第十七幕:宿敵なき道、陰謀の罠

反乱者たちの一掃が終わり、静寂が戻った夜の草原。檀石槐こと信玄は、草原の高台に立ち、遠くを見つめていた。頭の中には過去の記憶が静かに蘇っていた。


かつての宿敵――上杉謙信。張奐として再びこの世界で立ちふさがり、互いに幾度となく剣を交えた。その鋭い目、戦場での冷静な指揮、そして決して揺るがぬ信念。信玄にとって、謙信は常に最大の障害だった。


だが、今や謙信の影は消え去った。自らの行く手を阻む者はもはやいない。


「謙信よ、お前がいなくなってから、この世界は静かだ。お前がいた時は、思う通りに進めぬことも多かったが、今は…」


信玄は、ふと自分がこの草原に立つ理由を思い出していた。戦国時代、甲斐の国で彼が築き上げた権力とその野望。それを押しとどめたのは常に上杉謙信の存在だった。どれだけ力を尽くしても、謙信という壁が常に彼の前に立ちはだかった。


だが、今は違う。かつての戦友であり、宿敵であった謙信はもういない。信玄はその現実を受け止めながら、少しの寂しさを感じた。


「謙信がいないというのは、こうも静かで、こうも簡単にことが進むものか…」


そうつぶやきながらも、信玄の目には冷静な光が戻った。今や、自らが望む未来を切り開く自由がある。


「お前がいない今、私はこの地でさらなる高みを目指す。天の意思がどうであれ、私はこの手で未来をつかむ。」


信玄は風を感じながら、今後の戦略を頭の中で描き始めた。かつての自分にはなかった完全な自由が、今は確かにあった。謙信亡き後、すべてが自らの思い通りに進む。彼の野望が再び燃え上がった。


この数時間前、信玄はついに烏雅とその反乱分子を罠にはめ、一挙に一掃する策略を実行に移していた。


「烏雅は外部勢力と連携し、鮮卑を内部から揺るがそうとしている。だが、その策を完全に見抜かれているとは思っていないだろう」と信玄は賢明な参謀である賈生と、息子の和連に言い含めた。


「烏雅が動く隙を作り、一網打尽にする時だ」と賈生が冷静に進言する。


「そうだ、烏雅の手下たちには、我々が幽州に出兵し、内部が手薄になっているという情報を流す。そして奴らが油断したところで、包囲し、一気に決着をつける」と信玄は深く頷き、計画を練り上げた。


和連も父の指示に従い、周到に準備を進めた。彼は心の中で、かつて烏雅の甘言に乗り、失敗した自分を振り返りながら、今回こそその過ちを償うと決意していた。


「今度こそ、烏雅を完全に排除し、鮮卑に真の安定をもたらします」と和連は父に力強く誓った。


偽の情報は鮮卑内部に流れ、烏雅たちはそれを信じ込んだ。「今だ。檀石槐は外部に目を向けている。今こそ鮮卑を内部から揺るがす好機だ」と烏雅は反乱を決起した。


反乱者たちが一挙に結集したその瞬間、信玄の精鋭部隊が静かに彼らを包囲した。完全に油断した烏雅は、罠にかかったことを悟り、驚愕した。


「まさか…檀石槐がこの動きを読んでいたのか!?」


信玄は騎馬で姿を現し、静かに烏雅を見下ろした。


「烏雅、貴様の策はすべて見抜いていた。反乱を起こす愚か者は、ここで全て終わる。」


烏雅は最後の抵抗を試みたが、その時すでに鮮卑の精鋭たちによって反乱者たちは次々と討ち取られていった。烏雅も包囲の中で追い詰められ、激しい憎悪の表情を浮かべた。


「檀石槐、貴様はこの草原の覇者になろうとしているのか?だが、内部に潜む不満は完全には消えぬ。これで終わりではないぞ!」


信玄は冷たく静かに言い放った。「終わるのはお前だ、烏雅。反乱者に生きる道はない。」


その瞬間、烏雅は討たれた。


反乱は完璧に鎮圧され、鮮卑は再び安定を取り戻した。和連も父の策に従い、見事に反乱者を一掃する役割を果たした。


信玄は、烏雅が最後に言い放った「内部に潜む不満」という言葉が、心に微かな影を落とすのを感じながらも、自らの野望に向けて一歩進んだ。

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