第3話 誰が一体何のために
呪いの正体を探るために、ディオンは子犬のヴィクターにリリィ以外の女性を抱こうとしても犬になるのかを尋ねた。
「な、何故そのような野暮なことを聞くのだ!?」
子犬は全身の毛を逆立てた。ディオンはいたって真面目に答える。
「これは大事なことです。変身しているのが殿下であるために我々は呪いが殿下にかけられていると思ってしまいます。しかし、実際のところ呪いがかけられているのが妃殿下である場合も考えないといけません」
ディオンの言葉に、子犬は目を大きくする。
「つ、つまり呪いが僕ではなくリリィにかかっているというのか!?」
「その可能性も考慮しなければならない、ということです。妃殿下におかれても呪いをかけたい輩は大勢思いつくでしょう。殿下と子供が作れない、ということになればどんなことになりますやら」
すると子犬は口吻にしわを寄せて、牙を剥き出しにして吠え始めた。
「そんなの許さないぞ! リリィを貶める奴がいるとしたら僕が許さない! どこのどいつだリリィを辱めて僕をこんな姿にしたのは!? 不敬罪じゃすまないぞ! 僕個人の手であの世に送ってやる!」
立ち上がってきゃんきゃんぱたぱた吠え始めた子犬を前に、ディオンは興奮しているヴィクターを窘める。
「まあまあ殿下落ち着いて、これはあくまでも仮定の話です。それに、殿下に呪いがかけられている可能性の方が高いと思われます」
仮定の話と理解して、子犬はようやく静かになった。
「むぅ、そうであったか……して、どちらに呪いがかかっているのか調べる方法はあるのか?」
ディオンは腕を組んで、なるべく子犬を刺激しないように言葉を選ぶ。
「これは確実な方法とは言えませんが……まず、殿下が他の女性を抱こうとして犬になるのかを調べないとなりません」
「嫌だ!!」
子犬のヴィクターがきゃんと叫んだ瞬間、急に人間の姿に戻った。青年に戻ったヴィクターはリリィのかけていったマントを改めて纏い、ディオンの前に座り直した。
「……殿下、呪いが解けたんですね」
「ああ、何という屈辱だ。だから人前で犬になりたくなかったのだ」
全裸にマントひとつという出で立ちのヴィクターは不服そうな顔をした。
「呪いが解ける条件は、おわかりなのでしょうか?」
「ああ、時間差が少々あるのだが……大体はその、それが落ち着いたら勝手に戻ることが多いな……」
ヴィクターは言い淀んだ。
「ふむ……それでは、やはり実験してみるのが一番でしょう」
「何を言うんだ!? リリィ以外の女性と僕が!? 冗談はよしてくれ!!」
ディオンは、てこでも言うことを聞きそうにない皇太子相手に頭を抱える。
「しかし、リリィ様に呪いがかかっていないことを証明するためには、殿下がひと肌脱がないことには始まりませんよ?」
ディオンの言い分も理解しているヴィクターは、マントひとつで悩み始めた。
「そうだなあ、リリィにそんな汚らわしい呪いがかかっていると思うだけで僕はそいつを抹殺しなければならない。でも僕に呪いがかかっているとするなら、やはり僕はリリィと僕との仲を邪魔しようとした奴を抹殺しなければならないし、一体どうすればいいんだ?」
「抹殺することは決まってるんですね……」
おそらく抹殺の仕事も自分が担当するのだろうと、ディオンはよくない想像をする。
「当たり前だ、人の幸せを踏みにじるような奴に生きている価値はない! どうせ卑劣で、悪魔のような奴に決まっている!!」
ヴィクターは断言するが、全裸にマントの状態では何を言っても様にならなかった。
「とにかく、犯人を見つけるためにも今殿下にできることはリリィ様以外の女性でも犬になるのかを確かめることですよ」
「そうだ、貴殿がそう言うならそうしなくてはいけないのはわかっているのだが……」
ヴィクターは逡巡したのち、きりっとディオンに向き直った。
「他の女など抱きたくない!」
ヴィクターにきっぱりと宣言され、ディオンは話が全然進まないことにすっかり困ってしまった。
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