第91話

マルコシアス王国の派遣艦隊はダメージの少なかった船を選んでマルコシアス王国に戻ってきた。

先触れとして小型の戦闘艦を先行させていたため港には多くの人達が待っていた。

アルもその中に混じっており言葉をかける。

「無事に戻ってきてくれて嬉しいです」

「いえ。お預かりした艦隊をこのような姿にしてしまって申し訳ありませんでした」

「皆さんが無事なら船のことは気にしないでください」

「アルフレッド様・・・」

アルのアイテムボックスにはまだまだ大量の船が保存されている。

これぐらいの被害ならいくらでもカバーできるのだ。

「皆さんはとにかく休んでください」

「はい・・・」

戻ってきた船員達の中には怪我をしている者もいる。

とにかく怪我を治すこととしっかりとして休養を取らせるのもアルの役目だった。

連絡を受けとりマルコシアス王国の海域で哨戒をしていた船には戻ってくるように指示を出している。

戻り次第再編してヒンメルン王国に派遣する予定だ。

マーカスが艦隊を率いて逗留しているので急ぐ必要もないだろう。

指示を出し終えたアルはそのまま城に戻った。

城に戻ると心配そうな顔をしているフランが待っていた。

「アル・・・。船員の人達は大丈夫だった?」

「怪我人は多かったけど亡くなった人は少なかったからね」

残念ながら今回の海戦では死亡者がでている。

だが、想像していたよりは人的被害は少なかった。

「そう・・・」

フランは申し訳なさそうな顔をしている。

「フランが気にすることじゃないよ。派遣を決めたのは僕達だからね」

元を正せば軍事同盟の話を持ち出したのはアルなのだ。

その責を負うのはアルの仕事だった。

「悪いけど犠牲者のフォローをしないといけないから」

アルは気持ちを切り替えて書類の作成のために自室に引きこもった。

今回、犠牲となった者の中にはアルの同期も含まれている。

何も思わないわけではないが今は悲しんでいる場合ではない。

王族として遺族のフォローをしなければならなかった。

だが、アルは仕事に没頭することで自分の気持ちを押し隠していた。

書類を作り負えたときぽっかりと自分の心に穴があいたような気持ちになる。

学生時代、馬鹿騒ぎしたことを思い出す。

思いでが次々に思い出され彼等がもういないのだと自然と涙が溢れてくる。

コンコンと扉をノックする音がする。

返事の前に扉が開かれフランが入ってくる。

「アル・・・。泣いてるの?」

「フラン・・・。これは・・・」

フランは何も言わずにアルをぎゅっと抱きしめてくる。

「ごめん・・・。僕・・・」

「いいんです。泣きたいときはいくらでも泣いて・・・」

フランにそう言われてアルは声をあげて泣きはじめた。

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