第61話

アルとフランはマルコシアス王国とヒンメルン王国を行き来する生活をしていた。

アルは8歳の誕生日をヒンメルン王国で過ごしたのだがサプライズが用意されていた。

マーカスとエルドラが密かにヒンメルン王国入りをしており家族総出で祝ってくれたのだ。

マルコシアス王国に王族が不在となるがこれは治世が安定している証拠でもあった。

エルドラとセリュスもあっという間に仲良くなり色々と話が弾んでいるようだ。

2人揃って子供はまだかと冗談を言ってくるがアルとフランはその度に顔を真っ赤にする。

アルはフランに魅力を感じていないわけではないのだが、精通がまだなのである。

これでは子供を作りようがない。

もちろんエルドラとセリュスもそのことは理解している。

結局のところ2人の反応が面白くてからかっているだけなのだ。

アルは誕生日にジェイクに馬を贈ってもらい乗馬をはじめた。

フランも付き合ってくれるのだがアルが操るよりもよっぽど上手く馬に乗る。

さすがは騎士の国のお姫様ということだろうか。

「アルフレッド様は呑み込みが早いのですぐに上達しますよ」というのは、指導してくれた騎士の言葉である。

実際、アルの上達は早かったのだがその理由はフランに格好よいところを見せたいという意地からきている。

フランはそれに気がついていたがあえて何も言わなかった。

自分のために好いた相手が頑張ってくれているのは嬉しいことだ。

だが、フランの懐く感情は格好よいではなく可愛いであった。




マルコシアス王国とヒンメルン王国の関係は良好だ。

経済面でも両国はますます結び付きが強くなっている。

それに対してサーキス王国の立場は悪くなってきていた。

それは私掠免許状を与えられた破落戸(ごろつき)達のせいである。

彼等は富を求め徹底的に他国の船を襲っていた。

それにより、サーキス王国を避ける商船が増えていたのである。

周辺国はサーキス王国に抗議文を送っているが我が国とは関係ないと突っぱねていた。

が、いつ、周辺国の怒りが爆発するかわからない状況だ。

「ウェスカーよ。何か言うことがあるのではないか?」

サーキス王国の国王は怒りを覚えつつ愚息に問いかける。

「父上。父上も最初は収益が上がったと喜んでいたではないですか」

「お前はやりすぎたのだ。しばらく謹慎していろ」

ウェスカーは現在、国内の商会からも商売を邪魔されたと恨まれている状況だ。

下手に自由を与えてはいつ襲われてもおかしくない。

こんな馬鹿な息子でもサーキス王国の国王、ルフェスにとっては可愛い息子なのだ。

「いいな?大人しくしているのだぞ」

警備の兵士に引きずられウェスカーが離れていく。

「こうなったら仕方ない。民の怒りを他の方面にそらさなければな」

年老いたルフェスは一人呟いた。

その声を聞く者は誰もいなかった。

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