第3話 お手伝いという名の雑用係



とある日


廊下を歩いていると何処かの教室から聞こえてくる。



「コラー!男子達、掃除していけー!」


「へへー、逃げたもん勝ちだもんねー」



ちょうど杜門が階段を上がって来るところだったため、杜門の視界には走り去る男子生徒が見えていた。廊下を走っている男子生徒は後ろを向き、したり顔のまま廊下を走っている。



前を向いて走っていなかった男子生徒は前方にいた一樺にぶつかりそうになる。



「わっ!わわわ、ど、どいてくれぇえええーーー!!!」


「え…」



勢いよくこちらに向かってくる男子生徒に、慌てて自分も走り出すが、間に合わずドターン、と大きな音を立てて転ぶ二人。


ぶつかった拍子に非常用ベルを押してしまい、廊下にベルの音が鳴り響く。



「いっててて…」


「いったぁ~…」



「おい!!」



非常ベルの音が構内に響き渡る中、その音に近くにいた杜門は大きな声を掛ける。

足早気味にその現場に杜門は近付いた。



「げっ!!まずい…本当にゴメンな!それじゃっ!」



杜門の姿を目視した男子生徒は慌てて立ち去って行った。



「もぉ~、なんなのよ…っっ!!」



一樺はぶつけたところを擦りながら目線の下には誰かの足元が目に入るとそのままスゥーっと目線を上げる。



「も、モリカドセンセイ…」



一樺の後ろでは非常用ベルが鳴り続いている。

咄嗟に一樺は杜門の顔を見るなり、マズいと思った。



「これはどういうことだ」


「こ、これはそのっ!きゅ、急に男子が―――!」


「話は、生徒指導室で聞くとしようじゃないか、来い!」


「ぇ、えええええ!!!!」



一樺は杜門に連れられて生徒指導室へと行くことになった。



「(くっ、あいつ、知ってて逃げたな…!)」





∞∞∞∞∞





生徒指導室に入ると、椅子に座り対面には杜門が立っている状況の中で、

とりあえず先程何があったのか、事の経緯を説明する一樺。



「…なるほどな」


「だ、だから私は関係なくてっーーー…!」


「話はわかった。もう戻っていい」



とりあえずは理解してもらえたとホッとして生徒指導室から出ようとする一樺に声を掛けてきた杜門。



「待て」


「ま、まだ何か…」



もう勘弁してくれという気持ちと、何か小言を言われるんじゃないかと少し顔が引きつる。



「教室に戻る前に保健室へ行きなさい」


「へ?」


「一応、ケガがあるかどうか見てもらうといい」


「は、はい」



思わぬ声掛けに拍子抜けした一樺は目をパチクりさせ保健室へと向かった。



「…さて、あの男子生徒、確かーーー…」




杜門は一樺にぶつかったであろう男子生徒の処遇を考えていた。




その後、男子生徒に課題を出し、ついでにこの前の小テストの結果が悪かった一樺にも課題を出しておくことにしたらしい。




「なんで私まで!!」








∞∞∞∞∞








とある夜

一樺は家のリビングで寛ぎながらお笑い番組のテレビを観ていた。



「あははは!!」


「一樺―?今日は宿題なかったの?」



寛いでいた一樺に洗い物を終えた母親が話しかけてきた。



「んー?ないよー…ぶははは!」


「そう、ならいいんだけど」






∞∞∞∞∞






夜も深まる頃・・・



「あ~ひっさしぶりに面白い番組に出会ったわ~!」



自室に戻り、明日の準備をするためカバンを開けると、パサリと紙が落ちる。



「ん?…あああ!これ、宿題ぃいい!?完全に忘れてた…しかも、数学の…」



明日の授業で提出をしなければならない宿題をすっかり忘れていたのだ。

一樺は泣く泣く机に向かうことになるのであった。




∞∞∞∞∞




宿題が終わったのはいつものアラームが鳴る時間だった。



「や、やっと終わった…今回の、いつもより手強かったんだけど…」



なんとか宿題を終わらせた一樺は、眠たい目を擦りながら身支度をして学校へ向かうことにした。



「おはよー、一樺!」



朝日に溶けそうになって教室までたどり着いた一樺に、テンション高めのメイが声を掛けてきたが、一樺は欠伸をして机に突っ伏している状態だった。



「どうしたー?元気ないじゃん」


「んー…、昨日宿題があったのすっかり忘れててさぁ、急いでやったんだけど、結局朝までかかっちゃって…」


「あ~、昨日の宿題むずかったもんねぇ。それは、それは、お疲れ様でした。

さて私のできなかった問題を写させてもらいますか」


「え」





∞∞∞∞∞





休み時間・・・


 

欠伸をしながら眠気覚ましにと飲み物を買いに自販機へ足を進める一樺の耳に聞こえてきた。



「先生、僕ずっと前から好きでした!あ、いいんです!僕の気持ちを伝えたかっただけなんで!」


「そんなことを言われてもな…」


「…ッ!!(何これ何これ何これ!!どういう状況これ!?告白の場面に出くわしちゃった?何で私隠れてるのさ?覗き見する趣味はないけど…、聞こえてきてしまったものはしょうがない。どれどれ…相手は…って杜門先生じゃん!!?お相手は…男子生徒じゃん!!)」



この間のメイのBL本の様な展開だと一樺は思った。



「でも…苦しいんですっ、何度も諦めようと思っていても先生の姿を見る度に諦められなくて…お願いします!僕をこの苦しみから解放してください、先生しかいないんです!!」


「(なんつー場面に出くわしてしまったんだ私は)」



男子生徒に近付く先生にそれを見ていて動揺してしまった一樺はつい身動きをしてしまった。



カタンッ…!



「誰だ!」



杜門が音のする方向に向かって声を掛ける。物陰に近付いてくる杜門。



「(やばい…バレた!)」


「そこにいるのは…桐島か!?」


「ヒィッ!」



杜門は物陰の前に仁王立ちすると更に大きな声で一樺を呼ぶ。



「出てこい!桐島!」


「(ムリムリムリ!!出て行けるわけないじゃん!)」


「桐島!おい、桐島!聞こえているのか!?」


「(もう、ダメだぁ…出て行ってすぐ謝って立ち去るしかない!!)」


「桐島!桐島!!」


「す、すみませんでしたぁあああ!!!」


「…」


「…あ、れ?」



ガタンッと勢いよく立ち上がった一樺の目の前には先程までの光景は全く無く、

教室、杜門、椅子に座っている生徒達の光景が目に入った。

夢だとわかったと安堵する、と同時にしまったという冷や汗が出る。



「…授業中に見る夢はどうだ?」



杜門は目を吊り上げてこちらを睨んでいる。そして教室内の空気が凍り付いたのが

ヒリヒリと伝わってくる。恐る恐る杜門の顔をチラリと見る。



「ヒィッ!」



鬼のような形相の杜門の顔を見た一樺は小さく声を上げて固まってしまう。



「後で今日提出の全員分の宿題を持って、情報室に来なさい」


「は、い」




∞∞∞∞∞




コンコン


「失礼します…」



宿題を持って情報室へと入る。

情報室の中はパソコンがズラリと並んでいる、パソコン室のことだ。

杜門は情報科の授業も担当している。数学を教えていると同時にパソコンの授業、

所謂イワユル情報科も教えている。

故に、よくこの情報室に居ることが多いのだ。



「宿題、持ってきました…」



様子を窺うようにしてチラリと見る一樺、杜門は先生用のパソコンで何か作業をしていた。



「ここに」



言われた場所に宿題を置き、杜門の次の言葉を待っているとパソコンのキーボードを打つ音が止んだ瞬間一樺に緊張が走る。杜門は一樺の方に顔を向ける。



「…桐島、授業中に居眠りをしていた理由を聞こう」


「…すみませんでした。昨日数学の宿題があったことを忘れていて、夜遅くになって気付いてそれから朝まで宿題をしていたら睡眠とれてなくて、それで…」


「はぁ…何をやっているのだ…」



頭に手を当て呆れたような溜め息が室内に響き渡った。



「すみません…」


「最近の桐島は目に余る、この間も、廊下で衝突や、その…なんだ、ああいった本を持ち込んだり…今日は居眠りとは」


「(その内の二つは巻き込まれただけですけどね!)」


「いくら課題を出しても改善が見込まれないな…」



杜門は顔に手を当て渋い顔で少し考えている、その様子に一樺は早く説教が終われーと念を送っていると。



「そうだな……では今後、私の手伝いをしてもらおうか」


「手伝い?」


「そうだ、お前達のクラスだけでいい。授業前と後の教材運びや、宿題、

所謂課題集め等をな」


「え‶!それっていつまでやれば…」


「私が良いと言うまでの間だ、暫くは、だ。いいな」


「そ、そんなぁ~…」





∞∞∞∞∞


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