第60話

まず、アルが取りかかったのは島民に漁船を与えることだった。

本島に指示を出し、野菜などの輸送も行う。

島民達には大量にあるココナッツを集めてもらい半分に割ってもらい天日干しをする。

日の光で乾燥させ乾燥させたココナッツを圧搾すればココナッツオイルの完成だ。

出来上がったココナッツオイルの使い道は技術が発展すれば増えるのだが現状ではランプの燃料ぐらいだろうか。

だが、まともな光のないこの世界では光源の確保というのは大切なことだ。

もちろん、代替えとなる油は存在するがそれでもその価格は決して安くない。

十分な利益を出すことが可能なはずだ。

髭の部分も集めてもらい圧縮する。

そうすることでココナッツファイバーを作り出す。

ココナッツファイバーはそのまま農業に使うこともできるし吸収性が高いので日常生活でも色々使うことができるだろう。

一緒に来た軍人達も積極的に動いているがアルはあえて陣頭指揮をとることでその存在感を島民に見せつける。

その姿をみて島民達の警戒感は徐々にであるが薄れていった。



アルは1週間ほど島に残り後の事を任せて本島に帰還した。

そのまま王城に向かうとフランが出迎えてくれる。

「アル。お帰りなさい」

「フラン。ただいま」

ただの挨拶であるが2人はこうして言葉を交わせるだけで嬉しかった。

「来たばかりなのに寂しい思いをさせてごめんね」

アルはそう言ってフランに謝罪する。

「いえ。公務で離ればなれになることは仕方のないことです。ですが、その分は埋め合わせしてくださいね?」

「うん・・・。僕にできることならなんでも」

アルがフランにできることはあまり多くない。

前世の知識を総動員しても答えは見つからない。

それもそのはずで、前世のアルは趣味に生きる男で恋愛に興味なんてなかったのだ。

「では、お部屋でゴロゴロしましょう」

「そんなことでいいの?」

「はい。公務でお疲れでしょうから。それに2人きりでのんびりする。贅沢なことだと思いませんか?」

「確かに・・・」

思い返せば自由に動けるようになってからはのんびりした記憶がない。

貧乏暇なしとは言うがそれぐらいマルコシアス王国は追い詰められていたのだ。

だが、今なら多少休んでも誰も文句を言わないだろう。

アルはフランと共に部屋でゴロゴロする。

そんな当たり前の空間がなんとも心地よかった。

フランがいるだけでただ休む時間も幸せで溢れていた。

夕食の時間までエルドラの指示で2人を邪魔する者は誰もいなかった。

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