第65話

マルコシアス王国の艦隊とソラニア王国の艦隊は海賊を相手にしつつサーキス王国の支配する海域に入った。

サーキス王国の警備艦艇が警戒するように距離を保ちつつ着いてくる。

あえてアルはそれを無視してサーキス王国の港街の1つに経路をとっていた。

アルの狙いは海賊ではあるが、サーキス王国の現状を調べるのも目的の1つだった。

それはヒンメルン王国の国王であるジェイクからの要請でもある。

サーキス王国との関係は完全に冷えきっており何かあればいつ、戦争になってもおかしくない状況だった。

アルとしては自分が火蓋を落とすつもりはないがサーキス王国の出方によってはどうなるかわからなかった。



途中、空気の読めない海賊に襲われたもののサーキス王国の港町にはすんなりと到着した。

アル達は緊張している港町を治めている貴族に出迎えられた。

「いったい我が国に何のご用でしょうか?」

「航海の途中で海賊に襲われまして・・・。引き取ってはいただけないでしょうか?」

「そうですか・・・。わかりました・・・」

貴族は苦々しい顔をしつつ応じてくれた。

犯罪者の受け渡しについては国際法の取り決めでこう定められている。

近隣の貴族は犯罪者を引き取り褒賞金を支払うこと。

これは人命を軽々しく扱わせないために定められた法律である。

とはいえ、引き取った犯罪者をどう扱うかは引き取った貴族の裁量に任されている。

多くは過酷な労働が課される犯罪奴隷として扱われる。

「それでは下船させますのでしばらくお待ちください」

海賊達はソラニア王国の船に乗せられており拘束された状態で続々と降りてくる。

最初は愛想笑いを浮かべていた貴族であったがどんどん顔色が悪くなっていく。

海賊が全員降りてきたときには生気を失った顔をしていた。

この街の領主である貴族も海賊達により利益を得ていた1人である。

だが、これだけの人数の褒賞金を払えばすっからかんになってもおかしくない。

サーキス王国の港街にやってきた理由は嫌がらせである、

少しでもダメージを与えられればという軽い気持ちである。

だが、この貴族にとってはクリティカルに刺さったようだ。

「払えないようならしばらくお待ちしますが?」

「いえ。すぐに支払わせていただきます」

大規模な犯罪集団が出た場合、近隣の貴族に負担の一部を払ってもらうこともあるそうだ。

だが、大抵の貴族にとってそれは恥じである。

対面を保つためには無理してでも支払うしかないのだ。

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