第92話

アルは泣きつかれフランの腕の中で眠っている。

フランもかつて同じように辛い思いをしたことがある。

親しい護衛騎士がフランを守るために亡くなったのだ。

王族として泣くわけにはいかないと自分に言い聞かせていたが母親であるセリュスに言われたのだ。

いくら泣いてもいいのだと。

その時のフランはアルと同じようにセリュスの腕の中で泣きわめきそして泣きつかれて眠ってしまった。

王族として民の前で泣くわけにはいかない。

だが、決して悲しみを忘れてはならないのだと。

フランは犠牲になった騎士のためにも王族として恥ずかしくない人物になると決めたのだ。

すやすやと眠るアルを見て自分はちゃんと支えられているかを考える。

自分にできることを必死に考えていた。




「フラン・・・?そうか僕はあのまま眠ってしまったのか」

アルの隣ではフランが寝ていた。

恥ずかしいところを見せてしまった。

でも、そのおかげで気持ちは落ち着いている。

アルはフランの頭を優しく撫でる。

自分にはもったいない女性だと思う。

見劣りしないぐらいに頑張らなければと気持ちを新たにする。

1時間ほどしてフランが起きる。

「アル・・・?」

「フラン。もう大丈夫だから。ありがとう」

「泣きたくなったらいつでもいってね」

「うん・・・。でも、泣かなくてすむように頑張るよ」

今回は犠牲者を出してしまったが、犠牲者がでないように打てる手はいくらでもあるはずだ。

まずは、今回の犠牲者の遺族に会わなければ。

朝食を食べ終えたアルは書類を内政官に預け出掛ける準備をした。

向かう先は、亡くなった者の遺族のもとだった。

1軒1軒まわり謝罪してまわる。

遺族によって対応は様々だ。

泣き崩れる者。

怒る者。

アルは誠心誠意、言葉を尽くして謝ることしかできなかった。

全ての遺族のもとをまわるのに1週間かかった。

その間、マルコシアス王国の各地に散っていた船が戻り、再編された艦隊がヒンメルン王国に向け出発していた。

アルはマーカスが戻り次第、国葬をおこなえるように残っている配下と共に準備を進めた。

彼等の魂が安らげるように。

1ヶ月が経ちマーカスが帰還した。

マーカスは帰還するとすぐに国葬を執り行った。

フランもヒンメルン王国を代表して国葬に参加している。

街全体が喪服に伏し偉大なる英雄達の冥福を祈った。

彼等の犠牲を無駄にしないように気持ちを改める。

今回の戦闘で何がいけなかったのかアルとマーカスは徹底して話し合うことにした。

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