来はどうなるのか…」


烏雅は周囲を煽るように言葉を続けた。


「我々がここで手をこまねいている間に、外では黄巾党が力を増している。太平道の教えが広まり、各地で反乱が起きている。我々もこの混乱を利用すべきだ。」


烏雅の策略は、鮮卑の内部に不信と亀裂を生じさせることだった。彼は外部の勢力――黄巾党と接触し、さらなる混乱を招こうとしていた。


「すでに話はついている。何儀という男が、この地に入り込み、鮮卑を内部から揺るがす準備を進めている。」


その名を聞いた者たちは、ざわめき始めた。何儀――黄巾党の中でも悪名高い過激派で、各地で農民を扇動し、暴動を引き起こしている人物だ。


「何儀…奴がこちらに加わるとなれば、ただの一揆では済まされぬぞ…」


「そうだ。奴はただの反乱者ではない。太平道の教えに狂信しているが、彼の力を利用すれば、檀石槐様と和連の支配も揺らぐだろう。」


烏雅は冷笑を浮かべ、さらに続けた。


「何儀がこの地に加われば、鮮卑は確実に揺れる。混乱の中で、我々が新たな秩序を築くのだ。」


烏雅は集会を終え、外の闇に向かって冷ややかに目を向けた。今や彼の策略は徐々に形になりつつあった。


一方、檀石槐こと信玄は南方の乱れに目を光らせていた。黄巾党の勢力が予想以上に大きくなり、幽州での動乱は一層激しさを増していた。


「太平道の信者たちの動きが速い。だが、何かが裏で動いている気がする…」


信玄は鋭敏な感覚で、内部にも潜む危険を感じ取っていた。だが、それが何であるかはまだ明確ではなかった。


その時、和連が信玄の元へ急報を持って駆けつけた。


「父上、黄巾党の動きが予想以上に広がっています。幽州だけでなく、北方にも影響が及び始めています。さらに、烏雅が怪しい動きをしているとの噂も…」


和連の報告に、信玄は目を細めた。烏雅の不穏な動きに関する噂が耳に入っていたが、彼の狡猾さを知っている信玄は慎重だった。


「烏雅か…。奴が再び動き出したとなれば、鮮卑内部にも注意が必要だ。」


和連は歯ぎしりしながら、烏雅に対する不信感を隠せなかった。かつて、彼は烏雅の甘言に乗り、失敗したことがあった。その過去が、今でも和連を悩ませていた。


「父上、烏雅を放っておけば、必ず内部で混乱を引き起こします。手遅れになる前に対処しなければ…」


信玄は冷静に頷きながらも、息子に警告した。


「今は焦るな、和連。烏雅の動きを確実に捉えなければ、無駄に混乱を招くだけだ。だが、警戒は怠るな。奴は何かを企んでいる。黄巾党と手を結んでいる可能性も高い。特に、何儀という名が耳に入ってきている。気を引き締めろ。」


和連は父の言葉を受け止め、深く頷いた。「何儀…奴が黄巾党の中でも特に危険な存在だと聞いています。太平道の教えに狂信し、反乱を煽動する力を持つ。内部と外部の両方で敵に囲まれている状況です。」


信玄はその場で立ち上がり、外の夜空を見上げた。


「内部にも外部にも敵がいる。だが、焦るな。全てを見極め、然るべき時に動くのだ。太平道の狂信者どもがこの乱を広げる前に、我々が彼らを利用し、押し崩す。」


こうして、信玄は烏雅の不穏な動きを警戒しつつも、内部の結束を強化し、黄巾党の勢力に対抗するための策を練り始めた。何儀という新たな敵の登場と、烏雅の陰謀が鮮卑の運命を大きく揺るがそうとしていた。

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