41 幼嫁たち


 一番年上が8歳で一番下が6歳で本来ならまだ嫁に出る年頃ではないが、かなり行動力の高い盾の家紋の親がいたらしく本当に急だったが俺としては反対の意見もでるはずもない。


 俺より上は中々に上だし下は競争率が~と言っていた。槍の家紋が一切動かない時点で俺の競争率は随分低い、そもそも盾の家紋以外からは俺の相手は今のところ剣の家紋から一人だけ嫁になる予定だ。


 弓の家紋があまり規模的に大きくないことが俺への結婚の申し込みの少なさになるわけだけど、どういうわけかハクラが俺の姿でかなりその子に対して格好の良いことをして惚れられたらしい。


 その子が8歳で日ごろから俺にべったりだったりする。そんな子にこれから数年会えないと伝えるはやはり辛いものがある。


「やだ」


「でもねリリリカ、俺は遊びに行くわけじゃないんだよ?これから遠い国で色々と大変なことになるんだ」


「や~だ!」


 まだまだ8歳の子ども、しかも盾の大人びた子どもたちとは違って修学すらもサボる剣の家紋の娘。リリリカという名前は本当はリリカという名前にしようとした彼女の親が欲張ってもう一つリを増やした結果の名前。


 甘やかされて育った彼女は父であるゴラルからも存分に甘やかされて我がままが通らないことなどなかったことで我が儘娘になった。だが、ある日狩りについて行ったリリリカは俺(ハクラ)に惚れて我が儘を一切言わない代わりに俺の婚約者になることができた。


 だから彼女が今言っていることは我が儘ではなく彼女の気持ちだ。俺と一緒になるために色々とがんばってきた彼女が俺と少しでも離れることなど受け入れられるわけがない。だが、出会って数か月の彼女に全てを話すのは少し早すぎる気がする。


『連れて行けばいいのではないでしょうか艦長』


 簡単に言ってくれるが彼女はまだまだ子どもだし精神的にも未熟すぎると思う。


『それは彼女を連れていかない理由には到底思えませんが?もしかすると艦長……彼女に手を出しそうだから言っていますか?』


 バカ!そんなわけがないだろ!相手はまだ幼さの残る子どもだぞ!


『リンと体型は同じようにも見えますが――』


 体型じゃないだろ?!年齢が!精神年齢がね!


「タジン様……」


「はい」


「リリリカはお嫁さんにしてくれないのですか?」


「……まったく、仕方がないな」


 結局俺はリリリカを連れて行くことにした。結果、8歳になっている娘は全員連れて行くことで話はついた。


「タジン様、おっぱいさんがいっぱいです!」


「そうだね、おっぱいさんがいっぱいだね」


 旗艦アルセウス内にいる女性は体に密着するスーツを着ているため胸のラインは強調される。AIたちのマテリアルボディーもホロも胸は大きいためリリリカたちにはそう見えていてもおかしくはない。


「リリリカちゃん見てください、幽霊さんがいます」


「は!あれは……メルダおおばば様!きゅ~っ」


 まさか気絶するほど驚かれるとは。


「リリリカにリヌンにパナメにフェイランとハミャンこうして5人が俺の未来の妻として艦に搭乗したわけだけどなんか賑やかになりそうだな」


『賑やかな方が楽しいではありませんか艦長』


 アルセウスの言う通りだけど、俺としてはあんな8歳からこの艦のクルーになるのはちょっと乗り気になれない。


「クルーとしてしか乗艦できない法律が無ければな~」


『そんなことをすれば未開拓惑星から気に入った女の子を拉致しまくる艦が出てきます』


「いやいや、艦長は意外とまともな人が多いと思うぞ」


『いやいや艦長がそうでもAIたちはそうではないかもしれないじゃないですか』


 あ!そういうやつ。


「それよりさ、タジンのお嫁さん紹介してよ」


 そう俺の袖を引っ張るスズは何やら興奮気味で耳もとで囁く。


「みんなカワイイから私浮いてないかな」


 なんだこいつ可愛いな。


「大丈夫、スズの可愛さは俺が知ってるから」


「……今日部屋に呼んでもいいですか――」


 どうして敬語?


「ぜひ」


 そうしてイチャイチャしている俺たちにリリリカは真顔で言う。


「浮気ですか――」


「ちょ!リリリカ!スズは一応艦長としての俺の妻ではあるわけで――」


『むしろこの艦にいるメスは全て艦長の女ですけどね』


 アルセウスの言葉にリリリカは周囲の女性の顔を見渡して言う。


「メルダおおばば様も!」


「そ、そうだけど」


「……タジン様はいっぱい子どもが欲しいのね」


「間違いじゃないけど……なんか言い方が――」


「私も頑張る!」


 そう言ったリリリカは両手を胸の前でグッと握り閉めた。


 その後俺はスズに一人一人紹介した。


「つまりリリリカちゃんはストーカーの延長で妻になってしまったと?」


「ストーカーって、そんな言葉知る必要ないよスズ」


「でも明らかに他の子たちとの落差ってのあるくないですか?」


「緊張が無くなって話し方が軽くなってるぞ」


「いやいやさすがにもう緊張しないでしょ、初対面の人が多かったからちょっとビビッてたってだけだよ」


 緊張してたんじゃん。


 やはりスズとはこうして気楽に会話できる友人のノリができるのがいい。


「それにしても今回のお嫁さんズブズブなんだね」


「言い方、まぁ間違いでもないけどねリヌンはリンの従妹だし、パナメはパドメさんのひ孫の一人だし、フェイランはシャユランの妹でハミャンはリンの母リミャオの姉の娘だからな」


 はっきり言って身内も身内、彼女らは最善で俺を選択しただけでリリリカのように惚れた腫れたではない。そう考えるとリリリカは俺としては唯一新鮮な存在だ、新鮮という言い方は少し違うかな、唯一素直に気持ちが伝わっている娘だ。


『まったく艦長のスケコマシ』


 すけこましの意味は分からないけどUIで翻訳しなくても何となく今の俺を意味していることは分かる。

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