第68話

アルは王城に戻ってくるとフランの所在地を確認する。

現在は有力な貴族の令嬢達を招いてお茶会を開いているようだ。

お茶会をしているなら顔を出すのは無粋だろうと自室となっている部屋に戻った。

部屋に戻ったアルは買ってきた本を取り出すと目を通していく。

夢中でページを捲っているとあっという間に時間が過ぎていく。

「アル・・・。アルってば・・・」

体揺すられて顔を上げれば少し怒ったようなフランの顔があった。

「フラン・・・?」

「何度呼んでも気がつかないんだから・・・」

「ごめん。お茶会は終わったの?」

「とっくの昔に終わったわよ。私は使用人から声をかけても返事がないって言われて様子を見にきたの」

窓の方を見ればオレンジ色に窓が染まっている。

それだけ熱中して本を読んでいたのだろう。

「それで何をそんなに夢中で読んでいたのかしら?」

「読んでみる・・・?」

そう言ってアルは読みかけの本をフランに渡す。

フランは本を受けとるが困ったような顔をする。

「アル・・・。全然読めないんだけど・・・」

アルの読んでいた本はここから東に行ったところにある国の言語で書かれた本だったのだ。

「ええっと・・・」

何となく気まずい雰囲気が流れる。

何とかしようと発した言葉は「翻訳しようか?」だった。

「いいの?」

フランは嬉しそうに言ってくる。

フランも本を読むのが好きなタイプだった。

それこそ王城にある本には全て目を通しているほどだ。

「後で紙とインクを用意してもらってもいいかな?」

「うん。すぐに用意させるね」

フランは嬉しそうな顔をして部屋を出ていった。

呼び止める時間もないほど俊敏な動きだった。

アルとして買ってきた指輪を渡そうと思っていたのだがタイミングを逃した形だ。

まぁ、チャンスはいくらでもあるだろうとこの時は納得していた。

だが、指輪を渡すタイミングはなかなかやってこなかった。

2人きりになる機会はいくらでもあった。

だが、アルが翻訳に集中していたり翻訳された本にフランが集中していたりと微妙なすれ違いが続いていたのである。

結局、指輪を渡せたのは買ってから1週間程経ってからだった。

「フラン。渡したい物があるんだ」

「なにかしら?」

アルは指輪の納められたケースをアイテムボックスから取り出す。

「開けてもいいの?」

「うん」

フランはケースを開けると嬉しそうな顔をする。

この様子なら気に入ってもらえたようだ。

「本当はもっと早く渡すはずだったんだけど」

「ううん。嬉しい」

フランは指輪を嬉しそうにずっと眺めていた。

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