第87話

マルコシアス王国派遣艦隊の指揮官はこの状況に怒りを覚えていた。

相手は再三の呼び掛けにも答えず味方の哨戒艦隊に襲いかかっている。

どこの所属かはわからないが敵対勢力であることにはかわりない。

「哨戒艦隊を援護しろ」

「はっ。全力で援護します」

船に乗っている魔法使いが風魔法を帆に当て所属不明艦との距離をぐんぐん詰める。

その間も、味方の哨戒艦隊は相手の攻撃を受け続けておりいつ沈没してもおかしくなかった。

派遣艦隊の本隊が割って入った時には哨戒艦隊は沈んでいないのが不思議なほどボロボロになっていた。

このままでは船と共に沈むしかない。

乗せられていたボートを海に降ろし哨戒艦隊の船員達が海に飛び込む。

派遣艦隊の本隊はそれを支援しつつ戦闘を続行する。

相手の被害はかなりのものになっていたがそれでも引くつもりはないのか次々に襲いかかってくる。

念のため指揮官は船員が避難を終えた味方の艦にも砲撃させる。

これはアルの指示によるものだ。

戦闘で船を放棄する場合、敵の手に渡らないように沈めるように言われていたのだ。

日が沈む頃になって相手の艦隊が距離を取る。

夜間戦闘そするつもりはないらしい。

警戒を怠るわけにはいかないがこれで一息つける。

被害は出たが船員は無事だ。

港に戻れば予備の船もあるため前線復帰も可能だろう。

まだ予断は許さない状況だがそれでも自分達は戦える。




ジェイクは王城にてマルコシアス王国の派遣艦隊が所属不明の艦隊と戦闘行動に入った知らせを受け取った。

この状況でしかけてくる国はそう多くない。

結論を出すのはまだ早いが動きの怪しかったサーキス王国の可能性が高いだろう。

出陣の準備をしつつ各地に派遣している密偵の報告を待った。

ヒンメルン王国でも最速を誇る方法で届けられた密書をみてジェイクは即座に決断した。

今回の相手はサーキス王国である。

各地に指示を飛ばしジェイク自ら騎士団を率いて出陣した。

国境では多くの兵士がジェイクを待ち構えていた。

直接ヒンメルン王国が被害を受けたわけではない。

貴族の中にはこの戦争を反対する者もいた。

だが、同盟国であるマルコシアス王国が戦っているのだ。

この状況でなにもしないわけにはいかなかった。

王命であると命じると反対していた者も素直にその指示に従う。

どうやら彼等は反対のポーズを取っていただけのようだ。

指揮する兵士の元に戻ると誰よりも獰猛な顔をしていた。

ヒンメルン王国の兵士達は国境を越えサーキス王国の地に足を踏み入れた。

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