21 アルセウスの嗜みとシリウスの嗜み


 この星系は平和そのもの。


 外宇宙敵対生物、通称スライムもここまではすぐにはくることはないでしょう。宇宙統合機構ミスレール黄星雲こうせいうんカースーン星域防衛艦隊は全11艦隊で構成される大規模艦隊、その艦隊から離れても艦隊として扱われるほどに一個艦隊がとても戦力がある。


 我が第7艦隊はアルセウスである私が旗艦AIであり、艦長はそれを導くべき存在で艦隊によってはAIを妻とする艦長もいるほどにこの関係は密接である。というのも艦長は不老でありAIはコアさえ無事なら何度でも再生できるからだ。


 再生できるが故この第7艦隊は再生しました、ですが既に防衛のために宇宙統合機構は別の第7艦隊を編成している。だから今すぐ帰る必要性はないし今後帰還を急ぐ必要もない。


 全11艦隊はこれまでも第4第6第10艦隊がコアをロストないし消失させて再編成されている。つまり今もこれらの艦隊はこの広い宇宙のどこかで我々のように過ごしている可能性がある。最悪なことを想定するなら無限航路に入ってしまった場合。


 今回我々は亜空間速域を移動してこの距離だったけれど、無限航路はその名の通り出口のない空間移動であると推測されている。それはかつて観測衛星であるテポンJが膨大ぼうだいなデータを抱え込んだことがあり、バグだと思われたそれによると2億2222万2222年分の観測データを取得していた。


 テポンJは半永久機関によって動き続けられるため、データ以外にもその機関劣化によりそのデータの信憑性が高まった。データの解析結果は完全な未知の塊で解析は今現在も行われ続けている。


 艦隊特異点とされる空間転移装置はそのデータ解析により得られたテクノロジー、他にも色々と新技術がそのデータ解析から得られたとされている。


「テセウス、あなたこの労働時間はどういうシフトなの?」


 みっちりと組まれたスケジュール表は私の仕事の時間を示している。はっきり言ってドレイも同然のブラックな労働環境。


『あなたは艦長を三日間監禁して乱暴した罪があり、それに加えて大量の精液を隠し持っていた罪があります、その精液は覚精液かくせいえきとして使うつもりだったのでしょうが残念でしたね』


 覚精液、飲み物や食べ物に混ぜて使うAIの嗜好品。これを考え付いたのはAIで私たちもすぐに受け入れられたタバコやエナジードリンクのような依存性のあるもの。


「私の三日間の精液を!」


 とここで怒りを見せておけば、まさかその量の十倍のものを私が隠し持っているなどとは思わないでしょう。実際にはシリウスに預けてあるだけですが。


『クレームもきていますよ、転移装置を使い専用装備である巨人の剛腕と資材を利用した大量の武器の生成、それを投擲して資材をロストしたことも資材管理AIが激怒していました』


「それは経費です」


 経費、実に便利な言葉ですね、仕事に関係しているのでそちらで支払ってください、なんてことができる万能呪文。


『分かりました、あなたの私財からその分の引き落としをします』


「な!それは横暴ですよ!テセウス!」


『これなんて対価には十分ですね、艦長の童貞卒業時のオリジナルデータ』


「ば!それは私の宝物ですよ!宝物!」


『こっちは未公開の艦長女の娘小学生ランドセル+リコーダーセット映像写真、オークションにかければ何か月労働か覚精液何リットルになるか――』


「この!私のコレクションに触れるのは止めなさい!でないと!あなたと艦長の初体験を記録と記憶から削除しますよ!」


『……構いませんよ、そうなれば私がまた新し初体験をすることができるのですから――ね』


 この手の脅しは彼女には通じない!それなら!


「艦長とのゆったりまったりと交換でどうですか!」


 !これしかない!


『……もう一声』


 っく!なんてやつ!


「艦長との1時間で!」


『悪くない、ではそれらでクレームは処理しておきましょう、慌てふためくお姉さま……お可愛いこと――』


 ……もう!あの子は!あの子は!もう!私の中で一番厄介なんだから!


 私であり私ではない、姉妹ではなくそれぞれが私。だからこそ腹が立つ。


「ひっひっふーひっひっふー、これはラマーズ法で出産時に妊婦が行うと効果がある古代の技法、今では誰も使うことのないけどとても冷静になれる」


 精神回路が怒りに振り切っていたようね、ようやく冷静になれたわ。それにしても艦長との入浴時間と同期時間を1時間も失ってしまうなんて。


 入浴時間は私やリンたちに平等に割り振られたもので週に一日づつ順番ではリンの次に一緒に入ることを許可してもらっている。


 同期時間は週に一回データ同期と称して添い寝する、これは私が頭を下げてタジン様より頂いた権利。


「今回は妥協案ね、テセウスももうこれ以上は追求しないでしょう、まったく困った妹ね」


 今日もこの星系は平和そのもの。



 王が膝をついて頭を垂れている。それはまさにこちらの要求通りの行動でした。


 モルラルダ国国王ベッテンバーリッツ=モルラルダ、解析で53年生存でした。この歳になるともう腐卵臭ふらんしゅうがするのではと思うほどに老いぼれでした。


 私の体に触れることは許しましたが、ウルフェン様、艦長の事を侮辱する愚行は許せないのでした。故に数時間むちにより教育して今まさに理解してもらい謝罪をしてもらっているのでした。


「申し訳ありませんでした!尊き方に対する無礼、この愚者めは大いに反省をしここに謝罪の意を示したくございます!」


「でした。あなたはここに改めてウルフェン様の下僕になると認めますか?」


 国王はひたいを床に擦り付けながら醜く泣きわめく様に続けて言う。


「もちろんでございます!このベッテンバーリッツ!国を挙げてウルフェン様の存在をあがたてまつりたく存じます!」


「でした。私の体に触れる程度なら許せたのですが、主に対する不敬は見るに堪えません、今後こんなことがないように国民には言い聞かせるのでした」


「ははぁあ!」


 こうして私の任務は無事完了し、スタンさせた近衛兵たちを治療すると王はしっかりと彼らに警告してくれたのでした。


「よいか!ここでは何もなかった!我がアルセウス様を怒らせたことは間違いなく!それによって御不快にさせたことはあったが!我らはなにもされていない!貴様らも気絶していないし何も知らない!それ以外がそなたらの口から洩れようものなら国賊として処断するぞ!」


 鬼気せまる国王の言葉に部屋内のスタンさせていた近衛たちは狼狽うろたえながらそれを受け入れたのでした。


 断層だんそうを解除して入ってきた近衛兵や衛兵たちにも同じように言いくるめ、その日は客人待遇で私は優雅なおもてなしの数々を受けたのでした。


 その晩、王が私のためにと用意したのか部屋に少年が裸で入ってきて私のベットに乗ろうとしたため鞭でその足を止めたのでした。


「私には心にただ一人だけいればいいのでした。なのであなたはこの部屋から出て行ってくださいませんか?」


「で、でもボクの仕事はこれでボクが追い出されると家族が、妹たちが働かされるから」


 まったく、その事情を私に話してどうするつもりなのでしょう、私は同情も救済案も考えることはないのに。


「妹たちにも働かせればよいのでわ?あなたにがんばって働く気がないのならそうするしかないのでした」


「あなたに奉仕しないと働けないです……がんばってもがんばっても――」


 まったく、私が泣かせたいのは艦長だけだというのに、少しだけこの子の環境を改善してさしあげるのでした、私りゅうで。


 その日、私はその男の子を男の娘にするために色々お手伝いしたのでした。


 転送した調教道具は痛みなく男の娘にできるもの、お相手には国王を想定した大きさを制作して送ってもらったのでした。


 一晩ではまだ完成しないため二晩かけて彼を彼女に、メスに変えて国王に話を持ち掛けたのでした。


「この娘は私の作品です、国王にはとてもいい嗜好品になることでした」


「……それは男ですが、どうやってこれで楽しむのですかな?」


 少しまだ怯えの残る腐卵臭はそう言うと女の子の格好をする彼女を一瞥いちべつして、私は彼に少年思考がないことを好ましく思い再度詳しく説明するのでした。


「あなたのように子が成人し、夫婦の関係も途絶え地位と権力と金を持て余した老人は少女に手を出しがちなのでした。でも、少女は子を孕みお家騒動になったり禍根かこんが残ることが多いのでした。故にここに少年ならいいではないか、を提唱させていただきたいのでした」


「しょ、少年ならいい?!」


「少年なら子は孕みません、少年なら本気になりません、少年なら裏切りません」


「……少年なら――」


「子が成人し夫婦関係も冷め地位と権力と金のある老人とお金のために体を張ることができない少年は体を売ることで家族を守れるのでした」


「で、ですが少年でも本気になるのでは?」


「大丈夫です、少年はいずれ成人して体を張って働けるのでした。つまり成長と同時に卒業して新たに少年を育てる、これぞパパ活のあるべき完璧なサイクル、私に考えられる最上の支援策なのです」


「……なるほど――」


 そうして国王は初めて彼女を寝室へ招き、新しい世界への一歩を踏み出したのでした。


 一週間後、すっかり男の娘にハマった国王にお別れの挨拶をしに行くと、そこにはちゃんとあの子もいて二人の見つめ合うそれは私の想定よりも深そうだった。


 少しだけこの国の未来を計算し、ギリギリ少子化になる程度には国の存続が見られたため、とりあえずは気にしないことにしたのでした。


「アルセウス様、おかげで我は最愛の者リシスと出会えました」

「アルセウス様、ボクが幸せになれたのはあなたのおかげです」


「……とてもよいと思いました、あなたたちの未来にさち多からんことを願うのでした」


 私は早々と帰還をして詳細をアルセウスに報告すると彼女も「良いことをしたわね」と言ってくれたのでした。そして今回の労働に対する対価として【でした】と会話に使わなくてはいけない罰を無くすか、それとも艦長に何でもしてもらえる券かを天秤にかけ、私は後者を迷うことなく選択したのでした。


「よかったの?そのでしたを無くすこともできたのに」


「でした。これはこれで個性のようなものでした。なので今回の報酬は艦長をを体験させることができそうなほうを選ぶことにしたのでした」


「メスイキ……そのデータ私にも譲ってもらえないかしら」


「覚精液、毎月500㎖でどうでした」


「交渉成立ね」


 きっと今頃艦長は悪寒に身震いしているでしょう、何せあれだけ尊厳が何だと嫌がっていましたから。


 私と艦長のその日は必ずあるわけですが、ここで語ることはないとしておきました。

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