30 大司教たちの円卓


 大司教それはこの聖教国家アブレラルにおいて王族よりも権威と財力を有する者たち。選ばれし20名以上いる司教たちの中から選ばれた現在は3人しか名乗れない存在。


 大司教タルトン、彼はこの国において司教の頃に大陸内外の国家に聖教を布教を成功させていてその功績によって大司教になった最も影響力のある人物。


 大司教クロンテナン、彼はこの国の使徒教育の発足者であり初代聖女を崇拝するレルネア派のトップに君臨する人物であり、彼が聖教徒学園を管理するようになり聖女候補の質が上がった事実がある。


 大司教ハゲタロジン、彼は知る人ぞ知る聖女堕としで孕ませた聖女は数知れず、司教の頃から何人も妊娠させて引退させてきた彼の後ろには歴代の聖女が影に潜んでいる。最も若い大司教で最も見目が良いとされ、司教の頃から聖女が補助を彼にすることが多かったため今では顔を白い布で覆っている。


 彼らは歴代大司教の中でもそれぞれがちゃんとした理由でその座についていると言われているも、功績のタルトンと導き手のクロンテナンに比べて顔だけのハゲタロジンは国内外からあまり尊敬されていない。そもそもハゲタロジンの顔を知っているものは若い頃の司教であった時の顔しか知らず、今の顔など見たことが無い者がほとんどである。


 そんなハゲタロジン大司教が珍しく他の大司教に声をかけて円卓会議を開催することになったのは彼が大司教になって初めてのことだった。


「本物の聖女タジリン、彼女が現れたということは奴らも黙ってはいないだろう……そうおっしゃるのですね?大司教ハゲタロジン」


 タルトンが白鬚しろひげをさわりながらそう言うと円卓の左手側に座るハゲタロジンはコクコクと頷く。


「奴らはかつて本物の聖女の血筋を追い出した者たちだ、我々教会の大司教のみが知っているその事実は奴らとて知っている、それを君は今更持ち出すわけだな大司教ハゲっごほごほん、すまない咳が」


 クロンテナンがそう言うとハゲタロジンは小さい手持ち黒板に何かを書き始めてそれを終えるとクロンテナンに見せた。そこには、今ハゲって言った?言ったよね?そう書いていた。


「いやいやハゲ――タロジンはお前の名前ではないか?ハゲ、タロジン」


 ハゲタロジンはすぐに小さい手持ちの黒板に何か書き始めるとそれをクロンテナンに突き付けた。それには、お前が禿げだし!禿げ!カツラ!禿げ!と書かれていた。


「まったく、二人とも言い争いはそこまでにして話を進めないか?」


「それはこのハゲに」


 再び黒板に文字を書く音が響く中でタルトンは手元の資料に触れる。


「聖女をこの国から追いやった勢力か……王族すらも知らない我々の中にもいない一体どこにいるというのだろうな」


「それこそ聖女タジリンがご存じなのでしょうね、あれは間違いなく本物ですから」


 クロンテナンの脳裏に映るタジリンの聖法気の神々しさ、歴代の聖女では比べ物にならないそれは聖女の頂。


 この地で聖女はその美しさを損ない見た目が変化するという言葉通りならタジリンもそうなるべきだろうと彼は考える。しかし、それに関してはタルトンがタジリンに言われたことが理由で説明できる。


「この地に聖女を醜くさせる呪いは本当にもう残っていないらしい」


「大司教タルトン、我々はただ聖女の正当性を正すために聖教を布教し使徒たちを教えていたのではない。歴史的に見ても王族貴族の腐敗から聖女がないがしろにされ、追放された聖女の血脈が新たに現れたのは聖法気の仕組みを知るためなのだろ?ならば正しく使徒として過ごせる環境を整える必要がある」


 タルトンは頷くと資料の一つを右手側に座るクロンテナンに向けて円卓の上を滑らせる。目の前で止まった資料に視線だけを向けたクロンテナンはため息とともに全てを理解する。


「司教クラググ、司教アドノアが行った愚行は私も容認できない、ましてクラググが行った聖女に触れる行為は大司教にすら許されざる行為である」


 その言葉にハゲタロジンは黒板の文字を掲げ強調して見せた。


「クラググは邪教とと繋がっている可能性がある?それはむしろお前だろうハゲタロジン」


「大司教クロンテナン、言葉が過ぎるぞ」


「だがそうだろ?こやつが何人もの代理聖女たちを囲っているのは周知の事実、なら聖女タジリンを我が物にしようと企んでいてもおかしくはない」


 ハゲタロジンは黒板を前に突き出すと、私の意思だけで聖女たちに無理をしているわけではない!、と強く意思を表明した。


「にしてもいつからこいつは筆談しかしなくなったのだ?手紙でのやり取りが多かったせいか喋った記憶が随分と前だ」


「たしかに、だが手紙であったように聖女たちでも治せない病のせいらしい、が――」


 そこまで言ってタルトンはタジリンと会った時の記憶を思い出して、付き人のセルベリアが言っていたことを思い返した。


 よもや顔を隠し声も出さないのは本当に中身が別人でしかも女だからなのだろうか?


 服の中身は上から見ているだけでは性別など分かるわけもない。だが問題はハゲタロジンが女である事実があったとして、それをどうやってタジリンとセルベリアは知ったのかだ。ついこの間まで海を挟んだ別大陸にいた者たちがまるでずっと見ていたかのように彼を女だと言い張る。


「……女神の啓示か」


 呟いたタルトンはその鬚に再び触れるとセルベリアを思い浮かべて思う。


 いや、彼女こそ女神に近しい者なのかもしれない。銀髪三つ編み眼鏡メイド、これほどの私好みの格好もない、これはあれだろうか女神が私の信仰心に対し少なくともお褒め頂いているのではないだろうか。


 飛躍した考えを続ける彼の妄想はそのまま加速していく。


 こうして円卓会議を終えた大司教はそれぞれに帰路へと発つ。タルトンはすぐに派閥の司教にクラググの監視を命じて、クロンテナンは派閥内のクラググの調査を側近のアドノア司教へと命じた。


 ハゲタロジンは自身の乗ってきた馬車に乗るとその顔を覆う布を取り、頭の大司教の装飾華美な頭巾を外す。


 桃色の髪が肩にかかるとようやくその性別が見て取れる。


「筆談は疲れるわね」


「部屋に帰るまでがハゲタロジンとしての役割ですよケルタン」


「でもバネッサこの格好凄く暑いのよ。息苦しいし、話せないし」


 ケルタンと呼ばれた桃色髪の女は正面に座る赤髪の女をバネッサと呼んだ。二人は気の置ける仲なのか互いに笑みを浮かべる。


「それにしても本物の聖女様が現れるなんて、これからどうなるんだろうねバネッサ」


「どうにもならないわよ、長年私たち偽聖女がこうして大司教の一角をになって聖女の立場を改善してきたのだもの本物の聖女が来たのなら快く出迎えるだけよ」


「でも邪教徒の奴らが今度こそ動くかもしれないじゃないの、そうしたらどうするの?私たちに彼らと対立できるだけの力はないのよ」


「じゃ、それは本物の聖女様に任せるというのはどうかしら?」


 バネッサの言葉にケルタンはなるほどという表情で口元に笑みを浮かべる。


「本物の聖女様なら邪教の奴らなんか相手にならないものね」


「そうよ、彼女の聖法気は私たちとは別格別次元のものらしいもの、同士ラキニュエルが言ってたでしょ?彼女の聖法気は空間を覆うほどに濃いと」


 彼女たちは元聖女であり、ハゲタロジンと名乗った男が大司教となった後に彼に名を借りて彼を演じている者たちだ。


 数十年前までは聖女の立場は子どもを産むだけのものだったため、彼女らの立場を心配したハゲタロジンが彼女たちを救うためにその身を捧げ不名誉を受け止めて聖女たちを妻とした。本当は彼女たちは彼の本当の妻ではなく自由を得るために傍にいるだけ、彼の本当の妻は元聖女アリミアノアだけだ。


「我々タラエボルの本懐は本当の自由よケルタン」


「もちろんよバネッサ、私たちの本懐は――」


「「カッコイイ(カワイイ)男の子と結婚(エッチ)すること!」」


 彼女らは恋も結婚も自由にできない状況で、司教たちと強請によって結婚させられることもないが本当の自由も無い。故に彼女たちは本物の聖女によって救い出されることと邪教の信徒たちを見つけ出し排除することを望んでいる。


「でも、ハゲタロジン様が生きていたのならこんなことにはならなかったのかな」


「それを言ってもしょうがないわケルタン……彼もアリミアノア様も二人の子どもももうこの世にはいないのだから」


 バネッサはそう言うと馬車の左側に身を寄せて壁へと頭をもたれる。二人はその言葉を最後に口を閉じると馬車はそのまま帰路へ向かう。



 円卓会議とケルタンとバネッサの様子を見終えたセルベリアは、太ももで眠るタジリンの髪をくとそのまま首へ胸へと手を移動させると体をまさぐり始める。


 現在自室待機中の二人、タジリンの中の人は村で妻と妹と安らぎの時間を過ごしている。もちろん言葉遣いが妙に丁寧で乙女な彼に周囲時々疑問を持つ、だが彼は元々そんな感じだった気がする――というだけで誰もツッコミはしない。


 目の前で映し出されている映像には村の様子や艦内の様子が映されているが、それは彼女の視界内でのみ流れているため音声も彼女にしか聞こえていない。それらを眺めながらセルベリアはため息を深く吐く。


「私の推測が正しければこの国に邪教徒などいないし、聖女たちの後ろ盾が殺されたのも痴情のもつれからなのは明白。お嬢様が聖法気を習得し終えている以上もうここに用はないことは分かっているのですが……」


 タジリンの下半身から手を離しその匂いを嗅いだセルベリアは少し頬を赤らめて言う。


「もう少しだけこうしてお嬢様とメイドとして過ごしていたいというのは我が儘なのでしょうね」


 画面の一つが点滅すると彼女は手早くタジリンの体を掃除して服を正す。体勢はそのままで彼女が目を覚ますと少しボリュームを落として声をかける。


「おはようございます」


「……おはようございます、こちらは何も問題なかったようですね。ですがどうしてでしょう、体が少し性的な興奮をしてる気がするのですが……セルベリア?」


「少しだけ性欲の発散をしてしまいました」


「はぁ~どうして――と言っても何にもならないわね、人形遊びをしていたと思えばまだ理解できますもの」


 もうほぼ話し方がお嬢様になってしまっている彼女はゆっくり体を起こそうとすると指一本額に置かれて起こせなくなる。


「ん、んー、ん~ん!何をするの?起こせないでしょ?」

「お人形遊びですよ、分かっているのですかお嬢様、その体のステータスは私が管理しているんですよ」


 タジリンはその視界に自身のステータスを表示させると全ての筋力パラメータが最低値に抑制されている事実を知る。その数値を変更しようにもセルベリアの名前でロックされており変更はできないようで。


「お嬢様、お嬢様に女の快楽をお教えしてもいいのですよ?電気やピストンは強すぎますから微電流や振動から始めますか?」


 謎に素早く震えるセルベリアの左手人差し指で額が振動に襲われると、タジリンは股をキュッと閉めて咄嗟とっさに身構えてしまう。


 指が次第に目頭めがしらから鼻先から唇からアゴへと移動するとタジリンは最適解を考え付いて口を開く。


「許してください、お人形遊びじゃないです、ごめんなさい」

「まったく、何をそんなに怯えているのでしょうか、とっても気持ちいことなのに――」


 アゴから空へと移動する指は胸の上からゆっくり臍の上へ移動して最終的に股の上でピタリと止まる。


 首を振るタジリンは一層その体に力を入れるとセルベリアは笑みを浮かべる。


「シリウスさんにメスイキさせられた記憶はないはずなのに、体が覚えているのでしょうかね?」


「やだぁ振動も電気もやだぁ」


「あらあら子どものように怯えて、いつものお嬢様らしくないですよ、ほら振動も止まりましたしもう怒っていませんから」


「ほ、ほんと?」


 彼女は知らない、このマテリアルボディーはあるものが抑制されていることを。


「男らしさ、勇ましさを抑えられた男性の精神はとても可愛らしいものですね」


「何か言った?」

「いいえ、何も――」


 そう言ってセルベリアはタジリンの体をゆっくり起こすと言う。


「入浴のお時間ですよお嬢様」

「ええ、分かったわ」


 そんな二人の様子を見ていたアルセウスは思う。


 なんて可愛らしいのかしら!うちの艦長!

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