第58話

「ただいま戻りました」

アルはフランを連れてエルドラに挨拶をしていた。

「おかえりなさい。アル。それにフランちゃんも」

「これからお世話になります」

「いいのよ。これからここが貴方の家になるのだから」

「お母様。何やら街が騒がしい気がするのですが?」

「あぁ・・・。それはね。こちらでも婚約発表をしようと思ってね。告知を出したのよ」

「なるほど・・・」

マルコシアス王国の民は基本的にお祭り気質である。

何かある度に待ちをあげて祝うのだ。

アルが生まれたときも街を挙げて祝ったと聞いている。

「2人共。長旅で疲れたでしょう?とにかく今は休みなさい」

「はい」

アルとフランはそれぞれ部屋に引き上げる。

フランの部屋はいつでも会えるようにアルの部屋の隣の部屋が用意されていた。




翌日、王城のテラスにアルとフランの姿があった。

これは、婚約した2人の街の人達へのお披露目だった。

王城の前には2人を一目見ようと多くの街の人達が詰めかけている。

それにアルとフランは笑顔で手を振る。

その度に街に歓声が響き渡った。

少し後ろからエルドラが声をかけてくる。

「あらあら。すごい人気ね」

「ここまで喜んでくれるとは思っていませんでした」

マーカスは嬉しそうな顔をしつつ言ってくる。

「私達の時以上だな。これはアルが頑張ってきた結果だろう」

アルが生まれてまだ7年だ、

だが、そのわずかな期間に国民に与えた影響は大きい。

漁船を提供することで食料事情を改善した。

軍艦を提供することで海賊を駆逐し国土の奪還を成し遂げた。

アルがいなければどちらも成し遂げられなかったことだった。

交易を通して大陸の品が安定的に入ってきている。

これもアルの功績だった。

「このような人が私の婚約者でとても誇らしいです」

「こちらこそ。これからもよろしくね」

「はい」




フランはヒンメルン王国の王族として英才教育を受けている。

14歳ながらその知識はマルコシアス王国の発展に活かされることになる。

特に活かされたのは農業に関する知識だった。

ヒンメルン王国から輸入された野菜の栽培方法を自ら赴いて現地指導するなど精力的に動いていた。

なぜ、王族でありながら農業の知識が豊富だったのか。

その理由は簡単だ。

農業こそが国を納める上で基礎となる。

その為に幼い頃から積極的に農業の知識を学んだのだ。

その腕前は本業の農家が裸足で逃げるほど優秀だった。

最初はお姫様にそんなことをさせるわけにはと遠慮していた農家達であったが、いつの間にか打ち解け頼るようになるのに時間はそうかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る