34 マルガゲート
「本当にどうしちまったんだ~マルガ!どうして俺の前からいなくなっちまったんだ~!」
騒がしい声は事務室のような場所にまで轟いていて、そこで作業する眼鏡でスーツ姿の巨乳女性が中途半端に性能の良いPCでしていた数値の打ち込みを止める。
「マルガ~!マルガ~!」
はぁ~とため息を吐いた彼女はレトロな黒電話の2番に指をかけて回転させるとコールの文字がデジタル式で宙に浮かぶ。二回呼び鈴が鳴ると通話が繋がり誰が出たのかも確認せずに彼女は話始めた。
「ボスのヤクがまた切れたわ、今すぐ代わりのを持ってきて」
電話の先で出たのは機械音声のような声でAIである可能性が高い受け答えをする。
『代替品到着マデ1分、ドウニカ落チ着カセラレマセンカ?』
「ビット!分かるでしょ?!こっちだって巻き込まれたくないのよ!だからあなたたちアンドロイドにお願いしているの!」
『ビビアン、デスガ私ニモデキナイコトモアルノデス、ドウカ頑張ッテ』
プツっツーツーツーと電話が途切れるとビビアンは自身のデスクから振動する大き目のマッサージ機を取り出してスカートの中から股間にあてるとスイッチを入れた。ガクガクガクと体を震わせた彼女は机の下で足をピンと伸ばしたまま白目をむいて口からよだれをたらした。
現実逃避でオナニーする癖がある彼女が白目をむいている間に事務所の扉を開けて中に入り、彼女の机の前を通り過ぎたのは下半身が車いすのような恰好のアンドロイドで、そのまま奥の部屋の扉を開けたアンドロイドはバズーカのようなものを担いで扉の中へと何かを撃ち込んだ。
ポシュっと音が鳴ると煙が隣の部屋を埋め尽くし騒いでいた人物の声が徐々にしなくなる。
「ビビアン、ビットに伝えておいて、ボスに殺虫剤を撃っておいたからしばらく大人しいだろうって」
「……ひゃい、分かりらひら――」
そう答えるビビアンにバズーカを持ったアンドロイドは彼女の顔を見て言う。
「うまくホロで誤魔化してるけど、またそばかす増えたようね、ストレス?それだったら早めに配置移動願いを出すことね」
「……大丈夫、今度美容用ナノマシンくれるっていうパパ見つけたから、なんでも不老で顔の形も変わるらしくて」
「あなた……騙されてない?それ言ってるのどこの誰?」
「テリーさん」
「……その人詐欺師よ、早いうちに縁切りなさい」
「え……私、中出しもさせたのに~」
車いすをキコキコ鳴らしながらビビアンの傍まで寄るとアンドロイドは頭を優しく撫でる。
「もう、今日は家に来なさい、美味しいもの作ってあげるから」
「ステンナ姉さん!」
そんな会話をしている間にも隣の部屋はモクモクと煙で充満していく。そしてビビアンと通話を繋いだままのビットは静かにその通話を切ってしまう。
『クロサン御時間ヨロシイデショウカ?』
「どうしたぁビット」
『マタ、ボスガ錯乱シテイルヨウデ、クスリモ
「そうか、というかボスの事よりもお前の声まだ治らねぇのか?」
『ハイ、修理スルタメノカネガナクテ』
「仕方ない、俺が立て替えてやるから直しやがれ(聞き取り辛くてやる気が無くなる)」
『本当デスカ!アリガトウゴザイマス!早速直シマス』
「ああ、そうしてくれ」
そう言って通話を終えたクロことクロノワールシュヴァルツはそのままタバコに火を点けると一服する。
「ふ~タバコの方がヤクの何倍もうめぇのにな、今日もボスはテスタロッサがいなくなって昔の女のマルガがいなくなった時を思い出して錯乱してるらしい。たくっこの前のヘマと言いテスタロッサの奴面倒ばかり起こしやがる」
鼻から煙をゆっくりと吐くクロは視線を部屋の一部へと向ける。そこにはエッチなお店の看板が宙に代わる代わる表示される。
「今日はどこへ行くか」
「兄貴!兄貴!クロの兄貴!」
「どぉしたぁ!」
「アジトの一つと連絡が付かねえってんで見に行かせたんでやすが!どうやらアジトのあった座標に何もなくなってしまったらしいんです!」
チンピラ風の男が慌てて部屋に入ってくるとクロは扉が開く前に窓を開けて換気を始める。彼なりの周囲への配慮だがついでに窓の外の電線に留まっているカラスに向けてジャケットの内側からデザートイーグル風の銃を持ち出して撃つ。
カァカアと飛び去るそれを見届けてチンピラ風の男へと視線を向けると彼は落ち着いた様子で銃口を向けた。
「簡潔に、分かりやすく、俺みてぇなバカにも分かるように1から説明しろ」
「へ、へい」
チンピラ風の男は完結に説明した。弟Aが弟Bに対して定時連絡を取ると弟Bからの返信がなく、弟Aは弟Cへ直接確認するように命令して弟Cは直接アジトがあった場所へと宇宙船で向かった。
だが、座標に到着するとそこにはアジトどころか残骸もなく、弟Cは弟Aに対して遠距離通話で知らせたとのこと。
「……つまりどういうことだ?」
「つまりアジトの一つが消えやした」
「ふ~ん、で?何が大変なんだ?」
「え?いや、だってアジトの一つが――」
「その前にあるだろ?アジトの前にだ」
クロは銃をジャケットの内側へ納めるとチンピラ風の男を手招きして呼び寄せる。前に出てきた男の顔に迷いなく拳を叩きつけるとクロは叫んだ。
「弟の心配が先だろうが!バカが!」
「す、すいやせん」
鼻から血を出しながら痛そうに座り込む男にクロはズボンのポケットからハンカチを取り出して投げ渡す。
「あ、ありがとうございます兄貴」
鼻血を拭きだしてあることに気が付くチンピラ風の男はボソっと、「これ女の下着――」と言う。
「まったく、弟が生死不明だと?誰かは分からないが一大事だ」
「ラビです、クロの兄貴」
「ラビ、そうかお前はラビって言うのか」
「いえ、俺はトラビスです、ラビは行方不明の奴です」
「……トラビス、トラビスか……二文字にならないか?」
「……ビスでどうっすか」
「……ラビと語感が似てるな――」
「じゃトラで」
「よし、トラ、トラはこの話をデスの兄貴とグリコの兄貴、あとボスのところのビビアンに話を通しとけ」
トラと呼ばれた男は頷くとフラフラと部屋を後にする。
クロは右手を部屋に置いてあるタオルで拭くとそのままタオルを外へと投げ捨てた。
「たく、弟が一人行方不明?トビの奴大丈夫なんだろうな」
トビではなくラビの心配をするクロはある推測を立てると呟いた。
「小規模な衛星だ、パンドラの連中なら簡単に消せる――か、つまるところこれは早めに逃げる算段を付けないとだな、とりあえず妹たちビビアンやラビニアに声をかけておくか」
パンドラに関してはヤバイ・マジヤバイ・ガチヤバイと認識しているクロはすぐに逃げる選択を選んだ。彼は殺すのは好きだが殺されるのは嫌いで、ついでに言うと妹は甘やかすが弟には少し厳しい男だ。
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