19 トリニティロスト2
気が付くとそこは透明なガラスで覆われた部屋で、同じ士官学校の顔ぶれと教員たち、知らない顔もちらほら見える。
その中にカウスの顔を見つけると彼は裸で透明なガラスに腰を擦り付けているようだった。そして、よくよく周りを見ると僕を含めて服を着ている者は一人もいない。
なぜ裸なのかを考えるより先に周囲の男たちの目線が一方に集中しているのを察し、僕もその方向へと視線を向けるとそこには僕らと同じように裸の女性たちがいて、見知った顔が何人もいるようだった。
彼女らは船員たちだ、それに気が付くとようやくカウスの行動を理解した。彼は目の前の裸に興奮して腰を振っていたのだ。
女性たちは全員で集まり正規兵の人たちだろうか、彼女らが背中で壁を作って他の女性たちを隠しているようだった。
状況を把握しようとした僕だったが、どうやらその必要はないようで、それらを知っていそうな短い銀髪の美女が戦闘服であろう格好で僕らの透明な箱の前で口を開いた。
「こんにちは、初めまして、同族の皆様方、私は宇宙統合機構ミスレール
聞いたこともない組織の名前、しかもAIだと?彼女は自らを人工知能と言ったのか?
「キミはアンドロイドだとでも言うのか?」
僕のその問いに彼女は沈黙のままこちらに視線を向ける。
「……ちなみに、メス型とオス型間の会話は聞こえていません。なので個体識別名ビルディ・アロックの問いをメス型に伝えて答えようと思います。彼は私を人工知能かと聞きました、肯定します、私はヒューマノイドでありこの体は私専用のマテリアルボディーです。ちなみに子どもも作れるし快楽も感じられます、でもそれらはたった一人のために」
別次元のテクノロジー、こんなにも僕らに近しい姿でここまでの違いがあるなんて。
「ど、どうして私たちは裸なの?」
おそらくは女性側の誰かが何かを言ったのだろう、アルテミアはそちらを見ながら再び口を開いた。
「メス型個体ラミリア・ノーラントの質問はどうして裸なのかですか、それはあなたたちをここへ転送したことによる
転送した?僕らを元の場所からここへか?
周囲も声を漏らしているが、彼女は何も気にせず話続ける。
「あなたたちの体は登録されている構造でできていたのですが、衣類や身に着けていたものに関しては登録されて無い未知の物でできていたのでこちらへ転送されず、例えばほら、個体名リシアーヌ・デルシアスタの髪を纏めていたゴムはこちらに登録されていたものなので消えずに残っています、おそらく意匠に欠けているところはあるかもしれませんが」
なるほど、危険な生物や物質を艦内に入れないための処置。
「あなた方が危険な生物に寄生されていた場合、それも一緒に元の場所へ置かれていたでしょう、虫歯菌とかもです」
ここまでの説明は理にかなってはいるが、それの虚偽かは理解の
「私はあまり質問されるのが好きではないので、ここからは一方的なこちらの考えと現状についてを話します。何を言ってもかまいませんが私は無視しますのでご理解しなさい、あとまだあなた方の言葉の通訳が完全ではないので妙に丁寧だったりしますが基本的にゴミカスのように発言していることを理解しなさい」
つまり僕らを対等に思っているわけではないということか。
「我が艦隊は現在艦長が新任でありクルーの育成をしています、ですが未開拓惑星の者をクルーにするのはとても労力のいるものですし、私たちはしょせん人ではないので配慮に欠けるところがあります。そこで知的生命体を捕虜として教育させることにしたのですが、今回のトリニティに遭遇しました。本当ならあの犬頭の人類種を捕虜にするつもりだったのですが、幸運にもあなた方を見つけてしまいました」
は?
「トカゲもどきは既にこの艦で使える素材になってもらいました、そして犬頭は罪人としてとらえて氷結させてます」
素材?罪人?氷結?
「あの犬頭はホログラムであり、その実我々と同じ人類種です、ベセレータ星系ではどういう認識かは分かりませんが、あれらはとある惑星域の人類国家の艦で人身売買を
つまりあのバウハウ族は映像で頭を犬にしてただけの人だというのか?
「あれらは宇宙統合機構基準法に基づいて機構の管轄で処分します。では最後に――あなたたちについてですが、どうしようもないクズのようですね、特にオス型の多数は」
一部始終を見られていたのか、女性を襲っているところを見た彼女はかなり怒っているようだ。
「まぁオス型はどうせ全員無事に帰すことは決まっている、メス型は私が先に言ったことに関係するから判断はまた後に」
「ま、待てくれ、全員と言ったがここにいないやつもなのか?」
僕は気が付いていた、彼のロクトアル・レクエウストンの姿がない。
「ここにいない?誰の事でしょう」
彼女が反応したならここで聞くことが一番早い。
「ロクトアル・レクエウストン、彼がここにはいない」
彼女は目を閉じ開くまで一瞬だった。それだけでこちらの情報を頭の中で整理したのかもしれない。
「ロクトアル・レクエウストンならここにいます」
「い、いや、彼は今ここにいないぞ!こっちの男たちの中に明らかにいない!」
「……ん?もしや、そういうことでしょうか、いいえ、ご助言大変ありがとうございました」
今一瞬僕らに理解できない言葉でやり取りをしていた。くそ、いったい何を話したんだ。
「個体名ロクトアル・レクエウストン、手を上げて立ち上がりなさい、そうすれば全て解決します、もちろん隠したいのなら左手で隠しなさい」
いったい何を、そう思っていた僕は次の出来事に言葉どころか思考も何もかもが停止してしまった。
男側は全員座ったままで、女側で一人立ち上がっていた。そう女側で左手で胸部を隠している者が手を真っすぐ上げていた。
「俺はここにいる、俺がロクトアル・レクエウストンだ」
は?
「これで理解できましたか?個体名ビルディ・アロック、オス型の中にいない理由は当然オスではないからです」
オスではない、メス、メスだって?あれ?僕はオスだ、だけどロクトアル・レクエウストンはオスじゃない、息子じゃない、あれ?
「ではオス型の諸君、これから最高に気持ち良い時間を過ごしたのち、全ての事柄を忘れてお家に帰ることができることを喜びなさい」
そうして僕はまたゆっくりと薄れゆく景色の中で胸を隠しているロクトアル・レクエウストンの姿を目に焼き付けていた。
―――――
「さて、それではメス型、もとい女性であるあなたたちに話すのは相談であり、判断はあなたたちに一任します。と言いましたが、数名には強制的にこちらに従ってもらうことになりますが、それは後々本人の記憶にも残らないのでそれぞれが考えて答えを出してください」
そう言うとアルテミアさんは私たちに向けて笑みを浮かべた。従って、という言葉に私たちは困惑していた。
でも、それよりも幼馴染で婚約者が実は女であった事実の方が私はとても今重要です。
「あなたたちは私の艦に乗りたいか乗りたくないかをハイかイイエで答えてもらいます、それに答えたことで死ぬようなことはないのでご安心を」
アルは今座って膝を抱えているけど、私のことをチラチラと見ている。私の反応を窺う様子はきっと罪悪感からだろう。
「それを選択する前にまず私たちの艦にクルーとして搭乗することのメリットについて話します。まず艦長が若いです、この写真が我々の艦隊の艦長で唯一のオス型です」
アルがどうしてそれを隠していたのかは何となく想像できる、でも、いくら英雄の子だからって男を演じさせるのは無理がある。ようやく彼が急に私と距離をとった理由が分かって胸のつかえがとれた気がした。
「艦長は最近精通したばかりで、この
もう!こっちがいっぱいいっぱいなのに!精通だとか!童貞でないとか!しかも何あの写真!なんてカワイイ女の子なの!逆に隣の写真はかっこよすぎるけど!
「あ!この写真は両方艦長の写真です!本当に美少年です、美少女にもなれます、なにより生涯少年に留めることもできます」
アルはずっと苦しい思いをしていたのに、私は今もあの可愛い女の子が少年と同一人物であることに驚いて、って少年に留めるって何?どういうこと?!
「この私専用のマテリアルボディーのように少年である現在データで作った艦長の体を好きな時に艦長に繋がってもらい、私たちにその体で接してもらうことが合法的に可能なのです、これはこの艦に乗る女性の特権とも言えます」
こんな美少年と合法で接することができるなんて、は!私ったら!アルに申し訳が――ってアルも頬を赤らめて嬉しそうにしてる!あなた男でしょ!あ!そうだった彼は女の子だった!もう!私の
「ではこれから艦長の初体験のデータを全員で体感しましょう、このヘッドマウントを付けてください、ちなみに見るのではなく正妻になったつもりで初体験を体験できます、感情はあなたのもの、快楽はあなたのもの、状況は正妻の体のデータで記録したものです」
え!ちょ、何このヘッドマウント!勝手に頭に!完全に頭に着けられるフルダイブ型のVR機器の超小型化!使ったことないけど!
「では、これから艦長との初体験を皆で共有しましょう、ちなみにこれは艦長には内緒なので、女性クルーたちの共有の秘密なので、あと乗らないことを選んだ方はこの記憶も消すので」
待って、え?これ本当に始まるの?私経験ないんだけど、あと、アルに聞きたいこととか話したいこととか――
『リン……俺、初めてだけど、知識はあるから――』
『―――、―――、――――――。―――』
それから数時間後、頭のそれがとれるまでの間、私を含めその場にいた女性は全員とてつもない経験をした。そんな私たちにアルテミアさんは笑みを浮かべて言う。
「今あなたたちは数時間経過している感覚でしょう、しかし、経過した実時間はたったの三分です」
三分です――三分です――三分です――
この濃厚な体験が三分!
「そしてこれで満足していてはダメですよ、何せ次のデータは男の娘、美少女姿の艦長と側妻の一人のものが体験できるのですが、これはクルーになることを選んだ方のみが体験できます」
こ、これは!こんなの!勧誘でも何でもない!中毒!薬漬けにした人に薬いりますか?って聞いてるのと同じ!
「選択はご自由です、タイミングもご自由です、でも二時間後にはもうあなた方は記憶を消され元のつまらない、ブサイク面ばかりが並ぶ世界でゆっくり年老いていくのです」
こんなの、こんなの……アルは?アルはどうするんだろう――って!もう始めてる!もう完全に入ってる!でも寝てるみたいに見えるんだこれ。
「あ、言い忘れていたことがありました、クルーになれば不老で容姿もナノマシンがって言っても分からないでしょうが、超科学で老いない若々しい体に理想の顔が手に入ります」
あ、これ、女には選択肢がないやつかも。
―――――
『彼は立派な艦長になる資質を持って生まれた人物で、英雄の息子だからではなく、一人の英雄だと私は思います』
メディアの取材で僕が答えた回答がこうして連日報道されている。
今は無き英雄ロクトアル・レクエウストン、彼の死後僕らは今も困惑している。
たった一人で敵艦に特攻を仕掛け、彼と彼に賛同した女性船員が数名殉職し、脱出艇で合流した僕らはカウスが女性を襲ったため男女で別々の艦に乗艦した。
だけどそれでリシアーヌ・デルシアスタ艦長が率いる船が戦場で行方不明になってしまった。
メディア今回の事件を【トリニティロスト】と語っている。
男性死亡数1名に対し女性死亡数が173名、これに関してカウスの罪が重く、彼は国際連盟議会にて最高刑の棺桶の刑が適応された。一生を身動きが取れない棺桶の中で過ごす罰で、その過酷さから数百年誰も体験したことがない罰になる。
同情は無いが、それもこれも僕の実力不足と不運が招いたことだ。今でもあの時のことは夢に見る。
リシアーヌ・デルシアスタと脱出艇前で別れた時、彼女は――そんなわけがないのだが、これは僕の記憶違いかもしれないが裸で右手を高く上げていた、そんな気がしてならない。
「そんなわけないんだが」
そうして僕は最悪を乗り越え、今日新たに艦長として艦を動かす。
今はバウハウ族もバンダー族もあまり出会うことはないが、この宇宙の平和を守るために、英雄に恥じない艦長となれるように頑張っていくつもりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます