第52話

時は少し戻る。

アルは現在フランの組んだマナー講座にダンスのレッスンに取り組んでいた。

これは今後のことを考えた結果だった。

自国に引きこもっているなら関係ないだろう。

だが、これからも大陸の国家と付き合っていくならしっかりと社交の技術を身に付けておく必要がある。

そんなわけでアルは苦痛とも思えるような時間を過ごしていた。

先生役の使用人達は教えている間は非常に厳しい。

だが、指導が終われば必ず謝ってくる。

フランは常にいるわけではないが時間を作っては様子を見にきているようだ。

アルは教えてもらうのに必死で気がついていなかったが使用人が終わった後にこっそりと教えてくれた。




フランは公務をこなしつつ出来るだけアルの顔を見に行っていた。

苦戦しつつも一生懸命に取り組んでいるアルの姿は格好良いと同時に可愛かった。

本当なら頑張っているアルにご褒美をあげたい。

でも、何をあげたら喜んでくれるのかがわからなかった。

思い悩むフランを見て母親であるセリュスが話しかけてくる。

「何を悩んでいるのかしら?」

「お母様・・・?いつからそこに・・・」

フランとしては隙を見せたようで恥ずかしい。

「まぁまぁ。私のことはいいから悩みを言ってごらんなさいな」

「頑張っているアルフレッド様に何か出来ることはないかと思いまして」

「なかなか可愛らしい坊やね。気に入ったのかしら?」

「気に入ったって・・・。アルフレッド様は物じゃないんですよ?」

「物の例えよ。でも、あの子が欲しいなら遠慮してたら誰かに取られちゃうわよ?」

「えっ・・・?」

「存在が知れ渡ればうちの貴族連中もそうだけど他国の貴族や王族も婚姻を狙ってくるでしょうね」

「それは・・・」

考えてみればわかることだ。

アルほどの好条件を見逃すほど彼等は甘くないだろう。

「私から言えることは1つ。圧倒的な差をつけられる今のうちに貴方という楔を打ち込んでしまいなさい」

「でも、私の方が歳上ですし・・・」

「そんなことは些細な問題よ。もっと自信を持ちなさい。貴方は可愛いのだから」

それだけ言ってセリュスは去っていった。

セリュスの言葉を思い出す。

「楔を打ち込む・・・」

婚姻の誘いは今まで沢山受けてきた。

だが、理由をつけて恋愛を避けてきた。

フランは恋愛初心者だが恋愛に興味がないわけではないのだ。

戸棚から恋愛小説を取り出すと何度も読んだ箇所をじっくりと読み直す。

ベタな展開かもしれないが必勝方でもあると信じてそのシーンを思い浮かべる。

実際に行動に移すことを考えると顔が熱くなってくる。

フランは深呼吸をして落ち着く。

決行は今夜だ。

覚悟を決めて時間が過ぎるのを待っていた。

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