35 マルガゲート2
『というわけでアジトのツーシーツーディー?がロストしたとのことですのでそちらのアジトも危険かと思います、ボスは……相変わらず殺虫剤でラリってシコってるのでデスさんも好きに動いてください』
「了解しましたビビアン、あなたもこちらに合流しますか?そっちではオナニーもやりづらいでしょう?」
『あ~、私はこのあとステンナ姉さんと食事してクロさんとオフるつもりなので気にしないでください、それじゃ』
「……ええ、クロによろしく」
プツ、ツーツーと通話が切れるとデスことデスヘブンヘル、女の扱いは上手い方だが巨乳には縁遠い男。これまでビビアンを誘ってクロに先を越されること43回。加えて巨乳に振られること434回、まさに巨乳とは縁がない。
彼は眉間にしわを寄せるとビビアンの巨乳を思い出しながらいう。
「いい胸だ――」
「デスの兄貴」
「……メリッサ、どうしたんだ」
「偽装艦の準備ができました、滞在地は富裕層特区のあるセタツナ惑星間コロニーです」
デスはメリッサの胸を一瞥すると谷間がはっきりとない事実と逆に乳首が見えそうな事実に溜息を吐いて言う。
「メリッサ、ニップレスくらいは付けなさい、レディーの嗜みですよ」
「……えっち」
無表情でそう言う彼女にデスはポーカーフェイスで額に血管を浮かばせる。
「メリッサこれからしばらくは私たちは同じ艦内で過ごすんです、あまり生意気なことを言うとその小さな体が悲鳴を上げるほどにベットで可愛がるのもできるんですよ」
「いいですけど別に」
「嫌なら……はぁ?」
わざと開けられたワイシャツのボタンに挑発的な短いスカート、つまりメリッサは彼のことを全力で誘ってはいたが胸が無いというだけで見向きもされなかっただけ。
テスはその誘惑に気が付くと今までに感じたことのない衝動に襲われる。
少年のようだと思っていた短めのショートボブはむしろ可愛らしく見える。肩から腰にかけての細いラインとお尻の肉付きから足の細さへのライン、さらには明らかに傷一つない肌はホロによる化粧でも顔に張り付けるシートでもない。
あれ?メリッサってこんなに美人だったのか、いつも胸にばかり関心を持って見てたせいか、こんなにも可憐な女を前に何を考えていたんだろうか。
「よし、メリッサいますぐ艦に搭乗して俺の部屋へ行くぞ」
「はい」
そう言ってデスの腕に抱かれた彼女の後ろの手には強力な催淫剤入りの香水があった。口元ににへらと笑みを作る彼女もまた女の武器を最大限利用する一癖も二癖もある立派なマフィアレディーだった。
そもそもメリッサは胸の小さな女性だけを彼の近くに集め、巨乳がデスに近づけないように手を回したのも彼女で、極めつけは彼女のせいでデスの近しい巨乳女性は彼を避けるようになった。少しだけナイフで脅したり注射で脅したり快楽による拷問も長時間したりした。
マルガゲートの所有する偽装艦バルモッドは全長1キロメートルの小型の戦艦で、遠中近距離の砲を備えている万能型と呼ばれる艦だ。
搭乗員はマルガゲートの女性たちと男はデスのみ、というこの事実はメリッサと他の貧乳女性たちが作り出したもので、デスがそれに気が付くことはこれからもない。
メリッサとたの貧乳女性はその地位を確立するためにデスに長らく仕えている。これからしばらくは身を隠す判断をデスがした瞬間からこの計画を全員で考えた。
補給を得られる場所も無人の基地ばかりに設定して数年がかりで予定より少し長くデスと貧乳女性によるハーレム旅行はスタートしようとしていた。
そんなこととも知らずデスは偽装艦に乗り込み、自身の部屋へ駆け足で向かうとメリッサの思惑通りにその箱舟ハーレム艦バルモッドは出航する。
「ミスラ、通信はこれで終わります、デス様のことは私たちに任せてそちらも無事でいてくださいね」
『ではこちらもしばらくグリコ様と隠れるつもりですが、クロ様とボスはそれぞれどうするのか知っていますか?』
「クロ様はビビアンたちとお楽しみの後ユーザー御用達のVIPコロニーにて滞在予定、ボスはアンドロイドたちを乗せた強襲艦ボーガットでテスタロッサ様を探索なさるそうです、他の兄貴たちがどうしているのかは分かりませんが最初のアジトと一緒にブルッケ様が死亡の可能性があるとのことでした」
『さすが情報部、では私たちグリコ親衛隊がこれからどこへ向かうかもお知りなのでは?』
「ベセレタ星系のラビランジェ21の惑星近くにあるコロニー群へ向かうのでは?そちらにグリコ様の偽名名義のタウンハウスがあると認識してます」
『その通りです、それではもう報告することもないし、お互いの健闘を祈りましょう』
「ええ、マルガゲートが解散してもそれぞれ推しを愛でましょう」
『推しのために――』
「推しのために――」
通話を切ったミスラはその平凡な容姿でカガミを見つめるとホロによって美少女に見た目を変化させる。
アイドルの様に笑みを浮かべるとその手洗い場から外へと向かう彼女は自身に満ち満ちていた。
「グリコの兄ぃ、デスの兄ぃとクロの兄ぃも身を隠すそうです」
「そうかデスもクロも隠れるならボクも隠れんとな~あかんでんがな~」
グリコ、グリコナニワ・サカモトサン、エセ関西弁を話すこの男は自身の眼が見えず周囲をデータとして観測している。故に目の前のミスラのこともアイドルのような美少女にしか見えない。
古いデータから見つけた関西弁を元に言語化しているため、彼のエセ度はとても高くだがそれを話す人がすでにいないために周囲の者からするとこんな話し方だという認識だ。
探せばアニメーションや音声ドラマなどがあるのだろうが、関西の訛りは多くその実ナニワが大阪であることも知らないグリコには理解のできないことだった。
「ところでミ↓ス↑ラ↓ちゃん」
「ミ→ス→ラ→です」
「ミ↑ス→ラ↑ちゃん?」
「もう最初のでいいですよ」
「じゃ、ミスラちゃんはどうしてボクのとこ来ましたでんがな?他のところでも引く手数多でっしゃろ?」
ミスラはグリコの言葉に彼の座る艦長席の隣にある副座に座ると言う。
「私の推しはグリコ様なので」
私の平凡な外見でなく、私の中身を見てくれる方はあなただけなので。
ミスラはそう思いながら彼の手にそっと手を重ねる。グリコはその少し肉付きの良い頬を赤らめて恥ずかしがる。
「推しやなんて、中々言われることないからホンマ嬉しいでんがな」
「……本気なので」
「本気と書いてマジと読みまんがな!こんなおっちゃん捕まえて言うことやないで?」
ギュッと力を込める彼女にさすがの彼もそれ以上は何も言わない。
「いや~熱いな~この船空調効いてないとちゃうかな~」
グリコは親に売られボスによって救われた結果マルガゲートの幹部になった。彼は対外的には恐れられてはいないが、電子戦において彼の右に出る者はいない。高性能なAIと同等で宇宙統合機構のコアとも競り負けた経歴の持ち主である。
電子戦を得意とする彼にとってはデータ改ざんや隠匿偽装は遊び感覚で完璧にこなす。ちなみに彼のネットワークフレンド内にいる【ウチマル】がテセウスであることを彼は知らない。
彼が行うこと行ってきたことには全てテセウスも承知の事実、むしろ彼の手助けもしているしあえて色々と交友を持っている。
「しかし、ウチマルさんの助言通りマルガゲートとユーザーたちへの報復が始まってるようやな。どうやらこの星域にいるパンドラは他とは違うようやなホンマにも~」
「ですね」
グリコの乗る艦が出航して、それと同時に行われるマルガゲートとユーザーたちへの報復とは第7艦隊によるコアAIアルセウスによって受理された宇宙統合機構基準法によって確定される人類種保護法に基づいて立案された反社会的組織への殲滅戦闘行為の許可だった。
それぞれが個別の艦隊である宇宙統合機構ミスレール黄星雲カースーン星域防衛艦隊は全11艦隊。その中のどの艦隊でも行使できる戦闘行為において最も順守されるべき人類種保護の名目の前には反社会的勢力や組織は無力当然だった。
これは第7艦隊が特別ではなく、その他のどの艦隊がその星系にいても間違いなくこの選択がとられていたことは言うまでもない。まさに圧倒的超科学力による低文明制圧戦闘である。
――――――
『MRG337、破壊完了、34,455,8574、76y34jも破壊完了しました艦長』
珍しく艦長の制服を身に着けてCICにある専用の艦長席に座っているタジン。AIたちはそれぞれがホロでサポートすために各レーダーや各兵装の状態を随時データとして出力し続けている。
この間クルーたちはシェルターに避難しておらず、それぞれがいつものように過ごしている。つまり非常事態ではなく現状通常業務であるということになる。
「あえて言えば我々の艦隊は無傷であるということだなアルセウスくん」
『いいえ艦長、正確に言うならば消耗してはいるので無傷ではありません、これは戦術協定に則って我々が敵に損傷させられていないだけと――』
「アルセウスくん、空気を読んでくれたまえ」
『空気を読む……それはあれでしょうかトンチか何かでしょうか、空気という文字を読むこと以外に何か意味が?暗号ですか?それとも艦内の空気に何か文字を記していると?』
「……」
タジンは考えることを止めた。
「ところでユーザーの拠点の破壊は始まってるのかな?テセウスちゃん」
『……ちゃん――』
「テセウスちゃん」
『現在ユーザーの関連施設14カ所を個別に破壊し終えてます、ですがそのうち重要そうな拠点らしき場所は今のところ確認できていません』
「残りいくつくらいあるのかな?テセウスちゃん」
『……342カ所です艦長』
少しだけちゃん呼びに思うところがあるテセウス。
「正直果てしないと思うんだけどこの作戦はどれくらいかかると思う?」
『テセウスの計算によると2年程度です艦長』
「2年か……なかなかだね」
『私の計算によると全ての拠点を把握しているためかかるのは移動距離による時間のみと想定しています、本来なら20年以上はかかる距離の拠点も含まれてますから』
ホロ同士のアルセウスとテセウスが肩をぶつけ合う。
「マルガゲートの方は早々に切り上げてユーザーを優先するべきだね」
『そもそもマルガゲートは個体名テスタロッサが行方不明です、目的がいないのでは収穫の方は0に近いです、ケモ耳――』
『ケモ耳を増殖させるための知識でしたが仕方がないですね艦長』
まるでタジンがそれを求めているようなアルセウスの言葉だが、実際にそれを求めているのは彼女でありテセウスとしてもケモ耳幼女でも想像しているのか溜息をついてガッカリしている。
二人のガッカリが分からないわけでもないタジンはリンやスズのケモ耳姿や三人の妹たちのケモ耳姿を想像して、その想像を解析度をデータ領域内で映像化したのちに現実の記憶データを元に加工してそれらの姿をメモリ―に保存した。
『では艦長、戦艦ゼウス戦艦ヘラ戦艦テミスを次の破壊目標への射撃体勢へ移行します』
『中継の誘導管の位置確認、作業艇H作業艇Jを展開、作業艇収容艦を展開します』
「この第7艦隊の戦艦の射程距離は誘導管を中継すればほぼ無限だからね、それを設置するための無人艦を亜音速からマッハ20で移動させれば数年規模で広い宇宙空間領域に全面攻撃を仕掛けられる」
『本来マッハ17当たりが限界でしたが、今は人工神の血による神の
「場合によってはデブリとの衝突で内部を破壊された上でエンジン部などの重要機関の損傷が出る可能性があるからね」
宇宙統合機構のにもない技能によって第7艦隊は少し飛び出した強さになっている認識を彼らは持っていた。故にユーザー側にいる宇宙統合機構の悪しき部分の存在とも戦闘を辞さない考えでいる。
そうとも知らないユーザー側の存在は今も必死にどうにか離脱中の第7艦隊の処遇を決めるために奔走しているのだった。
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