第70話

アルは現在とある本の翻訳をしていた。

この本は旅行記であるが大陸の東側について詳しく書かれておりどこで何が取れるなど詳しく記されている。

かなり昔に執筆された本であるが有益な物があるかもしれない。

そう思い翻訳を開始したわけであるがその狙いは的を得ていた。

香辛料であったり品質の高い絹など。

現在、仕入れられていない実に様々な発見があった。

アルは翻訳した本を手にジェイクに相談することにした。

ジェイクは仕事中であったが、アルを暖かく出迎えてくれた。

「アルフレッド殿。相談ということだったが・・・?」

「まずは、こちらを見てください」

そう言ってジェイクに翻訳した旅行記を手渡す。

ジェイクはそれに目を通すと理由を察したようだった。

「ふむ。中々に興味深い。が、我が国では難しいかもしれないな」

「と、いいますと?」

「陸路ではあまりに遠すぎる。となると、残る手段は海路だが・・・」

「あぁ・・・。近距離ならまだしも遠距離を航海できる船がないのですね」

あまりの興奮に忘れていたがヒンメルン王国は海軍に力を入れはじめたとはいえ遠距離に派遣できるほどの実力はまだなかった。

商会の方がまだましだが近距離での交易ならまだしも遠距離に耐えられる船を持っている商会が存在していない。

船は用意できるが遠距離航海に耐えられる程の実力はなかった。

マルコシアス王国の艦隊なら耐えられるが派遣されている戦力はヒンメルン王国を守るために派遣されているのだ。

それを無視して交易に投入するわけにもいかない。

「はぁ・・・。はしゃいでしまってすみませんでした」

「いや。こちらとしてもこの情報は助かった。友好的な国を通してだが入手できないか動いてみよう」

「はい・・・」

アルがとぼとぼと退出する姿を見ながらジェイクは微笑ましい気持ちになっていた。

アルは年齢にしては落ち着いている。

こうして子供らしい姿を見るとフランが可愛いと言っていた意味がよくわかる。

完璧を求められる王族としては失格だが、ジェイクも昔はよく失敗をして両親から怒られていた。

甘いところはあるがそれは経験を積めばどうにかなるだろう。

ヒンメルン王国にとってはアルを婿に取るという選択肢もあった。

だが、ヒンメルン王国は歴史のある騎士の国だ。

玉座に座れば自由に動きまわることが難しくなる。

それを考えれば自由に動きまわれるように手をまわしてやりたかった。

フランとアルは毎日楽しそうにしている。

その2人の関係を喜ばしく思っている。

愛しているからこそ2人には自由を与えてやりたいという親心だった。

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