5 カミノミチ(未知の現象)VSアルセウス(超科学的宇宙戦特化艦隊AI)
バゼルギア――それがこの俺、領主軍聖騎士ゴルダックが仕えていた領主の家名だった。
生まれも育ちも領主様の領地の首都で、騎士家の家に生まれたのが運よく聖騎士まで楽に就くことができた。だが、隣国の領地がこちらへの宣戦を布告して大軍で進行を開始するとあっという間にこちらの軍は総崩れになった。
そもそもろくに鍛練などしていない騎士の集まりに、神の導を使えるだけで聖騎士となれた俺のような弱兵数千では侵略国家であるあの国との戦闘などガキと大人の戦いだ。
上官が早々に逃げ出してくれたおかげで死守する必要性がなかったのが救いだった。部下たちを連れて南へ南へと村や集落を襲いながらの移動は食べ物も財宝も女も手に入って、次の村で女を放置して移動すれば手元には食料と金だけ。
一度始めたら意外と心は痛まなかった。むしろ楽しい、奪い殺し犯すそれらが心地よかった。恐怖の表情や女のすべてを犯すあの高揚感がたまらない――生を実感できる。
「隊長!あれを見てください!」
「ん?」
馬を走らせていても見て分かるほどの育ち盛り麦稲穂、村にしては大きいし森に囲われていて恵も多そうだ。これは美味いものにありつけそうな予感がする。
「アウンセル、バイリッター、二人で斥候に出ろ!」
フルプレートを着込む二人が馬を蹴るとグングンと加速していく、二人は俺と比べても劣らない剣術を扱う騎士だ。あの風貌の二人を相手にまともに戦える農夫などいるわけもない、が、神の導を使う
後は俺よりも腕の立つ騎士グンダントとベイニクス、この四人となら大きな町の衛士たちにも負けることはない。
そんな考えをして二人を見守っていた時だった。
「……!なっなんだ!あれは!」
それは白き衣を纏い舞い降りた。銀色の長い髪がゆらゆら揺らめいて宙に留まっているのにその背には羽もなければ翼もない。
女であろうそれを見て斥候二人の馬がその場で前足を高く上げて仰け反る。これほどまでに非現実的なことこの世のものとは思えない。
「たっ隊長!逃げましょう!」
「いや、まだ何かをされたわけではない!」
この判断は俺の人生においての最も愚かしいものになった。
遠目に見ていた俺にはそれは女が手を横なぎに振ったように見えた。ただそれだけで馬の背に跨るフルプレートの騎士が胴と半身とで斬り分けられそのまま地面に叩きつけられてしまった。
「ひ!ひぃい!」
「おっおい!」
俺より腕のある二人が逃げ出すのも無理はない。戦場でもお目にかかれないかなり上位の神の導に違いないからだ。
二人がもうあんな遠くに、そう思いながら視線を導師へと向けると再びその手が横へと薙ぎ払われた。
馬鹿げた距離だった、導師だとしても弓も届かない距離だというのに、逃げた二人は首を落とされ体も追いかけるように地面へ。
「ど、どうし!導師どの!」
交渉する振りで神の導を使うつもりだったが、どうやら生かして返す気はないらしい。
彼女の手がもう一度振り下ろされると、俺は子どもの頃に見た熱にうなされた記憶を思い出しながら地面を転がる感覚を最後に死をむかえた。
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『艦隊よりホログラムを投影、その後衛星より高高度レーザーによるピンポイント射撃を実行、それを中継地点で反射して対象を殺傷します』
旗艦の百分の一にも満たない小型艦に搭載された低出力のレーザー、地表に小さな穴を穿つ程度でもこの惑星の生物では簡単に絶命するでしょう。
『先行二体を切断、馬は無傷です、後方にいた三体の内二体が逃走の様子、二体の近くに中継地点を確認うち払いなさい』
右手を振るのは相手に私が実在している様ふるまうため。相手もまさか大気圏外近くからの攻撃だとは思わないでしょうね。
『高度に発展した科学は魔法のように見える、艦長の言う通りですね』
最後の個体が何かを喋っているよう、ですがそれは何も関係ない。
『生死問わず、あなたたちは艦艇で解剖調査させてもらう貴重なサンプルになりますので』
戦いにもならない、この程度の相手なら警戒する必要もないと報告しなければ。どうやらカミノミチを扱う者はドウシと呼ばれているようですが、この中にはいなかったと記録しておきます。
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