25 宇宙マフィア


 俺らは宇宙に様々な拠点を持つマフィア、マルガゲートの一員でありマフィアならではのファミリーとしての絆がある。


 マルガゲートはマルガという女がいてそれに惚れた初代ボスであるバーンズがブチ犯した時に思い付いたらしい。ホールがゲートのようだと例えた下品極まりない名前だが、俺らにとってのファミリーネームなんて気にする必要はない、重要なのは俺らだってことだけだ。


 俺らの仕事はスマートだ、丁寧さなんていらねぇ、ガッとやってパッとやってドンと構えとけばいい。下っ端なんていねぇ、兄がいて弟がいて妹がいるだけの話でパピーもマミーもいらねぇ。


 親戚のオジキがいて知りあいのアニキがいることはあっても親戚に弟も妹もいない。


 俺らのシノギは殺るか殺られるかのどちらかだ、いつもと変わらねぇ日々でも女は変わるし種も変わる。種って言うのは飯の種でシノギとはそれらの総称だが、種にもならねぇ仕事もある殺しの半分は種にもならねぇ。


 誰が決めたわけでもねぇがそこにいればとりあえずは拉致って売る、女は高く得れるし男も高く売れるわけだが、性別関係なく今は生身の人の需要が高い。マテリ――何とかってのはすぐに中身が無くなるから人形と呼ばれていてあまり需要がねぇ、やっぱ生身で反応がある方が楽しめるからだろうな俺もそう思う。


「クロさん、テッドのアニキが話があるそうで」


 俺はおもむろに弟の顔をぶん殴ってやった。これは怒りとか苛立いらだちとかではなくしつけ(愛)故にだ。


「ぐぇぁ!ク、クロさん!?」


「てめぇ、テッドのことをアニキと呼んだのかぁ?あぁん?」


 テッドは俺らがユーザーと呼ぶバイヤーたちの一人、決して尊敬や敬意なんてものはいらねぇ。


「す、すいやせん!」


「てめぇの行いは俺らの行いになる、お前が侮られたら俺らが侮られたと同じでお前が許せないことは俺らも許せない、俺らはファミリーだ……勝手に俺らの価値を下げんじゃねぇ」


「はい!クロさん」


 まったく、こいつはいつになればイッパシになりやがる、世話のかかる奴だがこの素直さはこいつの良いところだ。


 それにしてもこのアジトは狭いし臭いしでもう別へ移りたいところだ。


 俺は三人掛けのソファーから机に伸ばす足を地面に下ろして、勢いよく立つとそこに半透明のデバイスが表示される。点滅する画面に触れるとそこに尖ったアゴのみが映り込んで音声が流れた。


『おいクロ』


「なんだ、マミーの尻でも割れちまったのか?」

『はっ!俺のマミーは俺のマグナムでもう天国さ!……そんなことより、納品の話をしようじゃないか』


 納品、そういえばそんな話を誰かから聞いていた気がするが――誰だったか分からねぇ。


「で、納品だったか、たしか俺らの方から連絡するつったか……あれは嘘だ」

『……まぁいい、で品物は用意できているんだろうな』


「女だろ」


 こいつのことだ、どうせ人に動物の姿させて何ぶち込む穴が欲しいだけだ。


『分かっているならどうして運ばない?デスには今日納品だと聞いていたが……』


 っ!今思い出しちまった、デスのアニキのシノギだったか、たしか積み荷はもう輸送艇に乗せてあると言っていたな。だが護衛が付くっつう話だったよな。


「護衛はどうした?こっちはいつでも火入れすることができんだぞ」

『護衛はバンダー族というトカゲみたいなやつらが請け負っている、来てないってことはこっちの落ち度だ、担当をぶっ殺しておくからそれで勘弁してくれ』


「はっ!てめぇのミスを棚に上げてこっちにいちゃもんつけるたぁ、死にてぇのかあぁん?」


 基本こっちが間違ってないことが多い、だからいつだって強気で通すのが俺でありすじでもあるわけだ。


『はっ!まぁ~今回はこっちのケツ持ちってことで落ち着けるかぁ、どうだぁ?クロよぃ』


「まぁ~こっちはそれで構わんけどよ」


 これで話はデスのアニキの方へと振られるだろう、あとは船を出発させて見送るだけ。


「じゃ、そろそろ船を――」

「ク、クロさん!」


「どしたぁあ!」


 慌てて入ってくるこの馬鹿が、まったく俺の予測もできない行動をするんだ。


「つ、積み荷を載せた船が!出発しました!」


「……だそうだ、テッド――」


「……てめぇ!クロ!どういうことだぁああ!」


 まったく、面倒なことになった。俺はそのままソファに腰を下ろすと足でその通信を蹴って消し去り、その足を机へと下ろして馬鹿を一瞥いちべつする。


「てめぇ」

「……はぃ、クロさん――」


「これでハンバーガー買ってこい、セットで俺とお前の分だ」

「え……でも積み荷が――」


「馬鹿が、積み荷は出たんだろ?だったらあとは俺らの領分じゃねぇ、このケツはデスのアニキに自分で拭かせる。俺らは子守りまで請け負っちゃいねぇからな――まっ気にすんな」

「は、はい!」


 まったく、使えない兄貴分がいるとあれだなぁ。


「肩が凝って仕方ないぜ」

「肩こりですか!揉みましょうか!」


「おい、てめぇはバーガー買ってくんだよ」


 俺はクロ。


 またの名をクロノワールシュヴァルツ、誰が呼んだわけでもない、服が黒いからなのか髪の毛なのか瞳の色なのか、そんなめんどくせぇことは知ったこっちゃねぇ適当に呼ぶがいいさ。



『どうなってるデス』


 スーツとサングラスが似合わないおっさんだなこの人は。


「話が見えないですね、要件をどうぞ」

『てめぇ!ふざけたこと言ってねぇで説明しろい!』


 声も汚いとくりゃ顔もき汚ぇなおい。


「たく、意味が分かりませんね」

『お前のところの荷物が逃げ出したって話だろうがぁおん!』


 今日の荷物というとクロのいるところの猫たちか……まったく、クロならと思っていたがその前に俺の部下が入ってしまうとやはりダメか。


「こちらで把握しています、座標もお送りいたしますので護衛にでも捕まえてもらってください」


 俺に何の得があってテスタロッサの尻拭いなどしなくてはならないんだ。


『デス!お前が捕まえてくるのが筋だろうが!』


「テッド、あなた少し勘違いしてやいませんか?このシノギは俺ではなくテスタロッサが主導しているものです、あのイカレ女の雑な仕事の結果がこれなんです、俺が最初から最後まで担当したのならいざ知らず、今回の件は俺でもクロでもなくテスタロッサの落ち度ですよ」


 あのアマ、どこまで俺様の足を引っ張る気だ。


『あの女のミスだろうと、このシノギはお前が仕切ってるそうだろデス?だったら落とし前もお前が付けるべきだろうが!』


「……仕方がないですね、今回の件のロス分はうちが全額持ちます、その方が面倒が少ないですしね」

『たく、お前ほど聞き分けがよければクロもいい奴なんだがな』


 クロがいい奴か、あれは狂犬でただの殺し屋だ。正直いつ誰を殺すかもこっちは理解できていない、その点でいうならテスタロッサの方もか、今回あのアマが手を出したのはパンドラだって話だ。宇宙統合機構とか名乗っているAIが主体の人類組織、中身はマテリアルボディーみたいなとんでも技術を使っている化け物集団だ。


 体が死んでも本人は死なず、AIが完全な思考と計算ではじき出された完璧な作戦は人間では太刀打ちできない、加えて不老ときたもんだ――まさに人類の到達点。


「だからこそテスタロッサの実験にも耐えたっていうわけか」


 ブラックアウトした画面を葉巻の煙越しに睨みつけていると、不意に画面にどアップの乳が映し出されると面倒な声が聞こえてくる。


『もしも~し?もしもし?こちら顔も人格も種族も変えちゃう整形師のテスタロッサちゃんだよ~』


 この声を聴くだけでこれまでの不快なアマのミスが脳裏に浮かんでくる。


「面倒な人だ、で?何の用ですかテスタロッサ」


 胸を揺らしながら答えるアマはたぶんそれで俺が喜んでいると思っているのだろうが、これで喜ぶのはクロやボスだけだろうな乳なら何でもいいってわけじゃねぇぞガキが。


『ねぇ~あの丈夫な体の女の子まだそっちにいる?あの子――名前なんだったかしら、あらやだ忘れちゃった』


 人に興味もなければおもちゃにも興味ないアマが。


「ゼシリア・ミアムラだ、パンドラの一人だからさっさと手放すためにもうこっちにもいない」

『え~!あの子丈夫だったからまだまだ色々使えたのに~あの子の子どもも多分丈夫になるんじゃないかって思ってたのに~』


 マッドサイエンティスト、サイコパス、こいつを言い表すにふさわしい言葉は多すぎて混乱するほどだ。


「パンドラには手を出すなってボスにも言われているだろうが、あいつらは普通の見た目でも記憶された情報を死体からでも引っ張り出してこっちを特定してくる。見つかったら最後、アジトにしている未開拓惑星だろうが衛星だろうが恒星破壊兵器で一発だ」


『え~でも私が管理してれば絶対逃げられないけどな~精神もボロボロにして快楽で何も考えられないようにしちゃってるし』


「バカが、そう見えるだけであいつらは感覚を消せるし感情も消せるしなんなら中身だって入れ替わって体を動かせるんだ、それも逃走や戦闘のプロのそれさだから今回も船を操縦して脱出したんだろうな」


『え~逃げられちゃったの~マジで~使えないわ~』


 このアマ、本当にボスのお気に入りじゃなかったら俺が監禁して穴という穴調教してやるんだが。


「今回の逃走はお前の管理責任だから賠償はお前にも半分出して――」


『話し方変わってるぅ~きも~い』

 イラ。


「とにかくですね、テッドへの賠償の半分はあなた持ちですからね」


 ブチっと切った俺は机の上のリボルバーを手に取って何度も引き金を引くも、カチカチカチと撃鉄げきてつが音を鳴らすだけで弾丸が火薬で飛び出ることはなかった。もともとそれには弾は入っていない、俺の精神を落ち着かせるためのものだ。


 変幻自在の整形師テスタロッサハート、ボスのお気に入りでボスの女、年齢経歴ともに不詳、金もコネも持ち合わせた最悪のくそアマ。


「何かの間違いで死んでくんないかなあのアマ――」


 おっと、俺は冷静沈着でスマートな男だろう。


 人は俺をデスヘブンヘルと呼ぶが、それは死あるいは地獄あるいは天国を見させることができる男だからだ。


 ネクタイを正して今日も一つ。


「悪いことでも考えていきましょうか」


 きっとその笑みを見たらクロあたりは、死神とでも揶揄やゆするでしょうね。

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