第69話

アルが翻訳した本であるがフランから話が伝わったのかジェイクからとある提案がされた。

「アルフレッド殿さえよければ書き写してもいいだろうか?」

「構いませんけど・・・」

「ついでと言ってはなんだが他の本も翻訳してくれると助かる」

そう言って渡されたのはまだ見たことのない文字で書かれた本だった。

アルは興味を引かれ軽くページを捲ってみる。

書かれていたのはかつて大陸のほとんどを支配したとされる帝国の記録だった。

「どうだ?翻訳できそうか?」

「大丈夫です。でも、こんな本一体どこから・・・」

「たまに献上品に混じってたりしてな。読めないもんだから別の場所に保管してたんだ」

「なるほど・・・」

「アルフレッド殿さえよければ保管場所を教えようか?」

「僕としても色々な本を読みたいので助かります」

ジェイクに案内された場所には大量の本が保管されていた。

「これはまた凄いですね」

「建国当初から読めない本はここに保管するようにしててな。まぁ、読めないと意味がないんだけどな」

そう言ってジェイクは苦笑いしている。

「少し見て回っても?」

「あぁ。好きにするといい。持ち出すのも自由にしてもらって構わない」

「ありがとうございます」

アルは早速物色をはじめた。

選ぶのはフランが喜びそうな本が中心なのは秘密だ。

それとは別に政治的な意図がありそうな本も確保する。

アルは本をアイテムボックスに入れて自分の部屋に戻った。




アルの部屋ではページを捲る音とカリカリとペンの走る音が響いている。

集中して作業をしているアルの様子をフランが眺めていた。

アルは何かに集中するとまわりの音が入らなくなるタイプらしい。

それを知ったフランはこうしてよく忍び込み作業をしているアルを眺めるのが日課となっていた。

作業が一段落したのだろう。

アルが背筋を伸ばす。

フランはそのタイミングでアルに話しかけた。

「お疲れさま」

「フラン。来てたなら声をかけてくれればいいのに」

「邪魔したくなかったから。それに何かに熱中しているアルを見るのも悪くないし」

フランは声には出さないが心の中で「可愛いし」と付け足した。

「それで、今度は何を翻訳してるの?」

「ちょうど1冊終わったところだから読んでみる?」

「うん・・・」

アルが翻訳したものは身分違いの恋愛を描いた恋愛小説だった。

古今東西、恋愛小説は沢山執筆されている。

それでもこうして新たな作品に出会うと心を動かされる。

今回、翻訳した作品は女性向けだろう。

男の自分が読んでも十分楽しめる作品だったのだ。

フランも喜んでくれたらいいな。

そう思うアルなのであった。

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