33 日常と非日常は同じ意味


 窮屈なお嬢様の日々から解放された俺は久しぶりにのんびりとした日々を送っている。


 今日なんてリンの膝枕で午前中はまったりだ。リンは膝枕しつつ意識半分でメアルのマテリアルボディーを操作して家事をこなしている。


 器用なものだと思うだろうけど、彼女が特別器用なわけではなく訓練次第で誰でも複数の手足を動かすことは可能で、それでも数年以上の研鑽けんさんは積んでいるからというのもある。


 ハクラはいつものように俺に代わって狩りをしている。彼女は戦いが大好きで剣や武道もかなり修練してデータによるいにしえの武道家や剣術家とは負け越しているものの、そのうち勝てるようになるほどの実力をつけてきている。


 シャユランは最近服作りに没頭していて、完成した服をきてかっこいいやかわいい映像や画像をとって楽しんでいる。時々俺も加わって遊んでいるが、遊びの延長でベットの中へということも時々ある。互いに美男美女で夫婦どう転んでも見つめ合うとそうなるのが必然な気がした。


 ヒヒラとはただいまケンカ中で、その理由はきのこタケノコ論争において俺がどっちでもいい派になって中立に立ったことが原因だ。まるで子どものようだと思うだろうけどそれもこれもお菓子の話しではないからで、男性のぞうさんの話しをしていてきのこ派は傘の良さを熱弁してタケノコ派は長さと硬さを熱弁した。


 タケノコ派だった我が嫁たちはもちろん俺がそちらに味方すると考えていたけど、男としてどちらでもいいことは間違いなかったためきのこ派のスズやマルちゃんことマルトリアスやアルことロクトアルとの関係性も保つため中立になった。その結果がヒヒラとのケンカだ。


 ちなみにこのケンカとは別にタケノコ派を選んだリシアーヌときのこ派のアルもケンカをしていて、どちらも一つのマテリアルボディーを兼用しているため設定はきのことタケノコの両方がある。


 この頃やけに本体の俺の体のぞうさんを見たがるクルーが増えたと思えば、その原因がこれだったのは俺としては予想外だった。そしてAIたちの意見としては、『きのこのようなタケノコでいいではないですか』だった。


 きのこの良さとタケノコの良さ、どちらも損なうことのない完璧なものをアルテミアの持つマテリアルボディーを見せて言うアルセウスだが、彼女は頻繁にマテリアルボディーの設定を変えているためはっきり言えばこだわりなどない。


 意外だったのはアルテミアが持つマテリアルボディーは色々なAIに貸し出されていて、クルーの中にも借りている者も少なくないらしい。自分専用の男をどうして貸しているのか、もちろん俺はどうでもいいけどアルセウスいわく。


『アルテミアはNTRネトリがとても好物なのです。寝取られる気持ちに興奮を覚えてしまうあの子は姉妹の中でもかなり特殊ですよ』


 その言葉を信じるならかなり頭のネジが飛んでいる。いや狂っている。


 ただアルテミアの思考に関してテセウスいわく。


『どれだけの女と寝てもそのマテリアルボディーがアルテミアのものである事実は変わらない、そのことが彼女にとっての幸福につながっているのですよ。最終的に独占することができるアルテミアはあのマテリアルボディーに惹かれる姉妹たちの嫉妬の視線に快感を覚えているのです。かなり特殊なので艦長には理解し難い事実かもしれませんね』


 一癖どころか二癖あるアルテミア、そんな彼女は絶対独り占めできない俺についてどう思っているのかというと。


『艦長を独り占めできない?考え違いですね、私はどうやってもあのマテリアルボディーを所有しているので艦長を独り占めし放題ですから』


 暴論と言えば暴論だが、間違いなく彼女のものであるあのマテリアルボディーは俺が入っても入らなくても彼女のものであるわけだ。


 膝枕中の俺の足元で猫のように丸くなるゼシリアはすっかりこの船のアイドルになっている。ちなみにまだ彼女とは恋愛も何もない。


 動物の組織が加わっているせいか、彼女は時々猫のような行動をとることがあるけど、そのたびに人間であろうとしている姿がまた可愛くもある。


 時々寝ている俺に裸で覆いかぶさる彼女の姿はアイドルらしい曲線美で、舌で顔を舐めてハッとする姿も可愛くてさすがに抱きしめて逃げれないようにして悪戯したりもした。


 恥ずかしがる彼女に猫の鳴きまねをオーダーすると頬を染めながらまねてくれたけど、それが可愛いのなんのって!俺がオス猫だったらもう!もうですよ!


 でも今は彼女に変なことはできない、何せ彼女たちは現在進行形で動物化が進んでいるからだ。思考はそのままに気性などが変化して、発情期や倦怠期などが人間より動物へと大きく変化する時期らしい。


 こればかりは専門外であるAIたちはあらゆる想定をしているけど、今のところ与えた衣服を着てくれないこととトイレがお気に入りの場所でする以外に変化はない。ちなみにゼシリアのお気に入りは艦長室の風呂場らしい。


 風呂場に時折糞尿があることがリンには許せないようで、最近では風呂の水は入れっぱなしでそうするとゼシリアはちゃんとトイレで用をするようになった。面白がるアルセウスは猫の好物チュールを制作して与えるとますます猫化が進行してゼシリアの仕草がとても可愛すぎるものになってしまい俺は付きっきりになっていた。その結果テセウスがチュール禁止を艦内法に新たに加え、クルーが多数賛成したために俺のゼシリアは猫化が止まりお腹を見せつけなくなってしまった。


 俺としては悲しい現実だけど、艦内に動物がペットとして飼われていない理由が良く理解できた。AIとペットとで戦争になってしまう、いや論争した結果彼らはペットという敵を排斥はいせきしたに違いない。


 人はペットに心を奪われやすく、AIたちがそれに嫉妬することは想像し難くはない。だって、飛んでる猫って可愛くないですか?


 ところで聖法気に関してなんだけど、結局あれを習得して俺たちに何の利益が出たのかというと、それによって外傷や病気を治療することができるようになった。でもかつてのアルセウスと同じことを言うならば別に軟膏程度ワクチンでどうとでもである。


 そもそも俺やクルーたちにはナノマシンがあるわけで、ま~村での治療には使えないこともないけど、今回の聖法気は俺としては必須技能とは思えなかった。


 ただ、スズは研究が捗ると言って喜んでいたから、彼女が喜んでいるなら別に俺がした苦労なんて別に何でもない。


 しかし、あれ以降テセウスやセルベリアに会うと『お嬢様』呼びされて体が勝手に女らしい振る舞いをしてしまうようになった。時々二人の視線が怖く感じるのは私だけでしょうか、いや――俺だけだろうな。


「にゃん」


 不意に鳴くゼシリア、それは彼女が尻尾を俺に擦り付け始めると漏れる声だ。セルベリアが言うには尻尾はかなり敏感らしいため、こうして擦り付けてくるのだろうけど俺としてもこの時ばかりはそのモフモフをスリスリできるチャンスであるため優しく両手で触れる。


「にゃっにゃ~ん、んっ!」


「か、かわよ」


 かわよ過ぎる。


 くねくねと腰を動かし、膝を抱えるように丸々彼女はそのままリンに抱きついて浴衣の中に顔を突っ込むとさすがのリンもメアルの体に握っていた野菜を落としてしまう。


 俺が尻尾をわさわさするとゼシリアがにゃんにゃんしてリンが横腹やら背中やらに舐められたりする。するとリンの姿勢が前のめりになって胸が俺の顔に乗る。


 このトライアングル――サイコーか?


『艦長、ご休憩中に失礼します、今すぐこちらをご覧ください』


 まったくアルセウスときたらこうして俺とリンとゼシリアの楽しみを簡単に邪魔するからな~。


「何々、リン、胸が――」


「でもゼシリアさんが――」


「にゃん」


 いや、別にモニターでなくてもか、視界内に表示すればいいわけで。


 なになに、宇宙統合機構の星域にデータ取得用の中継器を設置、二日かけて現在の状況を取得した結果、現在行方不明の第7艦隊のコアが遠方にてゼシリア・ミアムラを拉致監禁している、しかも救出しようとした探査船を攻撃した……う~ん中々に面白い話だね。


 つまり、ゼシリアの件を手配した宇宙統合機構内の何者かがどうやってかこちらが第7艦隊であるという情報を得てそれを利用したってことだ。


『私の索敵にかからない方法は少ないです、同じコア型のAIが利用されていると考えると全てに理解ができるのですが』


 第4第6第10艦隊が再編されている以上それらの元のコアが流用されているとみて間違いない、がこちらを欺く程の機能となると侮れないな。


『間違いなく神の血など特殊な力によって起こされた情報遮断、もしくは我々をしのぐほどの超科学と思われます』


 ゼシリアたちの体を改造した組織、マルガゲートをあたって見るしか今は情報が無さすぎるな。


『そもそも、我々がこちらへ飛ばされたことすらその者たちによる策略と見るべき、というのがテセウスの見解のようです』


 たく、俺としてはとても複雑、この星系にアルセウスがこなかったら今でもウンコに夢中なクソガキだったと思うし。


『マルガゲートの詳細はまだ不明ですが、彼らの収入源は暗殺と人身売買のようです、ここはタジリンの出番ではないかと』


 またそうやって俺を女の子の格好させて面倒ばかりやらすんだ。


『艦長、今回はこの艦の危機ともいえる案件です、これまでのちょっと面白そうだなって話ではないのです』


 ちょっと面白そうだなで俺は女学園へと潜入させられたんだ……なんか複雑な気持ちだよ。


「タジン様、私そろそろ火を使うのでこっちは眠りますね」


「あ、ごめんねリン、こっちは大丈夫だから」


 リンはそう言うと座ったまま力がゆっくり抜けてベットにクタッと倒れこむ。


 その横にいたゼシリアは驚いて俺に抱きつくと我に返ったのか、急いで脱いでいた浴衣を探し始めた。


「なんかもうゼシリアも大変だね」

「……にゃぁ」


 恥ずかしいからだろうか、猫の振りした彼女のその様子はとても愛らしく見えた。

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