第71話


フランの誕生日を来月に控えアルはとある作業をしていた。

それは、オリジナル小説の執筆である。

翻訳する傍らで自ら書いてみたいと思ったのもそうだが、フランの喜ぶ顔を見てみたいという思い付きだった。

描くのは敵国に捕まってしまったお姫様を幼馴染みの騎士が助け出すというベタな内容だ。

だが、これがまた大変だった。

書きはじめた頃は楽勝だと思っていたのに実際に書いてみると難しい。

紙を何枚も無駄にして作品が出来上がったのは誕生日の1日前だった。

「ふぅ・・・。なんとか間に合った」

最後に製本して完成だ。

アルはもう1つプレゼントを用意しようと思い護衛の騎士を連れて街に繰り出した。

今回向かうお店はお花屋さんだった。

花の選び方など知らぬため女の子へのプレゼントだと伝えてお花屋さんのチョイスに任せる。

花は明日の朝に城に届けてくれるとのことなのでお願いした。




フランの誕生日は国を挙げてのお祭りとなった。

街のあちらこちらで昼間からお酒をのむ人々。

その前をオープン式の馬車に乗ったフランが手を振りながら通りすぎる。

街をぐるりと1週して城に戻ってきたフランはドレスを着替えてパーティー会場に足を踏み入れる。

ここからはフランの誕生日を祝うために訪れた貴族の相手だった。

笑顔を絶やさずフランは丁寧に貴族の相手をする。

毎年のことなのでフランとしては手慣れたものだった。

解放されたのは夕方になってからだ。

これからは身内のみでの食事会だ。

笑顔を絶やさなかったフランではあるがさすがに疲労の色が見える。

「フラン。お疲れさま」

「アルもお疲れさま」

アルはアイテムボックスから手配していた花束を取り出してフランに渡す。

「誕生日おめでとう」

「ありがとう。とっても綺麗なお花ね」

「気に入ってもらえてよかったよ。後もう1つ用意してたものがあるんだ」

そう言って今度は執筆した本を取り出す。

「これは?」

「フランの為に書いてみたんだけど・・・」

「これをアルが?」

「うん・・・」

「すっごく嬉しい」

フランは心の底から喜んでいた。

今までもアルは翻訳した本を渡してくれたがそれは他にも読んだ人がいる作品だ。

だが、これはフランの為だけに作られたお話だ。

何より愛する人からの心配りが何より嬉しかった。

その様子をフランの両親は暖かい目で見ていた。

食事を終え部屋に引き上げたフランは夜なべして夢中で贈られた本を読んでいた。

未熟な部分は見られたがそれでもこの本はフランにとって宝物だ。

一生大切にしようと決めたのだった。

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