第57話

アルとフランの婚約発表には実に1ヶ月の期間を要した。

反対するヒンメルン王国の貴族を説得するのに時間がかかったというのもあるがアルが人前に出れるようなマナーを身に付けるのにそれだけの期間がかかったのだ。

「皆の者。よく集まってくれた。ここに我が娘、ヒンメルン王国第一王女フランソワとマルコシアス王国第一王子アルフレッド殿の婚約を発表する」

この婚約発表にはヒンメルン王国の貴族はもちろんのこと周辺国の貴族や王族も招待されている。

アルは先程から居心地の悪い視線に晒されていた。

それはフランとの結婚を狙っていた者達の恨みの視線だ。

自分達はずっと狙っていたのに横から掻っ攫われたのだ。

恨むなと言う方が難しいのかもしれない。

だが、隣を見れば嬉しそうに笑っているフランがいる。

きっとフランとの生活は楽しい物になるだろう。

それを考えれば自然とアルも笑みが浮かんでくる。

多少、嫌な思いもしたが婚約発表は大成功で終わった。



フランが嫁ぐ形になったヒンメルン王国の王位は新たに子供が王家に生まれればその子に。

生まれなかった場合はジェイクが存命の間はアルとフランの子供にも継承権が与えられることになった。

この取り決めに反対する者がいなかったわけではない。

だが、ジェイクは頑として譲らず押しきった形である。

思いがけない形で長期滞在となったマーカスとアルであるが、フランを伴ってマルコシアス王国に帰国することになった。

婚約が決まったときに母であるエルドラに手紙は送っているが婚約発表の場にいられなかったことで色々言われそうである。

それが、怖くもあり楽しみでもある。

フランとは滞在中、仲良くやっていたので相性が悪いということはないはずだ。

馬車の旅も終わり、スーウェンの港町に着いた。

待機していた船乗り込み目指すのは懐かしのマルコシアス王国だ。

アルは船に乗り込むとほっと息をはく。

ヒンメルン王国での生活が嫌だったわけではないが独特の揺れを感じると自分の居場所はここなのだとそう思う。

それを口に出してフランに伝えるとフランは笑っていた。

「アルは海の男なのね」と。

今後は船に乗ることが増えるだろう。

そうするとフランに寂しい思いをさせるかもしれない。

それだけが気がかりだった。

王族に生まれた以上は公務が付きまとう。

フランは明るく言ってくる。

「どんなに離れていても私はいつまでもお待ちしております。アルの帰ってくる場所はいつでも私の隣なのだから」

アルは必ずフランの元へと帰ると強く誓ったのだった。

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