第54話

「王妃様。夜分に失礼いたします」

セリュスの元を訪ねてきたのはフラン付きのメイドだった。

「どうしたのかしら?」

「それが・・・。フランソワ様がいつまで経っても戻ってこないのです」

「戻ってこない?それは大変ね」

この城でフランを害することは不可能に近い。

だとしたら自分の意志でどこかに行ったということになる。

「ふむ・・・。もしかしたら・・・」

セリュスは小さな可能性ではあるが思い当たる節があった。

と、言うのも焚きつけたのは自分だ。

フランの性格を考えると実行するとは思っていなかったがそれだけ本気ということだろう。

「客室に向かうわよ」

「客室ですか?」

「いいからいいから」

フラン付きのメイドは訳の分からぬままセリュスの後に続く。

セリュスは物音をたてぬようにしつつも中途なく扉を開き中を確かめる。

「あらあら・・・。フランもやるわね」

中ではアルに膝枕をしながら抱き着くような形で眠るフランの姿があった。

メイドもその様子を見てどうしたらいいのかわからないようだ。

「どうしたら・・・」

まだ幼いとはいえ男と一晩寝たとあっては醜聞もいいところである。

実際に何があったかが問題でなく一晩共に過ごした。

その事実が重要なのだ。

「いいんじゃないかしら?坊やには可哀そうだけど利用させてもらうわ」

「と、言うと?」

「マルコシアス王国側には責任をとってもらうわ」

セリュスはそう言って悪い笑みを浮かべていた。




ちゅんちゅんと言う鳥の声でアルは目を覚ました。

頭、全体が柔らかい感触に包まれている。

いつまでも包まれていたそんな誘惑にかられつつも冷静に状況を確認する。

自分は今、フランに膝枕をしてもらい抱き着かれるような形で横になっている。

フランが起きぬように抜け出せないかと思案するが思ったよりしっかりフランに抱き着かれており少しでも動けばフランを起こしてしまいそうだった。

どうしたらいいのか考えはするものの解決策は見つからない。

そんなことを考えていたら「んっんっ・・・」と言いつつフランが目を開く。

フランもこの状況がうまく呑み込めないのかフリーズしてしまう。

「お、おはようございます」

アルはなんとかそう声をかける。

「おはようございます・・・」

フランもそう返してくるが顔がみるみる赤くなっていく。

「放してもらっても・・・?」

「あっ・・・。はい・・・」

アルは体を起こして改めてフランと向き合う。

2人共、無言で見つめあう。

が、2人はどちらともなく笑いあう。

やらかしてしまったことは仕方ない。

この後の対応が重要だ。

だが、この状況を知り爆弾を投下してくる人物がいるなど予想もできなかった。

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