第八幕:勝頼との回想と和連の疑問

檀石槐こと武田信玄は、息子の和連の性格や行動に、かつての息子・武田勝頼の面影を見出していた。和連の自信に満ちた態度や激しい気性は、信玄にとって不安の源となっていた。信玄は勝頼と同じ過ちが繰り返されるのではないかという懸念に苛まれていた。


信玄は草原の風に吹かれながら、静かに独り言を漏らした。


「和連…お前はあまりにも勝頼に似すぎている。自信と決断力は戦士にとって重要だ。しかし、それが過信になれば、周囲の声を無視し、誤った道を歩むことになる…」


信玄の脳裏には、勝頼との記憶が鮮明に蘇ってきた。かつての戦場でも、勝頼は自らの戦略に固執し、他の意見に耳を傾けなかったことがあった。


<回想:勝頼との対話>


「父上、私の策こそが最善です。この戦法で必ず勝利を掴み取れます!」

勝頼は自信満々にそう言い放った。


信玄は、勝頼の言葉に一抹の不安を感じながらも、息子の成長を信じた。


「勝頼、お前の策には可能性がある。しかし、戦場では状況が刻一刻と変わるものだ。柔軟さを持たねば、どんな戦略も機能しなくなる。」


「父上、私はもう子供ではありません。自分の判断には自信があります。」

勝頼は強い口調で反論した。


信玄はその自信を尊重しつつも、内心で勝頼の未来に対する不安を拭えずにいた。今、同じような不安が和連にも芽生えていた。


現実に戻り、信玄は和連の姿を見つめながら、その胸に去来する過去と今の狭間で葛藤していた。すると、和連が突然問いかけてきた。


「父上、さきほど『勝頼』という名を口にされましたが、その勝頼とは誰のことですか?」


信玄は一瞬、言葉を失った。和連に過去の息子・勝頼のことをどのように伝えるべきか、迷いが生じた。


「勝頼とは…」


信玄は言葉を飲み込み、慎重に話し始めた。


「勝頼は、かつて私が知っていた者だ。強く、勇敢だったが、その力を過信してしまい、判断を誤ることもあった。」


和連は眉をひそめ、不満そうに問い詰めた。


「では、なぜその者のことを今、思い出しておられるのですか?それが私と何か関係があるのですか?」


信玄は内心で苦悩した。和連が勝頼と同じ過ちを犯さないように導かなければならないと感じながらも、その伝え方に困っていた。


「和連、お前に言いたいのは、勝頼のようにはなるな、ということだ。彼は強さを信じすぎたがために、時に判断を誤り、周囲を見失った。お前には、その過ちを避けてほしい。」


和連は不満そうに信玄を見つめた。


「そんな曖昧な言い方では、何を学べばいいのか分かりません。父上、私はあなたの期待に応えたいのです。もっと具体的に教えてください。」


信玄は困惑した。勝頼が犯した過ちをそのまま和連に伝えるべきか、それとも息子に自らの道を選ばせるべきか。その葛藤に悩んだ。


「和連、時が来ればすべてを話そう。今はただ、自分の判断を信じると同時に、周囲の助言を無視しないことだ。それが勝頼の経験から学べる教訓だ。」


和連はまだ納得できない様子で、父を見つめ続けた。しかし、信玄の言葉には重みがあり、その言葉を無視することはできなかった。


信玄は、かつての勝頼との記憶を抱えながら、今の和連が同じ道を歩まぬよう、注意深く見守るしかなかった。息子がどのように成長し、何を学んでいくのか、信玄にはまだ確かな答えが見つからなかった。


和連の瞳には、父の期待と疑問が交錯していた。

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