第115話

アンジェラの指示で使用人がお茶の準備をしてくれる。

アルはお茶請けとして非常食用にと普段から持ち歩いているクッキーをアイテムボックスから取り出した。

「アルはアイテムボックス持ちなのね」

「えぇ・・・。特に隠しているわけではいないですが・・・」

「広めるつもりもないとのことね。王族でなければ様々なところから引っ張りだこね」

アイテムボックス持ちというのは商人にしても軍の補給部隊にしても確保したい人材だ。

王族に生まれていなければ様々な人が接触してきただろう。

「これは・・・?食べていい?」

ジュリアはクッキーに興味深々のようだ。

「どうぞ」

アルはその様子を微笑ましく見つつ勧める。

「いただきます」

クッキーを食べたジュリアは満面の笑みを浮かべる。

「これ、甘くて美味しい」

「よかった。まだまだいっぱいあるので好きなだけ食べてくださいね」

ジュリアはクッキーを気に入ったようでぱくぱく食べている。

「そんなに美味しいの?」

娘であるジュリアの反応で興味を引かれたのかアンジェラも1つ手にとって食べる。

「これ・・・。お砂糖使ってる?」

「はい。マルコシアス王国では砂糖が豊富に取れますから」

「そう・・・。ちょっと、羨ましいわね」

輸送する必要があるため、どうしても甘味は貴重になる。

サーキス王国が独占していたときよりは安くなっているとはいえ、それでも気軽に食べられるようなものではなかった。

お皿を見ればクッキーがなくなりそうだ。

アルは追加でクッキーを取り出す。

「なんだかすみません・・・」

アンジェラとすれば軽く顔合わせをするつもりだったのだが、ジュリアがクッキーを食べ続けており申し訳なくなってくる。

「そんなに気に入ったならこれをどうぞ」

アルは紙袋に手持ちのクッキーを詰めてアンジェラに渡す。

ジュリアに渡さなかったのは我慢できずに食べてしまいそうだったからだ。

「ありがとうございます」

「アル。ありがとう」

ジュリアはそう言うとアルの上にちょこんと座ってきた。

「こら・・・。ジュリア」

アンジェラは慌てたようにジュリアを叱る。

「いえ。ここが気に入ったなら構いませんよ?」

アルはそう言ってジュリアの頭を撫でる。

ジュリアはにこっと笑ってご満悦だ。

妹がいたらこんな感じなのだろうか?

兄妹のいないアルとしては不思議な感じだった。

フランはその様子をみて子供ができたらアルはいい父親になりそうだなと考えていた。

アンジェラは客人に対して甘えるジュリアを見て頭を抱えたい気持ちになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る