40 情報精査


 フィリーレンが旗艦アルセウス内で勝手に情報の売買を始めた。


 414年分の報告義務データとは別に彼女のプライベートデータに溜まった大量のデータの内容は多岐にわたり艦内はかなりそれの売買で賑わっている。


「これは第2艦隊のハッキングデータで女性のマフィアたちがエッチな拷問をされているところが入ってます、ちなみにこれを体験するデータも入手済み!一回見たら未知の世界へ!知らない体験!知らない傷み!知らない快楽!が思いのまま!」


「一つ体験させてもらえる?」


「もちろんです、ですがAIで無い方はナノマシンによって抑えられるため精神汚染はありません、故に性癖が歪んでしまうことがないので残念ながら楽しめないかもしれません」


「……体験してから買うかは決めるわね」


 嘘が付けないフィリーレン。情報の通達は正確にとインプットされている彼女のさがだ。


 アルセウスはフィリーレンのプライベートデータから拾ったあるデータを俺に見せるためにわざわざ部屋まで呼んだ。


 そうして俺が入った久々の男の娘マテリアルボディーはお尻の穴がユルユルになっていた。


「アルセウス、このマテリアルボディーお尻が……」


「……ちょっとテセウスと色々ありまして、その時にちょっと緩くなったかもしれません」


 かなり焦っている様子のアルセウスは操作パネルを表示させるとマテリアルボディーの感覚を遮断して俺の違和感を取り除いた。


 アルセウスは何故か自身もマテリアルボディーの姿で俺の隣へ座ると空間に映像を映し出す。


『アドミス、セグヌ、エングネントスシュラシュデンフィクイット!』


 何語かも分からない言葉、そして映像には額に宝石のような鉱物を生やした人型の生物はおそらく人類種だ。


 見たことのない人類種が誰かと戦っている映像。


「アルセウス、これは――」


「はい、おそらくは新人類でしょう、そして私が艦長に報告したかったのはこの後の映像です」


 人類種がテイザー銃で次々痙攣しながら倒れていく。そんなところへ歩いて入って行く男、間違いない指名手配中の凶悪犯の男だ。


 気色きしょくが悪い覆面を付けているけど、データにある数十年前に数千人規模の人身売買で指名手配された通称【マーダット】に違いない。


 あのショットガン風のテイザー銃はデータと一致するし、何より男は確実に殺して女はテイザー銃というやり方がマーダットの手口でしかない。


「マーダットであると断定するのなら旧第10艦隊のメインコアを所持している可能性があります」


「強奪された唯一の初期ロットのメインコアを使用した中規模高速戦艦か、本来コロニー母艦にさえなるメインコアをそのサイズで運用すれば兵器の威力がかなり強化できるし、長期間の擬態も可能になるあのミミックのように」


 はっきり言ってそういう使い方は宇宙統合機構では容認していない、だからといってできないわけではないためマーダットはそれをしている。


「AIはアリアドネ、私と違い黒髪のAIで各種ガンビットにも搭載されていると思われます」


「宇宙統合機構基準法に禁止されている兵器を使い放題なのは羨ましい限りだが、こちらもそれに負けない性能の能力は持っているしな」


 神の導はあちらには未知の力だ、しかも加えるなら聖法気による探索も可能でミミックという超級の諜報艦が付いている。


「戦いになっても勝てそうだね」


「いいえ艦長、マーダットとの戦闘はアドミニストレータより禁止されました」


「……アドミニストレータが禁止したのなら仕方ない、見逃してやるか」


 実のところ正直マーダットとアリアドネの戦闘データはとても多く、その内容はとても恐ろしいものだったから俺としても戦いたくない。


 数百年前に戦った宇宙統合機構外勢力との戦闘では敗北した艦の男を全て女性へ性転換させたうえで未開拓惑星へと放した。その結果衛生観念の無い現地人にめちゃくちゃにされて性病を発病しながら何人も子どもを産んで死ぬまでそれを繰り返した。


「で、俺を呼んだのはこのマーダットの話のためかな?」


「いいえ、この部分ですここの映像に映っているコレです」


 マーダットが女性を壁に押し付けながらテイザー銃を股に撃っている映像、その左奥に映っている飾りを指さすアルセウス。


「ん~なんか印に似ている気がする、というか聖法気の呪印の方に似ているのかも」


 それは聖女の見た目を醜くするための呪いの印に似ていた。


「はい、セルベリアより得たデータによる呪印の形とほぼ同じなのです、そしてこれによってこの宇宙船はおそらく姿を隠していたと思われます」


「それはセルベリアのデータから推察した結果だよね?」


「はい」


 それに関してはAIの彼女たちの推察の方が正しいだろう。


「この宇宙船を所有していたこの額に宝石を持つ種族の惑星を見つけ出せば何らかの神の血のルーツを知ることができそうです」


「たしかに、神の血のルーツは聖法気であるようでその力の元となる部分はこの惑星でない気がしてならないからね」


「なのでこれから我々第7艦隊は二手に分かれることを提案します艦長」


「二手?」


「はい、今この艦にはコアが二つあります」


「ミミックと旗艦アルセウスだね」


「なので旗艦アルセウスの同型外装を制作してその中にミミックを待機させることでこの場に偽造の第7艦隊を作りだしておきます。クルーたちにはこの場で生活を続けてもらい、選抜された者と艦長とで旗艦アルセウスで探索へと向かうことを提案します」


「……その選抜に選ばれるクルーの人数は?」


「リンやヒヒラやシャユランとハクラの四人は本人が望むなら、トリニティロスト組からはリシアーヌ・デルシアスタとロクトアル・レクエウストンことアルを、あとはスズとゼシリア、あとはテセウスがトリニティロスト組から何人か、それとテスタロッサを同行させるそうです」


「たしかにリンたちには同意が必要だね、それにクルーの力量で言うならトリニティロスト組から増えるのは当然だし、テスタロッサをミミックたちと残しておくのは少し危険な気がする、ゼシリアは俺から離せないし」


 ゼシリアとテスタロッサは強制で、トリニティロスト組は半強制で、リンたちは断られたら残ってもらう。


 アルセウスの部屋から移動した俺は本体を撫でるリンと経緯を話す。


「ついていきますもちろん、ハクラやシャユランやヒヒラもきっと離れないと思う」


「だよね、きっとみんなついてきたがるよね」


 そう2人で話していた。もちろん三人ともついてくるだろうと思って声をかける。


「もちろんついていきますよ。コスプレしたいキャラも色々あってゼシリアさんとテセウスさんとテスタロッサさんとけもけもな格好したいですし」


 とシャユランは超乗り気だった。


「そうですね、私がいないとタジン様も寂しいだろうし、私も寂しいし、この艦の中以上に子育てにいい環境もないし、あ!タジン様、私妊娠してるんですけど大丈夫ですよね?」


 唐突なカミングアウト、アルセウスはどうやら知っていたようだけどヒヒラ自身が伝えるのを止めていたらしい。安定期を気にしていたから言うのを止めていたが、今は安定期で基本マテリアルボディーでの行動を優先している。


 ヒヒラとしては子どもたちへの教育を続けられなくなるのが悲しいと言っていた。だけどこの艦の中にも子どもは増えることが分かっていて、その子たちはいわばヒヒラ自身の子どもと同等に可愛がることのできる子どもたち。


 俺からすると俺の子であるからどの子もカワイイけど、正直まだ生まれてないから実感は湧いてない。


「戦闘とかするの?するかもって言うなら行きたいな~最近は狩りもマンネリ化してるし、女の子たちに囲まれるのは悪い気分じゃないけど、あのマテリアルボディーがインポなんだもんな――」


 俺のマテリアルボディーで発情しないでほしいところだけど、はっきり言って俺ではなくハクラが入っている時の俺はモテすぎている。


「それでどうするの?タジン様」


「どうするって?」


「私たちが村からいなくなる理由ですよ、タジン様やヒヒラとシャユランと私、メアルもいなくなるんですよね?こんなにいなくなったらおかしいですけど――」


「あ~それは平気だよ、ちょっと王国や色々なところの人を頼ってもっともらしい旅行先を選んだからさ」


「旅行先ですか?なんだかボクにも関係ありそうな国な気がしますね」


 そうトミストリア帝国、騎士国と呼ばれる国へ剣術の勉強へと父アデジオから当主たちへ伝えてもらっている。もちろんアルセウスが考えて計画しているけど、あの国を選んだのは俺であり姫騎士をメイドとして派遣して情報も収集してもらっている。


 姫騎士リーンクレア・メルテアンは彼女の過ちで腐敗貴族に味方してしまったことを悔いて祖国への献身を望んだため俺が許可をしてあの国にいる。そのおかげであの国にいることにできるよう、彼女が手紙などで偽装してくれることになっている。


「じゃあとは未来のお嫁さん候補たちの説得ですね」


「……あの子たち絶対泣くだろうな――」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る