第5話 昼食


次の日の授業中

4限の授業の終わりを合図するチャイムが鳴るが、時間が少し押してしまう。

お昼休みに入るので先生は駆け込みで授業を終了させる。



お昼休み教室内にて・・・



「ん~…やっとご飯だ!お腹ペコペコ。早く購買にご飯買いに行こうよ」


「今日は何食べようかな~…」



などと一樺とメイは昼食を買いに行くため席を立ち上がったその時ーーー…。



ピーンポーンパーンポーン



「呼び出しをする。2年3組の桐島一樺、職員室に来なさい」



ピンポンパンポン



「また呼び出し?」


「はぁ…ごめん、メイ、先に購買に行ってて」


「うん、先行っとくね」



一樺は早足で脱兎のごとく職員室へ行く。



「(だ・か・ら!放送で呼ぶのやめてってば!)」



職員室前に到着し、呼吸を整え、職員室に入り杜門の所に向かう。



「杜門先生、放送で呼び出さないでくださいって言いましたよね?…って話聞いてます?」



一樺の言葉は気にせず杜門は机に置いてある課題に目を向ける。



「これを持って行きなさい」


「これ、今日の課題ですか?」


「そうだ。またキミが教材運びを忘れないよう呼び出したまでだ」


「もう忘れませんよ」


「それならいいのだがな」



杜門の机の上に昼食が置いてあることに気付いた一樺は器を凝視する。



「(美味しい食べ物が入ってそうな器、かーっ!めっちゃお腹減ってきた!あの中身なんだろう…海鮮丼かな?器からして…天丼?親子丼とか?いや待てよ…きっと…カツ丼だ!)」


「なんだ、何かあるのか?」


「い、いいえ、それでは失礼しましたー」



両手に課題を抱えて急いで教室に戻る。



「さて、いただくとするか」



杜門は一樺が立ち去ったのを確認してから器の蓋を開け、カツ丼を食べ始めた。




∞∞∞∞∞




課題を教卓に置き颯爽と購買へ向かうと、そこには賑わう学食の光景が目に映る。



「……」


「あ、一樺」


「なにこれ…」



一樺の目の前には、大勢の生徒達が購買で昼食を買うため、我先にと戦場のような

光景が繰り広げられていた。



「それが、いつもウチらが行く時間って授業が終わって速攻で買いに来てるからこんなに混んでなかったみたい。一樺を待ってる間にどんどん人が増えてきちゃって…

今はこのありさま?」


「そんな…」



呆気にとられる一樺何か打開策がないかと考えるが良い案が思いつかない。



「学食の方も満席だし、購買もこんなんだし…ねぇメイ、この中でどうやってご飯買いに行こう?」


「あ、ウチはもう買っちゃってあるから」


「え?」


「だって、一樺何食べるかわからないし、それに、どんどん人増えてくから先に買っておこうかなって。ガンバ!」


「ウソでしょ?この中で一人で戦って勝ち取れと?」



一樺は意を決して人混みの中を掻き分けながら進むが、何度やっても弾かれてしまう。結局何も買えずお昼休みが終わってしまい。







数学の授業中・・・



「(はぁ~…結局何も買えなかった…うぅ、お腹空いたなぁ…)」



そんなことを考えていると、突然ぐぅ~~~っと、お腹の音がシーンとした教室内に響き渡った。



「うぐっ…!」



懸命にお腹が鳴らないように抑えるが気持ちとは裏腹に更に大きな音が鳴る。

さすがに見逃せなかった杜門に一言促される。



「桐島」


「う、すみません…」



恥ずかしさと気まずさで顔が真っ赤になる一樺。

杜門は溜め息を吐き再び授業を再開する。

授業が終わり一樺にとっては何倍もの長~い授業時間に感じた。



「あ~…もう最悪だ」


「何も食べてないもんねぇ、そりゃそうなるわ」


「うぅ…」


「こっちは笑いを堪えるのに必死だったよ、オニ先の授業であの静けさの中よくやってくれたなーって、ぷぷ…あははは!」


「ちょっ!もぅ~笑いすぎぃ!」




∞∞∞∞∞




更に次の日の昼休み

メイと一緒に今日こそはと思い購買に向かう途中、たくさんの教材を抱え廊下を歩いてくる佐伯が視界に入る。



「あ、良いところに…桐島、悪いがこの資料、職員室まで持ってきてくれないかい?

この後、急用があるから急ぎで頼むよ」


「うそだ…はっ!メイ、頼みがあるんだけど!私の分のご飯何でもいいから買っといて、お願い!」


「ごめ~ん、今日はお弁当持ってきてるの」



キャピッとメイに可愛くウインクされたが一樺にとっては悪魔にしか見えなかった。



「そ、そんなぁ!」


「ほら、早く行かないとまた買えなくなるよ?」


「そうだった。さっさと用事済ませてご飯買いに行かなくちゃ!」



急いで職員室に資材を置きに行き、購買へ向かう。だが、昨日と同じ光景だった。



「デジャヴ!!どうしよう…また何も買えなかった…。そうだ!炭酸でお腹を膨らませれば!!」



方向転換をして購買で昼食を買うのを諦めた一樺は自販機で炭酸ジュースを買い一気に飲み干す。



「ぷはぁー!」



その後、炭酸ジュースが功を奏したのか、なんとか授業中にお腹が鳴ることはなかった。




∞∞∞∞∞




次の日の朝大きなカバンを持つ佐伯がホームルームをしていた。



「僕はこれから出張があるから、今日は先生居ないけどしっかりやるんだぞ~」



朝のホームルームが終わり佐伯は廊下にて一樺に昨日のお礼を伝えていた。



「いやぁ~、昨日はありがとうな、桐島。ギリギリ急用に間に合ったよ」


「私は購買に間に合いませんでしたよ…」



ニコニコとご満悦の佐伯とは対象にちょっと皮肉を言う一樺。



「一昨日は杜門先生に呼び出されてお昼ご飯を購買で買えなかったですよー。

お昼ご飯食べ損ねたんです、2回も連続で」


「おや、そうだったのかい?それはすまないことをしたね。あそうだ…」



と何かを思い出したかのようにゴソゴソと鞄の中を探し、パンを取り出した。



「はいこれ、今朝パン屋さんで買ったんだけど、出先でお昼食べることになると思うから、よかったら食べるかい?」


「え!いいんですか!!?」


「もちろん、あ、でもこのことは誰にも秘密だよ?」


「ありがとうございます!」



教室に戻ってきた一樺はとてもご満悦そうにして自分の席に腰掛けた。



「あれ?一樺ご機嫌だね~」


「えへへ~」


「何かあった?」


「今日のお昼はもう決まってるんだ~」



そっと鞄の中に佐伯にもらったパンをしまった。




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