第138話

馬鹿一行は去る前にも馬鹿な言動を起こした。

「イング将軍。この無礼者に天誅を」

「はぁ・・・。この馬鹿者が」

そう言ってイングは馬鹿の頭を殴り付ける。

「痛い。何をするんだ」

「何をするんだじゃない。立場というものをわきまえろ」

「皇太子である俺に対して無礼じゃないか」

「尊敬できる皇太子だったらよかったんだがな・・・。反省が足りないようだ」

そう言ってイングはさらに馬鹿の頬を連続でビンタする。

「外だからこれぐらいで勘弁してやる。国に戻ったら覚悟しとけよ」

アルはそれを苦笑いしながら見ていた。

仮にも仕える立場の人間が主家の者にこれだけのことを出来るのだ。

それを許されているイング将軍は信頼されているのだろう。

「お見苦しい所をお見せしました」

「いえ。無事にご帰国できることを祈っております」

「国に戻ったら改めて使者をお送りいたします」

「わかりました」

馬鹿の相手はさせられたが労せずロマニア帝国と関係を持てたのはプラスと考えていいだろう。

馬鹿は暴れようとしたので最終的にロープでぐるぐる巻きにされ去っていった。

「なんというか。凄い方でしたね」

「そうだね・・・。でもちょっと羨ましいかな」

「羨ましい?」

「イング将軍はどんな馬鹿なことをしても皇太子を見捨てないだろうね」

皇太子の為になら全てを投げ出してでも助けようとするだろう。

自分も配下の者に好かれているとは思うがあそこまでの忠義者はいない。

散々殴ったりしていたがあれは愛情の裏返しだ。

皇太子はそのありがたさを理解できていないだろう。

できればロマニア帝国とは仲良くやっていきたいものだ。

戦って負けるとは思わないがイングが率いる軍隊は手強いだろう。

「さて。まだまだしなければならないことがあるから戻るかな」

仕事の途中で抜け出してきたので仕事が山積みだ。

優秀な補佐官達のことだ。

こうしている間にも仕事の追加を持ち込んできていることだろう。

早く終わらさなければフランとの時間が無くなってしまう。

以前、仕事が終わらなくて時間が取れなかった時は大変だった。

フランの機嫌を取るために大変な苦労をしたのだ。

あのようなことが再び起きるぐらいなら仕事を終わらせる方がいい。

気合いをいれて書類と格闘する。

アルは就業時間ぎりぎりで書類を裁ききり危機を回避することに成功した。

フランが機嫌を悪そうにしていたのは演技であるのだが、アルがそれに気がつくことはなかった。

補佐官達もアルの事務能力を把握しており終わる量だけを押し付けているのだがこれもアルが知ることはなかったのである。

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